一途過ぎた想い

笑って、自ら戦場に行くといったあの子。 自分が行くことに何の疑問も持っていないのか。 それとも、持っていても何も感じていないように見せているのか。 それがどっちなのかは分からなかった。 あの子はいつの間にかこちらに表情を読み取らせなくなった。 この成長はかなり著しいものだと思う。 昔は、自分の心にただ正直で信念に沿って行動していた気がする。 心が指し示すままに、ただ純粋に。 どうして其処まで自分に素直で居られたのか不思議だった。 羨ましくもあり、忍としてそれでは困るのだと頭を抱えもした。 それが、今となっては立派な里を代表する忍になった。 戦闘センスはさすがのものだった。 特に、時空転移の才はあの四代目すら越えるのではないだろうか。 術式を書いた物体を飛ばさずとも時空を転移する術を編み出した。 そのおかげなのかビンゴブックにも掲載されている。 ナルトの存在が掲載されたビンゴブックを手に取った者は口々に言った。 黄色い閃光の再来か!? と。容姿も似ているだけに里の中ではナルトを通して四代目を見てしまって いる者も居る。 ナルトの周りの者たちはナルトが喜ぶかと思っていた。 が、実際その喧騒に巻かれたナルトは騒ぎもしなかった。 どう見てもナルトがそれを快く思っているようには見えなかった。 「嬉しくないのかよ?お前なら、飛び回って喜ぶと思ったんだけどな。」 「嬉しくないわけじゃない。ただ………。」 「ただ?」 「なんでもないってば。でも俺ってば、俺として見て欲しかったんだ。」 「不器用なヤツ。」 「うるせぇってばよ!!」 昔から、志だけは一丁前に高くて。 四代目火影を超える忍になるのだと何時も言っていた。 ナルトがアカデミーに居た頃はその夢を笑うやつが大半で。 上忍なってからはナルトの夢を笑うものはほとんど居なくなった。 ナルトが中忍試験を受けたときの課題はすごいものだった。 一介の下忍にその命令を出すのはいかがなものなのか。 五代目火影の出した命令は以下のようなものだった。 中忍選抜試験中、影分身二体を作り出した状態を維持し、擬似スリーマンセルを 作り出し、試験に臨むこと。 それはあたかも、スリーマンセルを組んでいるかのように見せるための工作。 自分以外の二名分の影分身を作り出し、試験期間中常に影分身を維持する。 もちろん、作り出した影分身を戦闘によって消してはいけない。 試験を受ける、実在する人間は攻撃を受けても消滅しない。 だから、影分身を作り出したままその状態を維持する。 万が一消えたとしても、誰にも気付かれないように新たな影分身を補充する。 並みのチャクラでは実行できなかっただろう。 たが、ナルトだからそれをやってのけることが出来た。 九尾のチャクラとナルトが本来持っているチャクラ。 その二つが合わさることによって膨れ上がったチャクラ。 その保有量はおそらく、現存する忍の中で一番であろう。 中忍試験が終了してナルトが影分身を消したとき同じ受験生は何が起きたのか 分からなかった。 それは、事情を知らない、試験を担当していない忍たちも同じであった。 事情を知っていたものでさえも、信じられない状況を見せられた感じだった。 レベルが違う。 どうして、これだけの力量がある者が未だに下忍であったのか。 寧ろ、中忍の域すらも超えている。 これでもまだ、中忍として活動させるのか。 そして、異例の事態が起きた。 中忍試験合格と共に上忍試験合格という結論が出された。 ナルトは一晩にして下忍から中忍そして上忍に昇格した。 五代目火影綱手がナルトの暗部志願書を手にしたのは昨晩のことだ。 そして、そのナルトが今日火影の執務室に居る。 綱手は、ナルトのこの志願を認める気はなかった。 あの血生臭い戦場にナルトを送り出したくはない。 生存帰還率がゼロに近い任務を命令したくない。 けれど、執務室を訪ねてきたナルトの意思は堅く。 「俺は里を守りたい。この命に代えても。何があっても。俺が正常で居られるまで。 何が起きても逃げ出したくない。大切な人が居る里を守りたい。だから……暗部への 入隊を認めて欲しいんだってばよ。お願い、綱手のばぁちゃん。」 「お前の実力は認める。だが、犬死しに行くような覚悟でいるのなら暗部入隊は許可 できない。」 「犬死なんてことしない。俺が死んだらもう、誰も守れなくなるから。無様でもいい。 必ずこの里に生きて帰ってくるから。守る者のために帰ってくるから。」 「暗部に入隊することによってお前に対する風当たりが今よりも強くなる。それでも お前は暗部に入りたいのかい?守るものに裏切られるかもしれない。それでもか?」 「うん。上忍に昇格できただけでも嬉しかった。綱手のばぁちゃんには本当に感謝 してるんだってば。それなのに、こんな無理言ってごめんなさい。でも、もっと強く なって大好きな里を守りたい。大好きな人たちが住んでる里を俺に守らせて?」 「どうして、そんなにも真っ直ぐで居られるんだい?この里はお前にとって、決して 優しくなかったのに。どうして其処までできるんだ??」 「里は俺に冷たかったけど、排除されそうになったけど。でも、認めてくれる人が ここには居るから。俺を待ってくれる人が居る。俺を助けてくれた人が居る。俺の ために自分の命を投げ捨ててくれた人が居た。そのすごく大切な人たちの思い出が 詰まってるこの里を俺は守って生きたい。この里の人たちも、その人たちの持ってる 記憶も全部。俺のこの手で守れる全てのために。」 四代目火影の影を見た気がした。 どうして、この意思を無視することが出来る? これほどまでに真っ直ぐに見られて。 何もかもを受け入れて。 その強い意志をないもののように扱うことが出来ない。 「後悔はしないんだね?」 「うん。」 「本日より、うずまきナルト上忍を暗殺戦術特殊部隊入隊を許可する。第十三班に 配属する。里のため、国のため、任務に励め。」 「御意。この命尽くまで任務に従じる所存です。」 「一つだけ。決して死ぬな。何があっても生き残れ。」 「承知しました……ってばよ。」 あの夜以来、闇の中で戦っている。 誰かを守れる強さを手に入れるために。 守りたい人たちのために。 今日の月は満月。 お客さんも多い。 消耗も激しいけれど。 倒れたりはしない。 死んだりはしない。 約束したことだから。 だから、唯そのためだけに。 鮮血が飛ぶ。 骨の折れる音がする。 人が地に伏す。 また一つ命が消えた。 結界の外で起こる惨劇。 結界の中には届かない。 「化け物!!!」 「知ってるってば。」 「ぐぎゃぁぁっぁああ!!!!!!」 「それでも………みんなを守れるなら良い。」 「っがぁぁぁぁっぁああっ」 「化け物だと罵られても。」 「うわぁぁあぁぁぁあっぁ!!!」 「何も構わないん……だってばよ。」 どうか、慰霊祭が終わるまでチャクラ、尽きないで。 ボロボロの身体、もって。 慰霊祭が終わってみんなに日常が戻ったら倒れてもいい。 だから、今だけは倒れないで。 動け、この身体。 守るためだけに。 約束のためだけに。 ただ、ただ、それだけ……………。


≪戻る。