『9月15日』 今日もいつもと同じように下忍の任務をこなして解散を言い渡された7班の面々。 そして、いつものように仲良くみんなで帰るのかと思いきや。 「じゃ、俺今日これから用事あるから、先に帰るってば!」 とナルトが手を振りながら走り出していて。 後に残されたサスケ、サクラ。 今日誕生日で、『お祝いして欲しいなぁ〜vv』オーラを発していたカカシ。 あまりにも突然な出来事に誰も何も言えなくて。 カカシは、数分意識が此処ではないどこかに飛んでいた。 しかし、腐ってもカカシセンセー。 このまま素直に引き下がるような神経は持ち合わせてなくて。 「じゃ、俺も帰るから。お前ら、気を付けて帰れよ。」 じゃ。と片手を挙げて次の瞬間にはそこにカカシの姿はなく。 その顔が何処となく引きつっていたような気がするのはきっと気の所為ではなかった筈だ。 今日一日中、あんなにも露骨な態度で居たのに気づいて貰えない筈がなくて。 もし、本当に気付いていないのなら鈍いのも此処に極まった感じである。 それに、ナルトのことである。知らないはずがない。 あのカカシが自分の誕生日を恋人に告げないわけがない。 おかしい。サクラは首をかしげながら、隣に立ったままのサスケに声を掛けた。 「ナルトの奴、本当に何もしないつもりなのかしら?どう思うサスケ君。」 「俺に聞くな。(別に祝ってやらなくてもいいぞ。ドベ。)」 「サスケ君。なんか今変なこと考えてなかった?」 「……。してない。さっさと帰るぞ。」(内心ヒヤヒヤ) 「あ!!サスケ君待って〜!!」 サスケの微妙な空白は無視をされ。仲良く?帰ってゆく二人。 さっきまでの、考えなんていつの間にかどこかに置き去りにされていた。 ああ。今日も空が青かった。 + + + + + + 数日前に聞こえた、あるくの一達の会話。 『カカシ上忍。今月の15日誕生日なんですって。』 『ホント?誰と、過ごすのかしら?』 『誰って。彼女じゃないの?』 『羨まし〜。誰かしら?』 『知らないわよ。』 『良いわよね〜その誰かさんは。あたし達なんてプレゼントでさえ貰ってもらえないのに。』 『"要らない"の一喝だもんねぇ〜』 『ほんと。そうよね〜』 たまたま聞こえてしまったカカシセンセーの誕生日という話。 (知らなかったってば。) あの人は人のことについてはしつこいぐらい聞いてくるのに。 自分の話になるととたんに曖昧な返事でごまかして。 いつの間にか言いくるめられていて。 15日が誕生日だなんて知らなかった。 急いで家に帰ってカレンダーを見れば、後3日しかなくて。 今更、プレゼントを買うには時間がなさ過ぎて。色々と考えた結果。 ケーキを焼くことにしたのであった。 独り暮らしが長いだけあって別に、料理の腕は悪くない。 いっつもラーメンを食べてるのはただ、作るのと、買い物に行くのが面倒なだけで。 「がんばるってばよ!!」 と自分に宣言をすると、箪笥の中から黒のワンピースを引っ張り出す。 ケーキを作るのにどうしても本が必要で。町に買いに行かなくてはいけないのだが。 いつもの格好のままで、ケーキの本を選ぶのはなんだか、恥ずかしいので。 お色気の術の応用を使って買いに行くことにしたのだ。 「変化!!」 ぽん。と白い煙の中から現れたのは、13・4の可愛らしい女の子。 いつもは綺麗な金色の髪を、ワンピースに合わせて黒くする。 瞳の色は、青のままでも違和感がないのでそのまま。 するりと、ワンピースに腕を通し仕度をする。お財布を持って。 「いってきます。ってば。」 と、返事が返ってくることはない部屋に言葉を残して。本屋へと足を運ぶ。 町の中でもその存在は良く目立っていて。