新妻

もしもシリーズ。其の弐〜キラ嬢が新妻だったら〜 とあるマンションに、とても仲睦ましい新婚夫婦が居ました。 その二人のラブラブっぷりは、同じマンションに住んでいる全ての人間が良く知って いました。 寧ろ、イヤと言うほど良く知っていました。 知らないと言う方が可笑しいと言うほど、二人はラブラブだったのです。 その新婚夫婦は、『アスラン・ザラ』と『キラ・ヤマト』と言いました。 二人の間で、苗字をどうするかと言うことで、何度か話し合いが行われたのですが、 どちらの苗字を取ってもどうもしっくり来ないので、このままでも良いん じゃないか?と言う事になってしまいました。 なので、二人は結婚してからも、同じ苗字を名乗ったことがありませんでした。(当たり前だよ) さて、この新婚夫婦でしたが、夫のアスラン・ザラは会社員。 常からの働きにより、今度、昇格して、部長になる予定。 このまま、成績を伸ばしていけば、係長も目じゃありません。 会社内では、これからのアスランの働きがとても楽しみにされています。 次に、妻のキラ・ヤマトは専業主婦。 夫のアスランと同じように、とても働きやさんで、料理・洗濯・掃除。 何をやらせても、きちんとこなします。 器量よし。顔よし。言うことなしです。 そんな、キラのことですから、求婚してくる輩は星の数。 アスランと、今の生活を手に入れるまで、色々と大変なことが多かったのですが、姉で あるカガリの協力や、友人であるラクス嬢の助けなどで無事にゴールインできたのです。 アスランとキラは未だに二人には頭がありません。 そんな、前途多難な二人ですが。 御近所さんでは 『まぁ。何て可愛らしいカップルなんでしょう???』 と、とても有名なのです。 では、そんな二人に、一日密着してみましょう。 (これを、ストーカーなどの変態と一緒にしないで下さいね。悪意はありませんので) □■□■□■□■□ まず、一日の始まり朝。 キラは朝早くから、出勤していくアスランの為に静かに一人、早起きをしてお弁当を 作り。 そして、美味しい朝食を作って、アスランを起こしに寝室に向かいます。 スリッパを履いた足から、自然にパタパタと可愛らしい足音がします。 シャッっとカーテンを開けて、ベッドの方に振り向きアスランを起こします。 「ア〜スラン、朝だよ。起きて!」 しかし、アスランは一回では起きてくれず。 何度か声を掛けますが、起きてくる気配はありません。 キラは仕方なくベッドに手をかけてアスランの体を軽く揺らし、再度、声を掛けます。 「アスラン、起きて!会社、遅刻しちゃうよ?」 やっと、その声に反応してベッドの中から、人が動くのがはっきりと分かりました。 キラは、安心して掛け布団を捲ろうと手をかけましたが、その手をベッドに寝てた 住人に掴まれてしまいました。 そのまま力任せに手を引かれバランスを崩し、前のめりになり、更に、 布団からもう一方の手が出てきて後頭部を抑えられてしまったので起き上がれません。 思わず驚いて声が出てしまいましたが、そんな事は問題とされず…… 「えっあっアスラっ…!?」 ちゅっ?? 「おはよう、キラ。」 布団から悪戯が成功したような顔をして青年は出てきました。 「アスラン!!」 そんなアスランとは対照的に布団に引き込まれてしまったキラは真赤な顔をしていました。 怒ったように、アスランの胸に手をついて体を離そうとしますが、ぎゅっと抱き しめられて居て上手く体を離す事が出来ません。 「会社、遅刻しちゃうよ!!」 一生懸命に、体を離そうとしているキラとは対照的にアスランは、もう一回寝よ? とキラを抱きしめて寝る体制に入っています。 会社なんてどうでもいいから、キラと一緒に居る時間が欲しい。 そんな事をアスランが考えてるとも知らずに、キラは困ったようにアスランの腕の中に 居ました。 このままでは本当に、会社に遅刻してしまいます。 その上、キラが一生懸命に作った朝食が冷めてしまいます。 「(どうしよう・・・・)」 キラが途方にくれていると、突然トリーが鳴き始めました。 「トリィートリィー」 その声を聞くと、アスランは苦虫を潰したように顔をして、のっそりと起き出しました。 勿論、キラを胸に抱いたままの状態で。 アスランの胸に頭を押し付けていたキラは気付きませんでしたが。 アスランは、キラのサラサラの髪を撫でながら言いました。 「キラ、もうじきカガリが朝ご飯、食べに来るよ。」 「本当?」 「ああ。」 キラは、何故アスランが、カガリが来ることが分かったのか、分かりませんでした。 