世界の中心でなんて愛を叫ぶ気なんてありません。愛を叫ぶのはアナタの隣だけで十分です。

アナタを初めて見たのは、きっとこのお店じゃないと思います。 でも、アナタのことが脳裏をよぎって忘れられなかったんです。 でも、どうしてだか、アナタの声だけは思い出せないんです。 ■□■□■□■□ 「いらっしゃいませー」 やや間延びした声が店内に響く。 アルバイトなんて、自分の好きなものを手に入れるために仕方なくやってるんだから、 別に熱がこもって無くても誰も文句なんて言ってきやしない。 誰もが、ソレが普通だと思ってるから気にも留めないし。 アルバイト店員の風上にも置けないこと思ってるなぁ〜なんてのは、自分の中だけで 思ってること。 一回も突っ込まれたことなんて無いから、きっと風上にも置けない奴ではないのだろう。多分。 いつもは見もしない店の入り口を今日は珍しく見た。 自分の行動もたまにはいい結果を生むんだなぁって、今日はしみじみと思った。 「!」 白い文字が邪魔にならない程度に入った黒地のTシャツ。 グレーのメッシュ生地が上に乗ったハーフパンツ。 夏の半ばも過ぎようとしているのにまったく焼けていない白い肌。 野球帽にも似た帽子を前後逆にかぶったその出で立ち。 見覚えがあった。 なんか、こんな言い方をすると、何か悪さをされたみたいな感じが否めないけど。 別にそんなことは無くて。寧ろ、その間逆で。 もう一度、何処かで出会えることが出来るのなら、会いたかった。 声が聞きたかった。 どうしても思い出せないその声が、聞きたくて仕方なかった。 姿はしっかりと覚えているのに。 どうしてか、声だけが思い出せなくて。 家に帰ってからの、あの、なんともいえない焦燥感が……。 それから、やっと開放される。 どうして、こんなにも彼の声が聞きたいのかなんて分からないけれど。 声がどうしても聞きたくて。 そんなにも彼の声に執着している自分がいることが自分でも分かんないけれど。 「あの〜……ちょっと……え〜〜〜…ちょっと!!」 「あ、はい。」 ふと我に返ると、目の前に客がいた。 いつの間にか意識が違うところに吹っ飛んでいたようだ。 久しぶりの自分の失態に、苦笑が漏れそうになるのを必死に堪えた。 客は苛立ち気に、床をカツカツと蹴っていた。 規則正しい靴の音が刻まれる。 煩い位に店内のステレオから様々な音が発されていると言うのに、靴の音が耳に付く。 耳障りだった。もしかしたら、彼の声が聞けるかもしれないのに。 間が悪い事に今日のバイトは後数分で交代になってしまう。 彼が、今日何かを買うのか、それとも借りるのかは定かではないが。 もしかしたら、ただ見に来ただけで、会計を素通りして帰ってしまうかもしれない。 次ぎ、確かに会えるのか定かではないのに。 いつもはなんとも思わない客のそぶりが、今日は気になって仕方が無かった。 自分とこの目の前の女との関係が店員と客と言う関係でさえなければ、殴り倒してでも 黙らせてしまうところなのに。 「会計お願い。早くしてよ。」 無遠慮な声が掛かる。 ワインレッド色の長い爪がカツンカツンとレジに置かれたCDを弾く。 「少々お待ちください。」 笑顔が引きつっていないだろうかとか、声が低くなっていないだろうかとか。 そんなことは気にならなかった。 別に、次にこの客が来た時も、俺が相手をするとは限らない。 きっと、次なんて無いだろう。 今はそう願いたい。 こんな客の相手なんて真っ平ごめんだ。 自分が、余所見をしていたことなんてすっかり棚に上げていた。 そうこうしている間に彼は店から出て行ってしまった。 どうやら、気に入ったものが無かったようだ。 バイトが終わった後の俺は、果たしてどうやって家まで帰ってきたのか。 バイトの拘束時間から開放されれば、大抵は清々した顔をして行く時とは打って変わって 足取りも軽いはずなのに。 今日ばっかりは、夢遊病者のようだったかもしれない。 願わくば、彼がもう一度あの店に訪れますよう……。 ■□■□■□■□ 「はぁ…」 彼とのささやかな再会から一週間が経ったがあの後、彼は一向に姿を見せなかった。 もう会えないんじゃないかと諦めが混じり始めた。 彼がこの町に住んでいるとは限らない。 もしかしたらたまたま遊びに来ていて、たまたま寄ったのかもしれない。 どうやってもプラス思考になんかにはならなかった。 「はぁ…」 ため息ばかりが漏れる。 そう言えば、ため息をつくと幸せが逃げるって誰かが言っていた様な……。 「はぁ…」 ■□■□■□■□ 「いらっしゃ…い……ませ……」 八月も残りを後一週とした所で俺は再び、彼に出会った。 あの時と同じような格好をして。 あの帽子のかぶり方は何か、意味があるのだろうか? 彼は前来たときと同じ場所をふらふらとしながら……何枚かCDを手にとっては棚に 戻し。手に取っては戻し。 「鳳、あの客ちょっと怪しいから、見て来い。」 「……あ?…っえ……と。」 