*ナルトBD *大人シカちまナル 黄色いフワフワの髪。 まん丸の蒼い瞳。 子供特有のまろい頬。 嬉しそうに笑う姿は、天使のようだ。 と、デレデレしているのは、綱手の参謀も務めている奈良シカマル。 その姿を見かねたように、綱手が口を開いた。 「…シカマル、にやけてる暇があるなら仕事をしてくれないかい?」 その声に、デレデレと眺めていた写真から、目を外して面倒くさそうに口を開く。 至極、面倒くさそうに。 「書類なら、片付けてそこにあると思うんすけど。他に何か?」 「追加の書類があっただろう?それはどうした」 「んなの聞いてねぇっすけど」 「何?そんなはずはないと思うが…」 と、ごそごそと机の上をあさる綱手。 お世辞にも綺麗とはいえない机には乱雑に物が積んであり、何処になにがあるのか分からない。 几帳面にしまってあるのは、当たるはずのない宝くじくらいなものだ。 「おかしいな…確か、ここに……」 あ、と罰の悪そうな声が執務室に響く。 競馬予想が書かれたメモ書きをひっくり返すと、そこにはシカマルに頼んだはずの案件が。 読み返してみれば、処理の締め切りも迫っている。 「すまない。これを早急に頼む」 「めんどくせぇ奴は、御免ですよ」 渡された、書類を受け取り、内容を確認する。 一通り読んだ所で、シカマルは不機嫌な顔で書類を綱手に突き返した。 「お断りします」 「そういわずに、助けてくれ!!」 「明日は、どうしても休みますって、前から申請してましたよね?」 「そこをなんとか!」 参謀とはいえ、年下の忍に頭を必死に下げている火影の姿に、涙がでそうになる従者のシズネ。 執務室で“頼む”“断る”の押し問答が繰り広げられている中、別の場所では楽しそうな笑い声が響いていた。 + + + + + 「ナルちゃん、準備できたかしら?」 「できたってば!」 トテトテと二階から降りてきたナルトに、ヨシノは微笑みかける。 耳の付いたフードに、尻尾のついたつなぎ。 歩くたびに、右へ左へ揺れる尻尾はナルトの心のようにだ。 「上手に着れたわね」 「なる、ぼたんも、じょうずになったってば!」 「そうね、ナルちゃんはいい子ねぇ」 「えへへ」 嬉しそうに笑うナルトを前にヨシノは溜まらず抱きしめてしまう。 「もう!!ナルちゃんはホントに可愛いんだから!!」 「よしのままもきれいよ?」 やだぁ!素直なんだからと。楽しそうな二人にシカクが居間から顔を出して声を掛ける。 「早く、買いモン行ってこいよ」 「あら、貴方は?」 「俺ァ昼から用事があんだよ。夕飯までには戻っからよ」 予定を告げながら、ナルトたちのほうへ歩み寄る。 ヨシノに抱き上げられた、ナルトの頭をぽんぽんとなでる。 その顔は、息子同様デレデレだったけれど。 「しかくぱぱ、おでかけってば?」 「おう、夕飯には戻るぜ。ナルト、その間、母さんを宜しくな?」 「りょーかいだってばよ!!」 だいぶ肉付きの良くなった、腕で敬礼をする。 小さく、可愛いガーディアン。 「ナルちゃん、かばんしょって行きましょう」 「はぁい」 大きな天使の羽根のついたカバンを背負って、ナルトは外へ駆け出す。 いってきます、の挨拶も忘れずに。 + + + + + ただいま。と声がして、ナルトは玄関に走っていく。 「しか!」 「お、ナル。いい子にしてたか?」 「うん!」 夕飯の時間に、疲れた顔をして戻ってきたシカマルにナルトが飛びつく。 そのナルトを腕に抱き上げて、頬を寄せる。 お日様の匂いと、夕飯の匂い。 いつもするはずの石鹸の匂いはしない。 「ナル風呂まだなのか?」 「しかといっしょがいいってば!」 「じゃ、飯食ったらな」 「やったぁ」 ナルトを先に食卓に戻し、洗面所で手洗いうがいを済ませ戻る。 どうやら、食べている途中で走り出したようで、ヨシノにちょっと小言を頂いたようだ。 夕食を食べ、十分な食休みをはさんでからナルトを風呂に入れる。 黄色いアヒルがお気に入りで、楽しそうに湯船に浮かべて遊んでいる。 肩まで浸かって、100まで数える。 途中で、何度かつっかえるのでかなり時間がかかる。 なんとかのぼせる前に数え終わってあがる。 ドライヤーでナルトの細い髪を乾かして、ソファーにかける。 