さらさらの黒髪に可愛らしい笑顔。 何もするなというほうが無理な話。しかし、今日は何事もなく本屋まで行き着くことが出来た。 (ケーキ。ケーキ……あった!!) お菓子の本が並ぶ中で『アナタにも簡単いつくれる、ケーキの本!!』という背表紙を見つけ出し、 値段もさして高くなかったのでこれに決定。 本をレジのトコに持って行けば、本を袋に入れてくれたおじさんが 「誰かの誕生日かい?」 とたずねて来た。 「うん!センセーの誕生日!!」 「そうかい。うまく出来るといいね。」 「ありがとうってば!!」 嬉しそうな笑顔を浮かべてお礼を言えば、おじさんも嬉しそうに笑って。 「毎度あり。」 と言ってくれた。今日はなんかちょっと幸せな日。みんな優しくしてくれた。 でも、これが本当の姿じゃないだけに手放しでは喜べないが。 ナルトは嬉しい気分のまま家に帰ってゆく。 + + + + + + ベッドに寝転がったまま本のページをめくってゆく。どれもみなおいしそうなケーキであった。 作り方もさして難しいわけでもなさそうだ。そして、ふっと思い出したこと。 「センセーってばあんまり甘いの好きじゃないみたいだし。」 今年の2月にあま〜いチョコレートを贈ったらおいしそうに全部食べてくれたのだが、 その後胸焼けがするとブラック珈琲をさりげなく飲んでいるのを思い出す。 「甘くないのがいいのかなぁ?」 更にページをめくっていくと 『甘いのがダメな彼氏の為に!!さっぱりとした紅茶ケーキの作り方。』 というページを発見して。 「これだってばよ!!」 と満面の笑みを浮かべて。作り方と材料をしっかりと読んでゆく。 確かに甘くはなさそうだ。作り方も難しくなさそうだし。 でも、うまく出来なかったらいやなので練習ぐらいはしておきたい。 「一回作ってみるってば。」 帰ってきたままの格好だったが大して気にせず、そのままエプロンを上から着て台所へと向かう。 約2時間後。 「できた!!」 部屋の中に紅茶の良い匂いがする。失敗することなく完成。 本当はこれに甘いホイップクリームをたくさんつけたいところなのだが、それをしては意味がないので却下。 試しに少し切って食べてみる。 「うん!上出来だってば。」 自分的には美味しく出来たと思う。 もう少し、紅茶の葉を足したほうが美味しいかもしれないな。 と、改良すべき点を考え。嬉しそうに笑ってカレンダーを見る。 15日。本番まで、後3日。 そして、冒頭にまで戻る。改良点を良く反復して。ケーキを焼く。 冷まして箱に詰めて。リボンをかけて。それを、手に抱えてカカシの家へと走り出す。 「カカシセンセーきっとびっくりするってば!」 センセーの驚いた顔を考えながら家への道を急ぐ。 しかし、家の前に着くと流石に緊張する。今更、要らないとか言われたらどうしよう。とか。 先のくの一達の話を思い出しベルを鳴らせずに居ると中からドアが勝手に開く。 そこには額当ても口布も外してラフな格好をしていたカカシが立っていて。 「何、突っ立ってんの?」 「!!!」 まさか勝手に開くなんて思って居なくて、手に持っていたケーキの箱を後ろに隠してしまった。 何でそんな事をしてしまったのかナルト自身も良く分からなくて。 渡すタイミングをいしてしまった。そのまま無言のときが経って。 「玄関に居るのもなんだから。中入りなよ。」 と、カカシが促す。 「お邪魔しますってば。」 「どーぞ。」 部屋の中は相変わらず要るものしかない、がらんとした感じがして。 自分が遊びに来るようになってから少しましになったが、それでもあまり変わらない。 ナルトが部屋の中で居辛そうにそわそわしているとカカシがしゃがみこんでたずねる。 