雪が降り積もっていく。 軽く柔らかな雪が降り続く。 後から後からとめどなく。 まるでこの場を真っ白に染めるためのように。 粉雪がぱらぱらと空から降り。 茶色かった地面を白く染めていく。 開けた台地。 何かの激しい戦闘の後。 そして急速に広がっていく赤い血溜まり。 ここにたどり着いた時にはもう遅かったんだ。 情報部の情報が完全でなかったことに気付かなかった自分の落ち度が招いた最悪の事態。 火影の名を冠して、唯一暗部に指令を出すことの出来る存在になって。 彼に幾度となく任務を言い渡してきた。 任務成功の知らせを書類で見て、自分の指令は間違い出なかったと安堵し。 同時に、彼をそんな戦場に送り込まなくてはいけない自分を嫌悪していた。 いつもと同じように任務のランクを分け、彼に任務を言い渡した。 彼はいつも通りに任務を受け、任務地に赴いた。 諜報部から届いていた情報が誤っていたとも知らずに。 「サスケ!!」 敵を殲滅し、自分もその場に倒れていた。 サスケを中心に広がっていく血の海。 鼻を突く鉄のにおい。 嗅ぎなれた戦場の匂い。 息が切れていたことなどすっかり忘れて、サスケの傍に走りよって、傷を見た。 どてっぱらにぽっかりと開いた穴。 最悪の結末が脳裏をよぎった。 急いで止血をしなければ。 傷口を塞いで。 体温を確保して。 それからそれから…… やらなければならないことはたくさんあるのに頭が混乱して上手くいかない。 震える手を傷口にかざし得意ではない医療忍術を施す。 いくら術を施しても塞がらない傷口。 止まらない出血。 「もう…いい」 「何言ってるんだってばよ。ホラ、出血も止まったし。後はちゃちゃっと傷口塞いで里に帰るぞ」 「……」 止まらない出血。 きっとサスケは分かっている。 自分が助からないことに。 でも、そんなの嫌だ。 助けたい。 何が火影だ。 そんな名前を手に入れても大切な人一人守れない。 そんなんじゃ意味ないのに!! 笑え。 少しでも不安を与えるな。 笑って、希望を持たせるんだ。 「よし…っサスケ……帰るぞ」 傷口は塞がったから大丈夫だと。 コレで里に帰って綱手ばぁちゃんにちゃんと見てもらえば大丈夫なのだと。 そんな笑顔を浮かべて。 この暗闇の中で見えているかどうかは定かではないけれど。 それでも、少しでも不安が消えればそれでいい。 本当にソレでいい。 だから… 「…ん…あぁ……お前だけ帰れ。ど…うせ俺は…もた…ない」 残酷な言葉を軽々しく言わないで!!! 「馬鹿!!生きて里に帰るんだろ!?生きて里に帰って…俺のとこに戻ってくるって言っただろう??!! アレは嘘だったのかよ!?」 「嘘じゃない…だから……っげは…今、ここに居る」 「屁理屈ッ!!!」 「……なんだ……雨に変わったのか?」 自分の思いとは関係なく涙がこぼれる。 笑わないとサスケが不安がるのに。 涙が止まらない。 涙腺が壊れてしまったに違いない。 止まる気配を見せない涙がサスケの顔に降り注ぐ。 落ちた涙がサスケの頬を流れ落ちる。 笑わなきゃいけないのに。 ドウシテこんな時ばかり、涙が出るの? いつだって笑っていたのに。 ドウシテ、肝心な時にはソレが出来ないの!!? 「……っ………」 「ドベ……冷てェ………よ…」 「…うっさい………」 サスケの血の気の失せた冷たい手がナルトの頬に触れる。 優しく撫でようとするけれど、多量出欠のせいで上手く力が入らない。 不器用に腕ごと手を動かして頬を撫でる。 コレが最期なら。 ソレはソレでいいかもしれない。 求めてやまなかった光が俺の目の前にあって。 俺だけのために涙を流して。 俺だけのために生きてくれていた。 その真実だけで十分だった。 だから、お前の心の中に鮮明に残って。 太陽の中にある黒点のように、黒い消えない点になって。 お前の中に残りたい。 だから、最期の最後まで憎まれ口を…… 「俺は…お前のそうい…うところが……嫌い……だったんだ………」 「何……言っ…て……!!」 「太…陽みたいな笑顔が…羨ましかっ……愛して………」 綺麗な笑顔だった。 「俺だって!!!お前のことが………」 ぱた 今の今まで頬を撫でていた手が力なく地に落ちた。 まだ返事をしていないだろう? 最後まで聞けよ。 一人で先に…。 「サ……スケ…?……サ………ぅああああああっああ!!!!!!!」 一人で逝くなよ。 「火影様」 音もなく現れた暗部の目の前には、死後硬直が始まっているであろうサスケの身体を 抱きしめて蹲っているナルトの姿だった。 視線はあたりを彷徨い。 焦点を結ばず。 誰もが狂っていると思った。 次の呼びかけで応えなければ、眠らせて連れて帰るか。 或いは、ここで、一緒に眠らせてやるか。 どちらにしろ、もう、あの太陽な火影はここには居ない。 意を決して、その冠した名を呼ぶ。 「火影様」 再度の呼びかけにナルトはゆっくりと顔を上げて笑った。 綺麗で。 そして何よりもぞっとする笑顔だった。 「これからちょっと野暮用を済ましてくる」 焦点を結んだ瞳。 笑う口元。 ゆらりと立ち上がる脅威。 太陽だって?ふざけるなっ。 目の前に居るのは、狂気に触れた恐ろしい化け物。 それでも、なお、神々しさを失わないのはどうしてなのか。 サスケの遺体を影分身にたのむとナルトはその場から掻き消えた。 現役暗部でさえもその足取りを掴むことは出来なかった。 あくる朝、血まみれのナルトが里に帰った。 「俺に牙を剥いた報いだ」 その日一つの里が消えた。 金色の夜叉が何もかもを消し去ったのだと言う。
コレは昔、友人に頼まれて書いたものでした。 サスケさんが死ぬ瞬間に何かを。との事だったような…。 今は、はっきりと覚えていませんが。 しかし、今も昔も死にネタが好きみたいで困ります;
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