その日桜色の子供が、任務終了後に精一杯の自己主張と共に、嬉々として手を挙げて発言した。 けれど、金色の子供は、ソレがどういうものなのか知らずに、首をかしげ。 ソレを微妙な表情の変化で受けた黒色の子供。 桜色の子は心底驚いたように目を丸めて、事細かに説明を始めた。 たまに、黒色の子供が桜色の子供の説明に訂正を加えながら。 ソレを見ていた銀色の大人は、表情には出さないものの、微妙な心境に陥っていた。 星に願いを。 「はい。今日でこの任務は終了。報告は俺がしておくから。後ね、此処のご主人がお礼に 後で美味しい物贈ってくれるらしいから、期待しとけよ。あ、明日は任務ないからお休みね。 以上、解散。」 今日も、大名屋敷の生えに生えきってしまった雑草抜きと言う任務を誠実にこなした、上忍 はたけカカシ率いる第七班。 草特有の青臭さと泥で真っ黒になっていた。 しかも、今は初夏ももう過ぎ仲夏を迎えようと言う時期で。 照りつける日差しは暑いし湿度も高い。 時たま涼しい風が頬を撫でるが、ソレも気休め程度にしかなってはおらず。 その、猛暑の中。 敷地があまりにも広大なために、任務終了までに一週間を要したことも、明らかにしておく 必要があるだろう。そのお陰なのかは分からないが、此処の主の一人息子である鈴(れい)に 七班の面々は大変気に入られてた。 同い年、もしくはソレに近い年齢の友達と言うのは、大名などでは作りにくく。 同じ、名家の育ちであると言う子供でも、女の子だったり、自分よりもっと大人だったりしたりと。 そういうこともあってか、二つしか離れていない七班の面々は、話せば何かと話題が合う年の差 だったりしたのだ。その、大名の一人息子の鈴君だが、これがまた、一癖も二癖もある奴で。 流石、大名のお屋敷で育った、お子様だと思われる発言や、ちょっと……いや大分おませな 発言など。多少耳を疑うこともあったり、なかったり。 その鈴君の一番のお気に入りはやはりナルトで……。 鈴君いわく、 『サスケ兄ちゃんはいっつもむすっとしてて機嫌悪そうだしぃ、 サクラ姉ちゃんはサスケ兄ちゃんしか眼中にないって感じでぇ。 その点、ナルトは優しいしぃ。やっぱ、お嫁さんにするならぁ、ナルトがイイよね!』 とのことであった。この発言には、流石のサクラも目を丸くした。 常日頃、サクラはナルトの人を天然で惹き付けてしまう性格を把握していた。 何を隠そう、自分の班の上司と同期が班の中の紅一点の自分よりも、彼にご執心なのだから 否応なしに、そういったことに慣らされていた。 『ナルトは私だって可愛いと思うわ。でも女の私を差し置いて、 サスケ君のハートをゲットするなんて許せないのよ!!しゃーんなろー!!』 と心の中で騒いでいるサクラが居るとか居ないとか。 勿論、そのときその場にカカシもサスケも居たわけだから、一騒動起きなかった訳ではない。 話題の中心であるはずのナルトは全く事の重大さを分かっておらず。 首をかしげていたのだが、そのナルトのしぐさを見た鈴が 『ナルトカワイイ〜!!』 と言って抱きつきさえしなければ、本当の乱闘は起きなかったであろう。多分。 まぁ、何故お嫁さん発言にいたったのかは定かでないが、ナルトの精神年齢が七班の中で一番 低かったことも相まったのではないだろうかと言う考えが、正解に近い気がしてならない。 補足しておけば、抜き終わった雑草を片付けている最中もナルトの周りをちょこまかと動き 回ってはちょっかいを出し。その度に、カカシとサスケがぴりぴりとした空気を放っていた。 そして、文頭へ戻る。 「カカシ先生!!今日何の日だか知ってますよね!?」 意気揚々とサクラは言う。 しかし、カカシは何の日だか見当も付かずに首をかしげた。 女の子の気にしているイベントの日付なんて、いちいち覚えなんかいられない。 「ん?何かあったか?」 「…七夕」 ぼそりと、サスケの口から告げられた一言。 あぁ。納得。といわんばかりに手を叩く上司。 「ああ、もうそんな季節か」 まだ、短冊とか書きたい年頃なのかねぇ。いやぁ、初々しい。 「タナバタ?」 「「「「………知らないの(か)?」」」」 異口同音。見事に四人の言葉がリンクした。 もう、ものの見事に。 ここまでの連係プレーが出来れば文句ないよといったところだろうか。 「ナルト……アンタ、七夕知らないの?」 