ふわふわの髪からは、洗い立ての石鹸の柔らかい匂いが香る。 たわいない話をしていると、ナルトの頭が不安定にかしぐ。 今日は、外へ買い物に行ったといっていたし疲れたのだろう。 「ナル、寝かしてくるわ」 「なる…ねない…」 「一緒にいてやるから、二階行くぞ」 「う〜ぅ」 階段を上がって、自室のドアを開ける。 ナルトの部屋も用意してあるのだか、そちらはあまり使われていない。 この家にナルトが来たころ、ナルトはその部屋で寝ていたのだが、朝の食卓には眠そうに目をこするナルト。 昼も、シカマルの隣以外では昼寝をしている様子もない。 どうやら、夜が怖いらしいと気がついたのは、ナルトが間違えてシカマルの布団に入ってきたとき。 その夜は、朝までぐっすりと眠っていた。 以来ナルトとシカマルは同じ布団で寝るようになった。 上掛けを首元まで引き上げて、上からゆっくりと叩く。 30分もしないうちに、安定した寝息が寝室に響く。 柔らかなナルトの髪を何度か梳いて、シカマルは布団を抜け出す。 影分身を一体作り出し、不本意だがナルトを任せる。 「ナルのこと頼んだぞ」 「わーってるって、早く行ってこいよ」 「くれぐれも、変なことすんじゃねぇぞ」 「ソレを俺に言うのかよ、めんどくせぇ」 自分の影にさえ嫉妬する本体に、ため息が毀れる。 それだけ、ナルトを大事にしているのは分かるが…。 首の後ろをかいて、静かにベッドに腰掛け、月明かりの下で巻物を広げ読み出す。 いくら疲れていても流石に、この時間からは眠れない。 シカマルは影分身を残し居間に戻って両親に声を掛ける。 「俺、執務室戻るから、ナルのこと頼むわ。影は一体置いてくけど」 「なんだ、残業か?」 「うっせ。五代目が急ぎの書類、今日出してきてソレがおわんねぇんだよ」 「あら、明日は大丈夫なの?」 「だから、今から徹夜して終わらしてくる」 「せいぜい、間に合うように頑張れよ」 「言われなくても」 じゃ、とシカマルは軽く準備をして家を出る。 少しでも早く終わらせて、帰るために。 + + + + + ちゅんちゅんと、すずめが今日も朝を告げる。 もぞり、と布団の中で小さなナルトが起き出す。 寝癖のついた髪を優しく梳いてやる。 「ナル、はよ」 「…」 いつもなら、おはようと続くのに、いつまでたっても挨拶の声は聞こえない。 シカマルは困ったように、ナルトのまろい頬をなでる。 「どうした?」 「ちがうってば、しか…じゃない」 「何言ってんだよ、めんどくせぇ」 「しかだけど、しかじゃないってば。しか、どこ?」 次第に、瞳に涙をため、仕舞いには泣き出してしまった。 本当に困ったように、シカマルはナルトを抱き上げて、必死にご機嫌を伺う。 けれど、ナルトは、違うの一点張りで言うこをを聞いてくれない。 (参ったな、俺が影だって気がついてる) そもそも今日は休みのはずで、手違いで出勤しているようなものだ。 とはいっても、忍として生きている以上、休みだろうがなんだろうが火影様に呼び出されれば、行かざるを得ない。 どうしたものかと、ため息をつく。 目の前のナルトは泣き止まない。 「…しかぁ…しかぁ…」 腕の中で悲しい声をあげるナルトに耐えられなくなった影は、仕方ないかとため息をついた。 「ナル、ちょっと待ってろ」 目を閉じて本体とリンクを繋ぐ。 流れ込んでくる情報は、あまりよくない。 あちらはあちらで鬼気迫るものがある。 どうやらトラブルがあったようで、今日中に片がつくかどうかもめている。 「本体、どうすんだよ」 『どうするも、こうするもねぇよ。なんとかしろ、めんどくせぇ』 「めんどくせぇってな、お前の所為だろナルが泣いてんのは」 『お前が影だって見破られたからだろ。この、出来損ない』 「は?お前が作ったんだろ。このヘボ本体」 ここで、あきれて目を開いてしまう。 視線の先には、涙で頬が濡れ、目の赤くなったナルト。 『可愛いナルの目が赤くなってんだろ!』 「うっせぇよ!!」 『五代目、ナルが泣いてんで俺、家帰ります』 「お、帰れんのか?ん?」 リンクが切れた。 ナルトが泣いている情報が図らずも行ってしまい、今にも人を殺しそうな勢いだったのだが。 