彼は僕にとってなんだったのだろう? 憧れ? 羨望? 憎悪? 侮蔑? 彼は僕の感情栓だった。 彼が死に僕に残されたモノはなんだったんだろう。 彼のイニシャルの入ったパズル? 二代目としての椅子? ただ、ハッキリと分かっていることは。 僕の感情の導火線は湿気って使い物にならなくなってしまった。 このことだけ。 「はぁ」 Lのイニシャルだけが書かれた真っ白なジグソーパズルを組み立てながら、 僕はただ暇をもてあましていた。 夜神月が死んでからというもの、どんな事件も僕にとっては退屈な品物になって しまった。 彼は、Lを殺し、ニアを殺し。 そして、僕の心も殺した。 僕の心は何も感じなくなった。 何もというには弊害があるかもしれない。 何も感じないというよりは鈍くなってしまったのかもしれない。 全てがどうでもいい。 けれど、日常は一定のリズムで時を刻み、進んでいる。 取り残されているのは僕だけなのかもしれない。 『L』も同じことを考えていたのだろうか? 1cmの厚さしかないブラウン管を覗いて。 彼は何を思ったのだろう。 この薄い世界で。 裏を覗けば何もなくて。 ただ、退屈な世界が広がっていた? そこに、夜神月が現われた。 太陽に照らされなければ自ら輝くことも出来ないのに。 彼は、Lの中を照らして、そして、彼を虜にした。 彼が『キラ』であると信じ、信じ込んだ。 それは、間違いではなかった。 けれど、彼は盲目的に夜神月を『キラ』だと思っていた。 それは、とても彼らしくない。 彼らしくないなどと、僕が言うのはお門違いかもしれないけれど。 けれど、そう思うより他なかった。 最後の1ピ−スをはめることはとても容易で。 何を表しているのかなんて分かりきってしまっている。 それは何て退屈なこと。 最後の1ピースを隠してしまえばいいのか。 そんなお遊びで防ぐことが出来るような焦燥感ではない。 Lの偽者(二代目L)としてここに居る。 それは嬉しいこと? それは悲しいこと? 何なのかは分からない。 遠慮のないドアのノックの音が聞こえ、無機質なドアが開く。 「L、お仕事です。」 「・・・・」 舞い込んだ退屈な仕事。 レベルの低い事件の山。 夜神月と対面していたときのあの数ヶ月間は快感と憎悪に溢れていた。 おそらく、僕が生甲斐を持っていたのはあのときぐらいだったのだろう。 僕が超えるはずだった『L』を殺した彼は僕の中である種の特別な存在になっていた。 人への執着心の薄い僕にとってはそれはとても珍しいことだった。 『L』という存在を抜きにしては。 『L』の存在を知ったのは孤児院に入ってからだった。 「お久しぶりです。」 「Lよく来たね。」 「たまには顔を出さないと忘れられそうなので。変わりないですか?」 「特にはね。君のほうこそ・・・・・」 その日、見知らぬ人が孤児院にやってきた。 その人はどうやら理事長としろ愛のようで、親しげに話していた。 僕が分かったのは彼の名前が『L』であること。 『L』が名前であるのかどうか確信はなかったが、とりあえず判別のための名前と して僕の中で処理された。 眼の下にくまがあって、やる気なさそうな雰囲気を纏っていた。 背は猫背で、丸かった。 ただ、何となく僕と同じにおいを感じた。 その日以来僕は彼のことが気になり、色々と調べ始めた。 彼の存在を知れば知るほど僕は彼に興味がわいた。 それは、刷り込みだったのかもしれない。 それを決定的にしたのは図書館で見た1冊の本。 それは古代文字を解説していた。 その本の背表紙には何も書いていなかった。 表紙も、裏表紙も。 真っ黒な装丁の本だった。 本を開くと鏡文字の文章の羅列がいきなり始まった。 古代文字というだけで一般人は犬猿擦るだろうに、この本の著者の思考が全く 分からなかった。 嗜好と言ってもかまわないのかもしれない。 それは、あまりにも、不親切な本だった。 けれど、僕はその本を図書館に入り浸って一心不乱に読んだ。 そして、自分なりに最大限に内容を理解し、暗記した。 僕は全てを読み、そして、古代文字で書かれた一文字を発見した。 それはとても難解な謎かけで、この著者がどれほどひねくれているのか示している ような気がしてならなかった。 『L』 解読して分かった一文字。 それは、彼の名前。 夜神月の死の前に僕が言ったことを後で反芻してみた。 僕とニアとでならLを超えられる? それは、僕一人では決して超えられないもの。 三角不等式だとでも言いたいのか。 僕一人ではLには敵わない。 ニア一人ではLには敵わない。 けれど、二人を足せばLに敵う。 彼を越える前に、彼は死に。 僕は、一生彼を超えることが出来なくなった。 唯一彼が気にしていた夜神月でさえも死んでしまった。 そして、僕は二代目『L』となり、指揮を取っている。 これは、望んでいた位置? 彼の居た場所に僕はこうして座っている。 僕は彼のようになれた? けれど、それは不可能なこと。 指数関数のように僕はLには限りなく近づくことが出来るけど、 決して、Lにはなれない。 それはとてももどかしくて。 「人は他の誰かになることなどできないのよ」 聞こえた声は誰のもの? そんなことは百も承知だ。 彼を、彼だけを追ってきた自分にはそれが痛いほどよく分かって いる。 今更、指摘される覚えなど・・・・・ない。 結局のところ、 僕はLが好きだったのだろうか? 青空が広がっていた。 庭にぼうっきれで彼への手紙を書いた。 これを彼が読むのかどうかなんて分からなかった。 けれど、今は、僕と彼だけが知っている言葉。 (僕は、図書館にあったあの本をパンドラの箱の中に隠してしまったから) 『親愛なるLへ 僕は思いのほかあなたが好きでした アナタの隣のMより』 文字は風に吹かれて直ぐに跡形もなく消えてしまった。 これは、肉親に対する『愛』だったのか。 今となっては誰も分からない。 最後のピースをはめて出て来たのは何?
デスノでは初のSSでした。 これいつかの夏に書いたやつなのですが…。 整理していたら発掘したのでUPしてみました。
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