「サクラちゃん、タナバタってなんだってば?」 「短冊に願い事とか、書いたことないのか?」 「タンザク?ネガイゴト?」 「イルカ先生と一緒にしてたんじゃないの?」 「うううん。してねぇってばよ」 「ナルト、今まで一回も七夕の経験なし。とか?」 「だから、ねぇーってばよ!!」 上から順に、サクラ、サスケ、カカシ、鈴に矢継ぎ早に繰り出される疑問。 イベント好きなナルトが七夕を知らないとはこの場にいた誰もが信じられなかった。 しかも、季節の行事を重んじているあのイルカ先生が、ナルトと七夕を過ごした事がないとは 俄かには信じがたかった。 「カカシ先生、七夕ってそんなに珍しい、一部地域の行事でしたっけ?」 「サクラ、俺も今、そう思ったところだよ」 「何現実から目ぇ背けてんだよ。このウスラトンカチ」 「……カカシさん」 思案げに顎に手をやっていた鈴が、おもむろにカカシに声をかけた。 此処一週間の間で、初めてかもしれない。 「何でしょう?」 「此処から、南に十キロ行ったとこに、俺ん家の竹林があるから、よさそうな奴一本切ってきて。」 「南に十キロ。また、アバウトだね。」 「そこら一体、竹林しかないから、馬鹿でも間違わないよ」 「あら、そう。口の悪いガキはお仕置きだけど、ま、いまんとこは許しといてあげるよ。 サスケ、鈴君がナルトに手ぇ出さないように見張っとけよ」 「お前に言われなくても、俺のためにやってる」 「あ、そう。じゃ、俺は竹取ってくるから。後のことは鈴君がやってくれるでショ。任せたよ。」 「いってらっしゃい」 一人、話題に残されたナルト以外の者は、さぁ忙しくなるわよ。と、鈴の発言を待った。 「カナン!!」 程なく、屋敷の中から一人の女性が走ってきた。 綺麗なストレートの長い黒髪が背中で揺れていた。 「何でしょう?」 「浴衣、大急ぎで五着出して」 「五着ですね。かしこまりました」 一礼をして、カナンは再び屋敷の中に走って消えた。 鈴は、ナルトたちのほうを振り返ると、 「まず、汗流してからいろいろ用意。縁側で短冊とか作れるから。俺は、紙探してくるから、 その間に汗流しといて。風呂場の位置は、もう何回か使ってるからまさかもう分かるよね?」 取り敢えず竹が来るまでは少々暇なのでシャワーを進めることにしたらしい。 多少、敬語がなっていないのはこの際目をつぶっておこう。 未だに、まだ蚊帳の外にいるナルトは何だかさっぱり分からないままサクラとサスケに引っ張 られて風呂場へ直行と相成った。 □■□■□■□■ 「のぞいたら殺すわよ」 「のぞかねぇーってばよ」 「サスケ君、ナルトに変なことしないでよ」 「…………ぁあ」 返事までの多少のタイムラグが気になったが、仕方なく別れていく。 大名屋敷となりますと、豪華な風呂場が二つ三つくらいありまして。 此処の歴代の党首が風呂好きだったのがこうした形で現れていて。 金持ちは恐ろしいと思いました。 □■□■□■□■ 探していた浴衣はそれほど奥には入っていなかったので、すぐに見つかった。 脱衣所から、カナンが声をかける。 「サクラさん、浴衣置いておきますね」 「ありがとうございます」 「あの…着れますか?」 「ご心配には及びません。母に着付けは習っていますので」 「そうですか。それで…実は問題があって……」 「なんですか?」 バスタオルを巻いて、顔だけ出すサクラに向かってカナンは口を開いた。 「実は……」 □■□■□■□■ 「何でお前が青で、俺が赤なんだってばよ!!しかも、はながらとかおかしいってばよ!!」 「ウルサイ。ジャンケンに負けたほうが赤を着るって言って来たのはお前だろう」 「…そうだけど…でも赤はヤだってば!!」 「すみません、ナルトさんのサイズは、昔お嬢様が着ていたソレしか残っていなくて」 「べつに怒ってるんじゃなくてっ!!」 「なら、つべこべ言うな」 「あああああ」 実は、あの時カナンがサクラに相談していたことはこういうことだったのだ。 浴衣は五着あった。 しかし、子供用は女用が二枚と男用が二枚しかなくて。 男用のうち一枚は鈴君用。これは決定事項。 そうすると、男用が一枚足りなくなってしまう。 しかし、女用は一枚余っている。 その上、困ったことにその一枚がちょっと他のよりも丈が短いということ。 サクラには少し短くて。ナルトにはぴったり。 