しかし、『アスランはスゴイから。』の一言で片付けてしまう癖がつき始めていたので、 時折アスランが突拍子ないことを言っても、いつもは余り気にしないのですが。 今日は、不思議に思ったので聞いてみました。 「何で分かったの?」 「うん?ああ…キラは、知らなくてもいいよ。大した事じゃないし。勘…みたいなものかな?」 「そうなの?」 「ああ。」 アスランは、微妙に言葉を濁しながら、カガリが来ることの種明かしはしませんでした。 と言いますか、出来ませんでした。 本当のことを言ってしまったら、キラは怒り出すかもしれないからです。 アスランは、トリーを最近改造したのです。 カガリとラクスが半径3m以内に入ってくるとトリーが鳴き出す様にしたのです。 勿論、同じ鳴き方では、どちらが来たのか分からないので、多少鳴き方を変えましたが。 実は、アスランは二人からいろいろと釘を刺されていたのです。 ・第一。夫婦だからと言って気安くキラを押し倒してはいけません。 ・第二。二人(カガリ・ラクス)が家の中に居るときに、淫らな事をしているのを発見  した場合は、問答無用でキラを預かる。 ・第三。二人が来た場合(一人の時も含め)丁重に扱うこと。 その後、幾つもアスランが守らなくてはいけないことが、ずらずらと書き込まれた紙が 何枚も渡されました。 しかし、キラには渡されず。 このことについて、キラは何も知りませんでした。 そのことについて、カガリとラクスに訊ねると、二人は声をそろえて言いました。 『あいつ(キラ)にはそんな事を言わなくても心配ない。(ですわ)』 「俺だって、そんなこと・・・」 「しない自信があるのか?」 「言い切れますの?」 「・・・・・」 最後まで反対意見を言う前に言葉をかぶせられ、疑いの眼差しを向けられてしまいました。 これには、ぐうの音も出ません。 はっきり言って、アスランは言い切る自信がありませんでした。 あんなにも可愛いキラを目の前にして、理性を保てるか本当のところ自信がありません。 そのことを見抜いていた二人は、前もって釘を刺すことを思いついたのです。 よほど、キラが大事と見えます。 そして、アスランは、キラを二人に奪還されないが為に、キラに怪しまれずに二人の 存在をキャッチできるようにと、トリーの改造を思いつき改造したのです。 此処に、アスランの日頃からの努力の成果の詰まったNWEトリーが誕生したのです。 ソレまでのトリーの機能に盗聴&盗撮機能が着いていた事は、キラには話していません。 話た瞬間にキラに嫌われる事間は違いなしです。 なので、この事についてアスランは墓まで秘密を持っていくつもりです。 さて。そうこうしている間に、カガリがアスランとキラの家の前まで着ました。 そして、チャイムを鳴らします。 今の時間を考えると、他人の家を訪ねて良い様な時間ではないのですが、 カガリはキラのたった一人の血縁者なので、黙認してしまうことにしましょう。 「キラ、悪いんだけど見に行ってくれる?俺はその間に着替えるから。」 「良いよ。あ、早くしないと時間なくなっちゃうよ。」 「分かってるよ。」 キラが玄関に向かって走って行くのを、可愛いなぁ〜と眺めながら、自分も起き出して 着替え始める。 朝のイチャイチャタイムを邪魔されたことを少々根に持ちながら……。 その後、カガリを交えての朝食が始まり、キラは能天気に、 「いつもより人数が多くて、楽しいね!」 と笑っていましたが、アスランは楽しくありませんでした。 時たま会話に混ぜて、カガリがぼそりと零す言葉を聞いていると、何かと生きた心地が しなかったからです。 例えば・・・・ 『まだ、頑張っているようだな。後、どれくらい持つやら。』 『早いトコ、現場を押さえてしまえば、キラはこっちに戻って来るんだがな。惜しい事 をした。』 『もっと、細かく注意事項を書いとけばよかったな。今度、追加をラクスと考えるか。』 アスランは、カガリが早く帰ってくれることを切に願った。 いつもは信じもしない神に祈りたくなったし、願いを叶えてくれるのなら、悪魔にでも 頼み込んでしまいたい心境だった。 今は、大人しくしていようと心に決めた瞬間でもあった。 そして、カガリはアスランが仕事に出て行くときもまだリビングに居たままだった。 「アスラン、今日もお仕事頑張ってね?」 「ああ。行ってきます??」 「今日は早く帰ってこれるの?」 「頑張って帰ってくるよ。」 「うん!待ってるね???」 