後悔なんてしてない。

ライダー同士の戦いが終わって数ヶ月が経った。 その間には優衣ちゃんの葬式があって。 いつの間にか居なくなってしまった朝倉の事などがニュースの話題にのぼった。 他にも分からないくらい色々な事があって。 その中でも人々に一番衝撃が大きかったのはモンスターが実現世界に現れた事だった。 現実世界に及んだ被害は計り知れないものだった。 死者は軽く100人を越し怪我人や建物の被害も酷かった。 大都市の中心で起こったこの戦いは日本をパニックに陥れるのに十分すぎるほどだった。 日本の中枢が集まる東京が堕ちたのだから当然といえば当然だった。 しかし人々の生きるという力は計り知れない力があった。 今は復興作業も順調に進み、世界は元の動きを取り戻しつつあった。 そういえば、あの戦いで生き残ったのは俺と蓮と弁護士の北岡だった。 北岡はこれからの余生を楽しむとか言ってライダーからの戦いから降りたらしい。 未だに令子さんへのアタックは毎日欠かさずしているとか。 その甲斐あってか少し玲子さんの返答の優しいものへと変わってきている。 そのうち本当に付き合い始めそうだ。 ま、俺は当然反対だけど。 あ、あと。最後の戦いの後、俺と蓮は約束通り戦った。 けれど決着は結局着かなかった。 蓮は諦めた様なさっぱりした様な顔をしていた。 そういえば、アイツの望みはなんだったんだろう? ライダーの戦いを止められなかった理由って何だったんだろう? 全てが終わって今までの事を振り返ってみると短い間にたくさんの人に出合って。 たくさんの人の死を見て。 俺は生き残って。 世界は元の動きを取り戻して。 ライダーの戦いがなくなってみんな自分の居るべき場所に戻って・・・・ たくさんの人の犠牲を払ったけど。 これで良かったのかもしれない。 多分これでよかったんだ。 優衣ちゃんの事も皆のことも・・・ そういえば、昨日の夜変な夢を見た。 夢には優衣ちゃんが出てきた。 久しぶりに見る優衣ちゃんはあの時と変わらなかった。 当たり前かもしれないけど。 そして優衣ちゃんは俺に言ったんだ。 「あたし後悔してないよ。あたしの選択は間違ってないって。 あたし、誰かの命をとって生きるなんてことしたくなかったから。 私が生きるってことはお兄ちゃんの願いだったけど。 だけどあたし、後悔なんてしてないから。 真司君や蓮が助かって良かったって思ってるから。 だから、落ち込んだりしないで。ね? お兄ちゃんと今は一緒だから寂しくないし。 あたしね、本当に真司君と蓮が生き残って良かったって思ってるから。 二人ならきっと大丈夫。 これからもきっと大丈夫だから。 だから、あたしの分もお兄ちゃんの分も、みんなの分も精一杯生きて。 生きられなかった人の分を精一杯生きて。 約束だからね!!」 「おう!任せろ!!俺と蓮でみんなの分も生きるから!!優衣ちゃんは安心して。」 「うん。ありがとう。じゃ、もういくね。いつか生まれ変われたら、また会えたらいいな。 真司君にも蓮にも。それまで、バイバイ真司君。」 「バイバイ、優衣ちゃん。」 優衣ちゃんは嬉しそうに笑ってた。 その顔見て思った。 これで良かったんだ・・・・。 目が覚めたら涙が頬を伝ってたけど、悲しくなかったから。 これからもがんばれそうな気がしたから。 唐突だけど今日は、久しぶりに蓮に会おうと思う。 何処がいいかな? あ、そうだ。 この話したらあいつ驚くかな。 「あ、いた居た!!」 真司はバイクを押しながら蓮のところまで走った。 砂に足がめり込む。はっきり言って走りにくい。 今さらだが、何故海で会う事にしたんだろう? 「遅いぞ。15分の遅刻だ。」 「悪り。道込んでて。」 「全く。