朔の月

あいつは俺の策に嵌って先に死んだ。 俺は死後の世界なんて興味は無い。 死神と契約を交わした俺には天国も地獄もない。 それは、リュークと契約を交わした時から分かっていたこと。 けれど、あいつは、Lは違うんだろう。 Lは死神のノートには触ったが契約を交わしたわけではない。 そして、あいつはレムのノートに名を書かれ死んだ。 椅子から崩れ落ちるお前を見た時に笑いがこみ上げた。 どうして、笑わずにいられただろう。 しかし、俺はその襲い掛かる笑いを噛み殺した。 けれど、堪え切れなかった笑いが口角を上げた。 それを見たあいつの驚愕の顔が忘れられない。 俺は、Lに、竜崎に勝ったんだ。 あいつの死を俺が与えることによって、あいつの全てを俺が奪った。 俺はあいつの時間を奪ったんだ。 優越感と愉悦感と、何だか分からない感情が胸中を渦巻いた。 俺はあの時、声を上げて笑いたかったのだろうか? 俺はあの時、声を上げて泣きたかったのだろうか? 俺はあの時、声を上げて罵りたかったのだろうか? 俺はあの時、声を上げて懺悔したかったのだろうか? 何も分からなかった。 自分自身で書いたシナリオを演じる自分。 登場人物に扮して道化師を演じる自分。 そして、それを観客のように見ている自分。 あの場に何人の『俺』が居たんだろう。 どれが本当の俺でも構わなかった。 きっと、どれも本当の俺で。 きっと、どれも偽者の俺で。 きっと、どれも半端な俺で。 何がしたかったのかさえ、曖昧になってしまいそうだった。 それが怖くて、その場を逃げ出した。 道化師を演じて、その感情全てを厚い化粧の下に隠して。 『朔の月』 退屈な世界に色がついたのがノートを拾ったときなら。 退屈だった毎日が楽しくなったのがあいつに逢ってからなら。 あいつが俺のことを『KIRA』と呼んだときに得たこの感情は。 俺が『KIRA』なら良いと言ったお前の言葉に高揚したこの感情は。 この感情に名前をつけるなら。 ― 恋 ― だったのかもしれない。 けれど、これは・・・。 過剰すぎる砂糖と。 憎悪がバターのように溶けあった濃厚さと。 道化師よりも底の見えない嘘と。 傷を舐めあうような無様さと。 言いようの無い愚かさを加えて想っていたんだろう。 あいつの墓の前で、あらん限りの思いで嬲ってやった。 罵詈雑言を浴びせてやった。 けれど、あいつからの痛烈な返答はもちろん無く。 ただ、虚しくて、あいつが死んだことをまざまざと感じさせられた。 本当に何もかえってはこなかった。 それに酷く絶望した。 吐き気がするほどに、何も考えられなくなった。 雨が降れば良いとおもった。 雨が降ってしまえば、上から降ってくるのは雨だと言い切れるから。 自分が何を考えているのか分からなかった。 それに感傷的になったのかと問われれば、 否 ときっぱりと言い切れない。 この堪らなく退屈な世界に俺を一人にした。 お世辞でも何でもなく、お前ほどの反応を返してくる奴は居なかった。 死後の世界で宜しくしてるのか。 そんな馬鹿な話は無いだろう。 あいつも、死ぬほど退屈な生活を送ってるに違いない。 ざまぁみろ。 俺の罠に簡単に嵌って、簡単に死んで。 それで、お前は愉快で仕方なかったこの世界と離別した。 退屈で、退屈で。 退屈に思考さえも溶かされてしまえば良い。 そして、自分という存在をなくしてしまえば良い。 無に還って、そして、俺の中から消えてしまえば良い。 吐き気がするほどの退屈の中でその苦痛に苛まれれば良い。 そうして、俺の存在を憎悪すれば良い。 俺に逢いさえしなければ、こんなにも退屈な思いをせずに済んだのに。 哀れな奴だ。 けれど、それは俺にも言えることかもしれない。 お前が居ないこの世界は退屈で、退屈で仕方ない。 退屈に押しつぶされて、頭の芯からの警鐘が止まない。 この退屈のおかげで俺は、きっと俺の死に気づかないだろう。 お前の席を奪い取って。 それで得たものは何だった? もう、何も感じないこの心をどうしたらいいのだろう。 太陽が無ければ輝けない月は。 真っ暗な闇に隠れてしまった月は。 あいつ―L―が居なければ輝けない月は。 暗闇にぽっかりと穴を作ることもできない月は。 意味を持てずに死んでしまった『朔の月』 策に溺れた愚かな月。 月 ニ 笑 ワ レ テ イ タ ノ ハ 誰 ?


PUZZLEに続いてデスノ。 そんなにLばっかり想って楽しいのか・・・。 片思いとか独白とか大好きです。

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