天使のような笑みで、仕事に出て行くアスランに声を掛けるキラ。 この笑顔の為に仕事に出て行くアスラン。 そして、今となっては日課となった行ってきますの『ちゅー?』をして出て行くアスラン。 可愛らしい新婚夫婦と言われる所以は此処にあったりするのだ。 リビングから体をそらしてその好意を未定鷹狩は、恥ずかしい奴らだなぁ。 と言葉を漏らしていたが二人の幸せな世界に居たアスランとキラが気付くことはなかった。 □■□■□■□■□ アスランが仕事に言ってしまった後、カガリと仲良く皿洗いや洗濯をしながら、楽しく 談笑をしてキラの今日は終了。 三時ごろにカガリが帰ると、夕食の食材を買いに近くのスーパーにお買い物。 いろいろな人に声をかけられながら、いつもより時間が掛かってしまったが、小走りで 家に帰り、夕食の準備。 お風呂も沸かして、いつアスランが帰ってきても良いように、準備は万端です。 さて、その頃の旦那様。 愛する奥様の為に、一生懸命お仕事に励んでいました。 お昼は、キラのお手製の愛妻弁当を食べて午前中の疲れをフッ飛ばします。 残業などという悪の手から逃れ、仕事が終わると、愛するキラの待つ愛の巣へと直行!! 妻のサイコーの笑顔が見たが為だけに。 あの笑顔があれば、どんなに大変な仕事の疲れだってフッ飛んでしまいます。 そりゃもう、バブ(入浴剤)が不要になってしまうくらい。 息が切れるぐらい、一生懸命に走って玄関の前に立つと、タイミングよく玄関の扉が 開きます。 これも、トリーに仕掛けたからくりによる効果。 ガチャッ そこには、朝別れて行った可愛らしいキラの笑顔が……。 淡いピンク色のフリフリのエプロンが似合っていてとても可愛い。 背景に花が飛んでいるのが見えるのはアスランの気の所為ではないだろう。 キラ・・・なんて可愛いんだろう。(昇天寸前) 君は、世界一のお嫁さんだよ???(永久保存) そんなアスランの考えを全く知らないキラ。 誰もを魅了して止まない、その笑顔で、アスランをノックアウト。 「お帰り、ア〜スラン???」 「ただいま―――!!キラ?????」 今直ぐにでも抱きつきたい気持ちを抑えて、アスランは、返事をした。 今、此処で押し倒すのは、キラも辛いだろうケド、御近所様にも迷惑が掛かるから、 なけなしの理性を総動員して、堪える。 しかし、そんなアスランの努力も次のキラの発言によって無意味なものへと消える。 「今日も、お仕事ご苦労様?え―――っと、まず、ご飯にする?お風呂にする? それとも……」 恥らったように発言するキラが、何とも可愛らしく。 しかも、最後の言葉が恥ずかしさの余り言えない所など、本当に昇天しても良いんじゃ ないかと思ってしまうくらいの可愛さである。 これには、流石のアスランも、堪らなかった。 「え……あ…えと―――っと…………キ……キラにする…??」 「も〜〜〜、アスランてっば、いっつもソレなんだから???」 アスランの発言に、照れた様にビンタをしてくるキラの可愛さに、更に自分がオオカミ になって行くような気持ちになったが、 別に構うもんか。と勝手に自己解決をして、キラを抱き上げた。 そして、本当に実行するなんて思って居なかったキラは驚きの余り、自分の言った言葉を 撤回したくなって、言い訳を言いながら声を上げる。 「ア、アスラン!!」 「うんと、優しくするから・・・」 「え、でも、ご飯冷めちゃう!!」 「後で、暖め直せば良いよ。」 「あっ、えっ、先に、お風呂入らないの?」 「一緒に入る?」 「!!」 キラの事を茶化しながら、後ろ手で玄関のカギをかけて寝室に入っていくアスラン。 キラの顔は真っ赤である。アスランの首に両手を回し、耳に小さく囁いた。 『優しくしてね?』 そして、よっぽど恥ずかしかったのだろう、直ぐにアスランの胸に顔を埋めてしまう。 可愛らしいキラの姿に、自分の中で何かが切れていくのを感じながら、アスランは言葉 を紡いだ。 「出来るだけ、努力する。」 可愛らしい奥様は、この後カッコいい旦那様にたくさんの愛を注がれて、そのまま眠り についてしまいました。 冷めてしまった料理も、温くなってしまったお風呂も、二人の愛の前には何の意味も 持ちません。 今は、二人の愛だけが、この世の絶対的な熱。   そして、ソレを見ていたのは夜空に輝く星と月だけ。


これを書いていたときはきっと楽しかったんだって。 あのときの自分が何考えてたのか知りたい。

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