死に塗れた祈り

どれだけ殺しただろう? もう分からない。 数えている余裕なんてない。 そんな暇なんてない。 次々と来る刺客を倒していくだけ。 断末魔の叫び声を上げる暇もなく。 自分が死んだことさえ気付いていない。 ほんのちょっと前まで生きていた。 呼吸をしていた。 俺を殺そうと必死だった。 けれど、今は違う。 肉塊に変えてしまった。 俺の手で変えてしまった。 もう、意識はない。 せめて、苦しまないで逝ってくれたのなら。 イイノダケレド。 うっすらと笑顔を浮かべて。 それは、狐の面に隠れて見えなかったけれど。 気配は伝わっただろう。 笑顔なんて浮かべている自分は可笑しいのだろう。 でも、笑顔を浮かべてしまう。 笑っているのだろうか? 哂っているのだろうか? 嗤っているのだろうか? もう、分からない。 どうでも良い。 ただ、ただ………。 「慰霊祭を狙ってきても無駄だってばよ?」 聞こえてなどいなくてもいい。 独り言なのだから。 誰にも聞かれない独り言。 死者を悼む時間は誰にでも必要なのだ。 それが今日なのだから。 邪魔はさせない。 「こんな日に来るなんて、馬鹿……だってばよ。」 この声なんて聞こえてないほうが幸せなのかも知れない。 だって、そうすれば戦意を喪失しないですむかもしれない。 戦意があったとしても勝たせはしないけれど。 誰一人、里には入れない。 俺が死んでも。 俺の式を残して逝くから。 だから、たぶん大丈夫。 サクラちゃんが聞いたら、きっと怒るだろうけど。 サイだって怒るかもしれない。 勝手なことをするなと。 他のみんなもそう言って怒るかもしれない。 そうだったら、嬉しい。 でも、準備はしておかないといけない。 死ぬ準備だって。 戦う準備だって。 立ち向かう準備だって。 強くならなくてはいけない。 何者にも負けない強さが。 必要なら何でもしよう。 忍刀が月明かりを反射する。 鈍い光を。 狐の面を後ろにずらして嗤う。 返り血が頬を伝う。 まだ、強さが足りない。 返り血を浴びるなんて。 もっと、強く。 もっと、強く。 ただ、ひたすらに強く。 ヒュッ 忍刀が空を切る。 首が飛ぶ。 胴が真っ二つになる。 血の臭いが充満する。 「蒼炎蝶華」 死体が蒼い炎に包まれて空に還る。 「バイバイ」 やっぱり嗤って。 嗤って、見送る。 空に還る『人だった』モノを。 嗤って。 嗤ッテ。 「化け物!!!」 「知ってるってば。」 「ぐぎゃぁぁっぁああ!!!!!!」 「それでも………みんなを守れるなら良い。」 「っがぁぁぁぁっぁああっ」 「化け物だと罵られても。」 「うわぁぁあぁぁぁあっぁ!!!」 「何も構わないん……だってばよ。」 死体にまみれて。 血にまみれて。 死臭を纏って。 化け物だと自覚して。 それでも笑い続けて。 嗤い続けて。 騙し続けて。 騙され続けて。 きっと、許されることではないけれど。 きっと、許せることではないけれど。 許して欲しいなどと考えてはいけない。 そんな贅沢は言ってはいけない。 それでも、祈らずに居られない。 ずっと一緒に生きていける未来を。


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