わざわざしゃがんで目と目を合わせて会話をするようになったのは、ナルトと話す様になってから。 「どうしたの?」 「……あ…の……。」 「何?」 後ろに持っていたカーキの箱をカカシに突き出し。 「誕生日。オメデトウってば。」 「………。」 カカシは嬉しさと驚きで固まった。しかし、ナルトは拒絶されたのだと思って箱を引こうとする。 「やっぱ、要らないよね!!美味しくないかもしれないし。他の誰かに……」 「要らないなんて言ってないでショ。」 後ろに隠そうとする手を取って箱を受け取る。 「ナルトがくれるものをさ。俺が要らないなんて言う訳ないでショ?」 「……。」 「開けても良い?」 「うん。」 かさかさと包装が外れて。箱を開けると香ばしい紅茶の香りがした。 ふんわりと膨らんでいて。見た目だけでも十分においしそうであった。 「ナルトが作ったの?」 「本……読んで。」 「アリガトウ。ね、食べよ?」 「紅茶、いれる?」 「うん。お願い。」 顔を上げればこの上なく嬉しそうに笑う先生の顔が見えて嬉しくなる。 パタパタと。忍には似合わない足音を立ててキッチンに走る。 その姿を見ながらもし来なかったときは夜這いでもしようかな。 なんて不埒なことを考えていたカカシなのだが。 手作りのケーキを持ってきてくれたから今日のところはこれを食べて大人しくして居ようか? しかし、せっかくの誕生日なのだから少しぐらい我侭を言っても聞いてくれるだろうか? 言うか、言うまいか。カカシが一人で悩んでいる間に、ナルトは紅茶を入れてお皿とフォークとナイフをお盆に載せて 戻ってきた。 「センセー何難しい顔してんの?」 「ん?ん〜何でもないよv」 リビングのテーブルにケーキが切り分けられる。 「はい。ってば。」 「ありがと。いただきます。」 「どうぞ。」 そのまま、カカシがケーキを食べるのをナルトはじっと見詰めていた。 ケーキがカカシの口の中に入って行って。どきどきしながら、 「おいしい?」 ときいてみる。まずい。って言われたらどうしよう。とか思いながら返事を待つ。 カカシはナルトの顔を見て 「うん。すっごくおいしい。」 と笑った。 「良かったぁ〜。」 へなへな。とテーブルに崩れる。そんなナルトを見ながら、可愛いなぁvv と笑うカカシが居て。そのことにナルトは気付いていない。 そして、爆弾発言まであと少。 「ナルト、こっちおいで。」 「ナニ?」 ぽてぽてとカカシの前まで行くと、そのまま膝の上に抱き上げられる。 「うわ!!ナニすんだってば!!」 「これくらいのことで、驚いてちゃダメだぞー。」 「ち、ちが!!」 「あ〜。はいはい。分かったからね。静かにして。」 「………で、何だってば。」 尋ねるようにカカシの顔を覗き込めば、色の違う瞳がナルトを捉える。 「先生。誕生日プレゼントにもう一つ欲しいものがあるんだけど?」 「なに?」 警戒心の欠片もなく聞き返す。そのナルトを抱きしめると、耳元で囁く。 『ナルト』 「!!!!!!」 多分、顔は真っ赤のはず。 ナルトは「何バカなこと言ってんだってば!!」と反撃しようとしたら口を塞がれてて。 やはり、大人は子供の何倍も経験豊富で。狡い生き物だ。 深く口付けられればもう、主導権は子供にはなくて。 焦点の合わなくなった子供を抱き上げて、寝室に向かう狡い大人。 長い夜は始まったばかり。
バカでごめんなさい。 今更カカシ先生の誕生日祝いかよ。って思われた方多数いらっしゃることでしょう。 季節に合わないものを書くのがいつだって得意です。ごめんなさい。
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