どうしたことか、本体はうんともすんとも言わなくなってしまった。 (参ったな。五代目に拉致られたか) どうしたもんかと、首の後ろをかく。 もう、嘘をついてもどうにもならない。 俺は本体ではないし、本体にもどうしようもない事情がある。 こういうことには聡いナルトのことだ、正直に話すしかない。 「ナル、本体は夜までには必ず帰ってくっから、待っててくれねぇか?」 一日一緒だと約束した。 約束は、一方的に俺が破った。 それでも、許されるなら、待って欲しい。 「わかったってば。なる、しかのことまつってば」 「ごめんな」 + + + + + 事情を説明して、影分身は消えた。 そのまま、昼が過ぎ。 夕暮れを迎え、太陽が落ちる。 空には星がきらめき、月が煌々と輝く。 たくさんの人が、祝いの言葉とプレゼントを届けてくれた。 『誕生日、おめでとう』 嬉しいはずの言葉も、悲しくて。 綺麗に飾られた、食卓。 たくさんのご馳走。 ローソクのたった、大きなケーキ。 それでも、帰ってこない、大切な人。 「ナルちゃん、シカマルは帰ってくるのが遅くなっちゃうの。先に食べましょう」 「ナルト、せっかくの料理が冷めちうぞ」 「う〜ぅ」 「ね、一緒に食べましょう?」 一緒に食べるはずだった、夕食。 ナルトの好きな献立ばかりなのに。 目の前に盛られた、美味しそうな料理は喉を通らない。 少し食べては、握ったフォークを置いてしまう。 ナルトはご馳走様をすると食卓から離れてしまう。 せっかくのケーキも、寂しそうに冷蔵庫にしまわれた。 ソファーの上に膝を抱えて小さくなる。 とても、今日の主役だとは思えない。 時計の針が9時を過ぎたところで、シカクがナルトを風呂に誘う。 「やぁ、なる、おきてるってば。しかのことまつの」 「馬鹿息子なんかほっといて、風呂に入るぞ」 「やぁ、やぁ」 いや、いやと泣き出してしまうナルト。 めったに、我侭を言わないだけにどうにか叶えてやりたい。 しかし、その願いを唯一叶えられる人物は、職場に缶詰。 お風呂に入ると、眠くなってしまうためナルトは嫌がった。 どうしても、起きて待つのだというけれど、シカマルが帰ってくる可能性は低い。 結局、シカクに抱えられ風呂も済ませさせられた。 後はもう、寝るだけだ。 1時間後には眠気に耐え切れず、ソファーに丸くなっているナルト。 悪ぃな。とシカクが布団に寝かせる。 もう、秋も深まって朝夕は寒い。 ソファーで寝れば風邪を引いてしまうのは火を見るより明らかだ。 「日付変わっちまうぞ、馬鹿息子が」 + + + + + 資料を提出して、急いで家に戻ったが、ナルトはすやすやと寝ている。 影でもいいから、せめて、おめでとうと伝えればよかった。 ベッドに腰掛けて、目にかかった前髪を避ける。 少し腫れた目が痛々しい。 今日は、どれほど泣いたのだろう。 一緒にいると約束したのに。 「ナル、ごめんな」 部屋にむなしく声が響く。 このまま、日付が変わるのを見届けよう。 後数秒で、今日が終わって明日になってしまう。 そう思った矢先、ナルトの瞳が開く。 眠さから、少し潤んではいるが、シカマルをじっと見つめている。 「…しか?」 「ナル、悪い遅くなった」 「んーん。しか…いるか…らいーってば」 「ごめん、誕生日おめでとう。っつても、日付変わっちまったけどな」 「しか、しか。なる、うれしーってば」 髪を梳いていたシカマルの手を引いて、頬を寄せる。 欲しかった、優しさも温度も目の前にある。 「なる、うれしー」 側にいるだけでいい。 そう笑う君が、愛おしすぎる。 シカマルはギュッとナルトを抱きしめた。 愛おしい。 ただ、愛おしい。 「きゃあ!しか、くるしいってばぁ」 「わりぃ」 「しか?だいすきよ?なる、しかだいすきよ?」 「おう」 ただ、この命が愛おしい。 生まれてきてくれたことに、出逢ってくれたことに、ただ、感謝を。 「ナル、生まれてきてくれて、俺と一緒にいてくれて、ありがとう」 「ありがとうってば!」
間に合った! 間に合ったよ!! それだけ。 ナル君、誕生日おめでとう!!
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