お前は相変わらずだな。」 バイクに腰掛けながら蓮は笑った。 髪に絡む潮風が心地いい。 「で、今日は何の話だ?こんなところに呼び出して。厄介な事じゃないだろうな。」 「違いますぅ!俺昨日おもしろい夢見たんだ!」 真司は宝物を見つけた子供みたいに言った。その真司に対して蓮は短く言った。 「『優衣の夢だ』なんていうなよ。」 「な!何でわかったんだよ!!まさか、蓮お前も見たんじゃ!!優衣ちゃんの夢!!」 「あぁ。夢枕に立つって言うのかああ言うのを。」 蓮はしみじみ言った。 「優衣ちゃんなんて言ってた?」 「お前に迷惑かけられてんじゃないかって心配してたぞ。」 「っなんだよそれ!酷いな優衣ちゃん!!」 肩を落として昨日俺の夢に出てきた優衣ちゃんと違うと思った。 そんな真司の姿を見て蓮はさらりと言った。 「嘘だ。」 「なんだよ!!」 「ちょっとからかってみてだけだ。本当は『後悔しないで』みたいな事を言っていた。」 蓮は昨日の夢を思い出しながら言った。 たぶんアレが最後の優衣の言葉になるだろうから。 一語一句忘れないように。 大切に心の中に仕舞っておこう。 「蓮も同じ様な事いわれたんだな。俺にもそんな事言ってた。」 「お前と同じなのか。俺もずいぶんと落ちたな。」 蓮は海を見ながら遠い目をしていった。 「お前ホントむかつくな!少しは仲良くしようとか思わないわけ!?」 「何言ってるんだ。この前まで敵同士だったんだぞ?」 「お前俺の事『親友』だって言ったじゃないかあの時!!」 真司は食って掛かるように言った。 「そんなこといったか?」 蓮はからかうように言った。しかし真司はそれに気付かず、更に怒る。 いや、分かっていても食って掛かっていくのだが。 「お前なんか、絶交だ絶交!!」 「おい!嘘だよ。嘘。本気にするなよな。」 バイクを押して帰ろうとする真司の肩をつかむ。 ふくれっつらのまま真司は振り向いた。 「本当に嘘なんだろうな?」 「疑りぶかいな。本当だ。」 その答えを聴いてふくれっつらをしていた真司が嬉しそうに笑った。 「じゃ、どっか行こうか?」 「そうだな。久しぶりに優衣の顔でも見に行くか?」 「いいなそれ!ちょうど今日は優衣ちゃんの月命日だし。」 「じゃ、行くか。」 蓮はバイクのエンジンをかけた。 ずいぶんと時間が経ったけど本当はまだ少し心の整理がついていなかった。 本当にあの結果で良かったのかって。 優衣ちゃんが死んでしまったあの結果で・・・。 でも、昨日優衣ちゃんにあって。 今日、蓮と話しをして。 やっぱりこの結果を選んで良かったって思う。 俺、後悔なんてしてない。 自信を持って生きていける。 蓮と、この世界の皆と。 「おい城戸!何してるんだ。置いてくぞ!!」 「ちょっ、待てよ!蓮!!置いてくなって!!」 真司は急いでバイクのエンジンをかけた。 俺は、蓮と今こうして生きている。 たまにむかつくけど結構楽しんでる。 これが、今の俺達だ。 優衣ちゃん。心配しないでいいからね。 俺達、二人なら大丈夫だから。 「優衣ちゃーん!!俺達ちゃんと生きていくから――――――――――!!!」 真司は何処までも続く蒼い空に向かって言った。 「何騒いでんだ!行くぞ!!」 「ああ!!」 真司はバイクと押しながら走った。 戦いの中で出会った『親友』の元へ・・・―――――――                                          (END)


いつの時代だか流行っていました。龍騎ですよ。 懐かしい掘り出し物です。読みながら、昔のほうが文才があってなぁって。 ちょっと悲しくなりました。年を取ると余計な小細工が混じって、良い文が書けなくなる。 困ったものです。

≪戻る。