しかも、ソレが可愛いほうときたものだから、カナンとしては言いにくいところであった。 『どうしましょう?』 『ナルトなら、この柄でも似合うからきっと大丈夫ですよ』 『でも、ナルト君は男の子ですし』 『この際、関係ないですよ。似合えばいいんです。似合えば』 『そうですか?』 『そうです』 これはサクラの趣味であって、男の子が女の子用を着せられて気持ちいいはずもなく。 しかし、サクラとしてはサスケ君が花柄の浴衣着てるなんて耐え切れない!! ということもあり。 ナルトの花柄浴衣は九割がた決定事項だったのだ。 「あら。ナルト良く似合ってるじゃない?」 「…サクラちゃん…あんまりうれしくなってばよ」 「そう?サスケ君、その浴衣超ステキ!!かっこいいわ!!」 ナルトの浴衣は、三秒ほどでサクラの中の話題から消え去った。憐れ、ナルト…。 「ナルト、カワイイよ」 いつの間にか紙束を両手に持って立っていた、鈴が純粋な気持ちでナルトをほめた。 ソレを言う相手が仮にも女の子であったなら。 顔を真っ赤にして喜ぶか、恥らいかした事であろう。 黙って、突っ立ていれば中々これがカッコいいのだから。 鈴の浴衣は涼しげな藤色。全体に柔らかな絞りが入っているのが特徴的である。 「…ありがとうってばよ……」 「どういたしまして。じゃ、短冊作るよ?」 「カカシセンセーは?」 「今、風呂場」 「ドコの?」 「二階の、俺専用んとこ」 「「「専用………」」」 雀家の風呂好き此処に極まれり。 一人につきひとつ、専用の露天風呂があると考えても間違いないだろう。 趣味に此処まで金をつぎ込んでも家が存続していける辺りが大名である。 いや、趣味に金をつぎ込めるのが大名なのだろう。 □■□■□■□■ ところ変わって縁側で、仲良く短冊作り。 しかし、短冊に願い事を書く前に、ナルトにいろいろなことを説明しなければならなかった。 本当に、ナルトは七夕に関する常識的知識を知らなかった。 殆どではなかった、『 皆 無 』七夕の『タ』の字も知らないくらいに。 例えば、こんなこと。 「ねぇねぇ、タンザクってなに?折り紙でもするの?」 「短冊は願い事を書いて、笹に吊るす物よ」 「願い事?」 「あんたなら、『火影になりたい!!』とかがいいんじゃない?」 「……ああ、うん」 なんとなく納得。 そのまま、なんとなく作業は進んでゆき。 後から、カカシも作業の中に入って。日が沈むころには、完成した。 「サクラちゃんは願い事なんて書いたの?」 「私?もちろん…きゃっ!サスケ君と結婚できますように。に決まってるじゃない。バカ!!」 サスケをチラッと見ながら、恥ずかしげもなくいけしゃあしゃあと言ってのける。 ナルトはショックで数秒間固まった。 しかし、気を取り直してサスケを見やる。 「…サスケは?」 「一族復興」 声に全く抑揚がないところが、恥ずかしさをカバーしていると見た。 木の葉のエリートルーキーは意外とシャイだった。 「ふぅん。鈴は?」 「ナルトと結婚できるように邪魔者は全力で排除してください」 「……」 「「なんだと!!」」 昼間のバトルの続きが勃発かに思われたが、ナルトの必死の説得により、事なきを得た。 「「「「ところでナルト(オマエ)は?」」」」 「ないしょだってば!!」 「教えなさいよ!一人だけ隠すつもり?」 「火影になる!じゃないのか?」 「違うってばよ。俺ってばお願いなんかしなくても火影になれるモン!!」 「俺と、結婚できますようにだよね?うわぁうれしいなぁ〜」 「「「ちがうから」」」 音がしそうなくらい綺麗に決まった突っ込み。 これで、お笑い芸人に転職しても未来は明るいゾ! その後、カナンが気を利かせて買ってきていた花火を庭でして。 色とりどりの光が飛ぶ。楽しい夏の夜の思い出。 お願い事なんて、しなくても自分の夢はかなえられるから。 でもね、誰かのお願い事は俺にはかなえられないから。 だから、ちょっと役に立ちたいの。 俺の大好きな人たちの夢だから。 『 み ん な の ユ メ が か な い ま す よ う に 』 俺のお願い事はこれで十分。
何と言う、季節違い! 冬に夏の話しかよって感じで。 だって、夏が恋しい…。 外は吹雪いてます。
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