暗闇の中で、それでも人魚は踊る

愛機−フリーダム−の丁度腹部に当たる位置にインパルスのソードが突き刺さる。 ビームなどの粒子的な攻撃は防げても、ソードなどの物理的攻撃には滅法弱い フリーダムのシールドはインパルスのソードを容易く受け入れた。 ――――――とうとう死ぬのかな? 自分の叫び声だけがコックピットの中に木霊す。 考えるのは、カガリやマリューさん達が乗っているアークエンジェルのことばかり。 守りたかったものも、満足に守れずに死んでゆく僕を許してくれる人は居るのだろうか? 無理やり行われた着水の衝撃と、機体の分裂の衝撃に耐え切れずに、キラは意識を手放した。 ――――――・・・・・・コレで自由になれるのかな? 暗い闇が目の前に広がっていて。 ソコを進むことも戻ることもせずに立っている少年が居た。 何がしたいわけでもないのにソコに突っ立ったままで。 僕は声をかけようとした。 すると、少年はこちらを振り向いた。 振り向いた少年の顔はよく目にしていたもので。 自分の幼い頃の顔と酷似していた。 「お兄さんは、だれ?」 「僕は………キラ。キラ・ヤマト。」 「わあ!僕の名前と一緒だ。僕もね、キラ・ヤマトっていうんだ。」 「そうなんだ。」 「お兄さんはどこから来たの?」 「どこからだろう?よく覚えてないんだ。」 「僕はねずっと、ここに居るんだ。」 「お母さんやお父さんは?」 「知らない。僕はずっとここに独りだから知らない。」 「寂しくないの?」 「サビシイ?なぁにそれ?」 「………なんだろう……胸が苦しくて……無性に誰かに会いたくなって。自分の事を  ………見つけてもらいたくなること…か……な?」 「ふ〜ん。じゃ、僕はサビシクないよ。ここには僕意外、だれもいないし。僕にとって お兄さんがはじめて会った人。」 「そうなんだ。」 「お兄さんはこれから何処かに行くの?」 「分からない。」 「待ってる人はいないの?」 「どうだろう?」 「しつもんに、しつもんでかえしちゃいけないんだよ。」 「ごめんね。」 「………お兄さんはここに居ちゃダメなんじゃないかな。」 「かもね。」 「待ってる人が居るかもしれないなら、その人にサビシイって思わせたりしちゃダメ だと思うよ。だから、お兄さんは帰らなきゃ。その人のいる場所に。」 「帰れるかな?」 「お兄さんが望めば。」 「僕が望めば?」 「そうだよ。」 「帰りたい。みんなのところへ。」 「じゃ、上だけ見て行ってね。決して、振り向かないで。」 「上だけを見て。」 「そうだよ。振り返らないで。」 「さようなら、お兄ちゃん。もう一人の僕。」 「!!」 振り返ろうとして『決して、振り向かないで。』先の少年の言葉を思い出し。 約束を破るようで振り向けなかった。 昇り行く先には、一筋の光が見えた。 目が醒めると、そこには見慣れた天井。 頬に一筋の涙が流れた。 「よう、坊主。お目覚めか?」 声を頼りに左を向く。 金髪の見知った人。 でも、今は知らない人。 マリューさんの恋人で。 彼女を悲しませた人。 でも、彼は違う人。 「ムウ……………さ……ん…………に……よく似た変な人。」 「っ〜〜〜〜!!もう少し言い方は無いのかよ。」 「……ないです。」 「思案してもないのかなよ!」 「ありません。」 「即答かよ。」 「僕、生きてたんですね。」 「ああ。生きてるな。」 「フリーダム。粉々になっちゃった。」 「ボロボロだったらしいな。」 「僕、役立たずですね。」 「生きてただけでも、良かったんじゃないのか?」 「…………」 「生きてりゃ、何とでもなるだろ。」 「ムウさんが真面目なこと言ってる。あ、でも他人か。」 「俺が、真面目なこと言っちゃ悪いのか!?」 「明日は雨だ。もしくは槍が降る。」 「降らねぇよ!!」 「………寝ます。」 「どうぞどうぞ。勝手に寝てください!!」 「……や………たずは…………い…………。」 「何言って………てもう寝てやがる。」 また夢を見た。夢の中で泳ぐのは誰だろう? 暗い闇の中でゆらゆらと漂って………。 目の前に辿り着いたのは…………… 「!!」 元は人の一部だった、今はただの肉片と化した手。 ばっ!と音が立つぐらいに顔を上げる。 漂っているのは、魚でも人でもなく。 ヒトだったもの。 今はただの肉片と化したものが漂っている。 それらの正体に気付いた途端に咽返るような血の臭い。 吐き気がする。 たまらずに、その場に蹲った。 バシャン!! 足元に溜まっていたのは水ではなく血溜まり。 自分の顔が映る。 表面がゆらゆらと揺れて。 ヒトの顔になる。 「どうして守ってくれなかったの?」 「どうして殺したの?」 「どうして生きてるの?」 「どうして」 「どうして」 「どうして」 遠くを彷徨っていた肉片たちが吸い寄せられるように、此方に流れてくる。 コレは、僕が殺した人たちのもの? 「うわぁぁぁぁああぁぁああああっあああ!!!!」 「っあ……」 自分の叫び声で目が醒める。 いやな汗が背中に流れる。 恐怖からの反動で、体を起こす。 左手に巻かれた包帯から薬品の臭いと、血の臭い……。 血の………自分から自分以外の誰かの血の臭いがするような気がした。 咽返るような血の臭いが。 「っく……ぁ……」 「っくそ。キラ、正気になれ!!起きろ!誰か居ないのか!!」 「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」 「キラ!!聞こえてんのか!?オイ、キラ!!」 「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。」 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ごめんなさい。 ご め ん な さ い 。 ――――――――――暗い闇の中で、それでも罪人は踊る。贖罪の舞を。


自分の中でちょっと狂ったキラが好きだった頃の話。 罪にさいなまれた結果が帝王への路だと思うんだ。 それ以外に、アンナとんでも帝王への道はないよ!!

≪戻る。