表遊戯=遊戯 裏遊戯=<遊戯> にて表記
キミと初めて迎える正月はいつもの正月とは違った。 もう一人のボクとするいつものことはそれまでのいつものこととは異なった。 同じことをしているはずなのにボクは初めてのことのように感じた。 それは、キミと過ごしていることを実感させてくれるとても大事なことだった。 キミとの初めていつもと変わらないボクの日常に変化を与えた。 昨年中は思いもよらぬ寒波の到来に大雪になった。 真っ白な雪を目の前にしてキミは嬉しそうに足跡を残してた。 ボクも嬉しくなって、高校生にもなって雪で遊んだ。 一つの身体を共有している僕らが一緒になって出来ることはそんなになかったけど。 それでも、すごく楽しかった。 楽しかったんだ。 キミが嬉しそうに笑っていることが何よりも。 その時、いつか別れの時が来るなんて思ってもいなかった。 ずっと一緒に居れるのだと錯覚していたんだろうか? 僕達にはまだ、別れの足音なんてまったく聞こえず。 楽しく過ごしていたんだ。 来年も再来年もその先もずっと。 ボクがおじいちゃんになってしまってもずっと一緒だって……。 もう一人のボクには何もかもが初めてだったから。 知らないことは何でも教えてあげようって。 楽しいことは一緒にやっていくんだって笑っていた。 『願い事1』 「明けましておめでとう、もう一人のボク」 ぺこりと頭を下げたボクを見てキミは不思議そうな顔をして見た。 そして、遅れてボクを真似た。 『あけましておめでとう、相棒』 しかし、頭の上には疑問符がたくさん浮かんでいた。 もう一人のボクは何かの儀式なのだろかと考えている。 ボクは日ごろから百面相だとか何とかって馬鹿にされてるけど、今のもう一人のボク はまさしく、いつものボクそのものだった。 誰かがこのことを聞いたら、どこら辺が百面相なんだと訊ねたに違いない。 旗から見たら、<遊戯>の顔がどう変化しているのかなんてわからなかった。 相棒の観察力は凄まじいものだとこのとき感心せずにはいられなかった。 そんな、百面相を繰り広げている<遊戯>を見ていた遊戯。 次第に、肩が震え始め 「……っ……く、ふふ…」 最終的に手で押さえていた口元から声が漏れた。 ボクはおかしくて、笑いがこらえきれなくなった。 もう一人のボクには悪いと思ったけれど、どうしても止められなくて。 いわゆる、ツボにはまったってやつ。 「あはっはははは!!!」 ボクはどうしようもなくて両手でお腹を抱えて笑い出した。 ここが自分の部屋でよかったと、心の底から思った。 そうでなければ、ボクは変な目で見られていたに違いない。 それでなくても、日ごろのボクの独り言にママは心配していたから。 おかしくて、おかしくて目から涙が出た。 床に蹲って、背中を丸めた。 それでも、おかしくて。 発作のように治まらない、笑い。 (このまま笑ってたら、腹筋がつっちゃうかもっ!!) でも、僕はどうにもこうにもできなくて。 助けを求めてもう一人のボクを仰ぎ見た。 そこには不機嫌を絵に描いたようなもう一人のボク。 でも、それさえもボクにはおかしくて。 後にそれを後悔するなんて思ってもいなかったら、僕は性懲りもなく笑っていた。 多分、今のボクは猫がこけても笑えるだろう。 『相棒、いつまで笑ってるつもりだ?』 「ボ…クも何とかし……たいんだけど、どうにも、ね…っ笑いが……」 キミには分からないだろうけど、笑い続けてるのも結構、疲れるんだ。 本当に腹筋がつるかもしれない。 呼吸も苦しいし。 出来るなら、今すぐにも笑いを収めてしまいたい。 でも!! 「…何され・・・て・・も笑いっそうっ…」 その言葉を聞いた<遊戯>は今までの不機嫌だった空気を四散させた。 そして、お得意のあの悪戯を考えている顔を覗かせた。 『じゃ、こうされても笑ってられるかな?相棒??』 「え?」 世界が暗くなったかと思うと唇にやわらかいものが押し当てられていた。 (マシュマロみたい…) そんな暢気な事を考えているとぬるっとしたものが唇を押し開けて口内に侵入して 来た。 「っん!!」 一瞬にして現実に引き戻された。 今までの発作のような笑いが嘘のようになりを潜めた。 どうやら、心の回廊に強制的に連れてこられてしまったようだ。 遊戯が<遊戯に>引きずり込まれたことに驚いている間にも接吻は続く。 背中に回されて腕と、顎に添えられた手に動きを封じられてしまう。 同じ身体のはずなのに、遊戯が精一杯、突き放そうと<遊戯>胸板を押している両腕は 何の効果も持っていなかった。 だんだんと深くなっていく口付けに呼吸がままならなくなっていく。 息が吸いたい 頭の芯がぼおっとしてくる 押し返していた手に力が入らなくなっていく。 それを感じ取って<遊戯>の背中を抱く腕の力が強くなる。 その腕がなければその場に座り込んでしまいそうだ。 膝が笑う。 口元から飲み込めない唾液が流れる。 呑気に構えているとなし崩しにされてしまう。 それだけは阻止しなければ。 そのシグナルでさえも馬鹿らしくなってしまう。 このまま流されてしまったらどれほど楽なのだろう。 ただ、この気持ちよい快楽に身を委ねてしまったら。 「……っは…」 獣みたいに貪っていた口付けは静かに終わりを告げる。 唾液が銀の糸を紡いでお互いに架け橋をつなぐ。 糸は細くなり……切れた。 ボクはただ足りない酸素を補給するために息をした。 苦しかった。 心臓の音がうるさくて、耳がおかしくなりそうだ。 ボクはその現況を作ったもう一人のボクを睨みあげた。 そこには悪びれた風もない<遊戯>が立っていた。 「おいおい、そんなに睨むなよ。元はといえば相棒が笑うのを止めなかったのが悪い んだぜ」 「……っはぁ…は……」 「それとも、続きがシテ欲しいのか?」 「!!……ッ結構ですっ」 「俺は大歓迎だけどな」 「キミって人は!!!」 彼を叩こうと振り上げた腕は軽々と受け止められた。 「早くしないとママさんに叱られるぜ」 「……っキミなんかもう知らないッ!!!」 明けましておめでとうございます。とお互いにちゃんと頭を下げるにはもう少し 時間がかかりそうだ。
≪戻る。