「あそこの、逆向きに帽子被ってる色白兄さんだよ。」 店長の指差した先には、彼がいた。 その指の指す方を見て。 それでも店長の言い方で、彼をさしているなんて分からなかった。 彼に対してあまりにも失礼なことを言うから、本当に一体誰のことを言っているのか 分からなかった。 「ちんたらしてねェーで早く行って来い!」 「………はい…」   彼との記念すべき接触がまさか、忠告になろう何て誰が予想しただろうか? そう言えば、今日の『おはよう青春台ハンディ天気予報&星座占い』で、 『水瓶座のアナタ、ごめんなさい。今日は最下位です。問題発生!!ただ…それは元々  あったのに、アナタが目を瞑って居ただけの様です。もう逃れられません。とにかく  真正面から立ち向かうようにして!!』 キャスターのお姉さんは、元気よく楽しそうに結果を発表していた。 テレビの画面でさえも無情だった。 恋愛運――― 1  健康運――― 1 金運――― 1 ラッキーカラー ――― 紫 いい所なんて何も無かった。 神様が本当に居るのなら、殴り倒したい気分で一杯だった。 藁にでも縋りたい人間の気持ちがこんなところで分かるなんて数分前まで思いもしな かっただろうに。切なさで一杯だった。 「はぁ…」 彼までの道のりがこんなにも長いなんて。 泣きたいです。 ああ、もう彼に手が届く。 「何かお探しですか?」 もう、さりげなく言うしかなかった。 面と向かって、 『万引きですか?』 なんて言った日には、もう彼との縁は完璧に絶たれたと思っても構わないだろう。 ああ、無情。 「……」 ―――シカト!! お母さん。俺の声は彼には届きませんでした。 死ね店長――――――― !!!! 「店員さん大丈夫?」 「え?」 「?…あのさ、最近入ったので、オススメ無い?」 彼は手に持っていたCDやDVDをすべて棚に戻して、こちらを見上げてきた。 見上げると言う表現が正しいか分からないが多分、十センチは身長差があると思うので あながち間違っては居ないと思う。 「えっと……あぁ、今一番人気があるのは『今、会いにゆきます』ですね。」 「アンタのオススメは?」 「え?」 「だ・か・ら。アンタのオススメは?ないのかよ?」 まさか、俺のお勧めを聞かれるなんて思いもしなかった。 何がいいのだろうか? 彼が好きなもの。 恋愛ものなんて見ないかもしれない。 う〜ん。と唸りながらふと目に付いたパッケージ。 この間の冬に公開された映画。 最近DVDになって俺も借りようかなんて思ってたんだっけ? 「……『世界の中心で愛を叫ぶ』ですね。」 「セカチュウね。俺、映画館に行って見て来たんだよなぁ。」 「そうなんですか。じゃぁ、違うの紹介すれば良かったですね。すみません。」 「別に、謝らなくてもいいだろう。俺がコレ見に行ったなんてアンタは知らないんだから。」 「いえ!役に立たなくて。」 申し訳なくて、彼の顔が良く見れない。 「そういや……」 彼は、DVDを手に取ると、パッケージを眺めながらしゃべり始めた。 「コレ一人で見に行って、上映が終わったから立とうと思ったら立ちくらみしてさ。 隣の人に助けてもらったんだよな。その人、世話好きみたいで外まで連れてってくれ たんだ。」 「そうなんですか?奇遇ですね。俺も一人でコレ見に行ったときに隣の女性が立ち眩み を起こされて、外までお連れしたんです。」 「へぇ。アンタいい人だな。」 「ありがとうございます。その人、真っ白のコートを着ていらして、髪は黒のロング だったんですよ。十二月の二十四日でした。」 「………。……俺も……その日に見に行ったんだ。」 「でも、その女性の髪は黒のロングで……」 「今年の春までは願掛けで伸ばしてたんだよ……」 「………あ……もしかして、『氷帝高校前劇場』ですか?」 「…あぁ……」 妙な静寂が訪れて。 「あの、今日はもうバイト、上がりの時間なんで。立ち話もなんですから、近くの喫茶 店行きませんか?」 「そう……だ…な。」 ■□■□■□■□ その後、俺は喫茶店の中で彼にずっと謝り続けていたように思う。 何故、髪の長かったはずの彼を店の中で見たときそうだと確信をもてたのか。 俺の記憶がいつ摩り替わっていたのか。 不思議な事だらけだったが、それでも何とか、彼に嫌われずには済んだ。 「はぁ……」 今日一番のため息が俺の口からはこぼれた。 ■□■□■□■□ 「いらっしゃいませ!!」 やる気満々の自分声が響く。 気になる人が店に来たときぐらいは少し声が弾んでしまうのは、仕方ないんじゃないかなぁ。 何て思いながら、今日もレジ打ち。 宍戸さんはあの一件以来、良くこの店に来るようになった。 ソレが何故なのかは分からないが、俺にとっては願ったりかなったり。 それからたまに一緒にお茶をするような仲になって。 スケジュールの会う日には遊びに行ったりとか。 そして、宍戸さんは再び、髪を伸ばすようになった。 理由を尋ねたら、『願掛けだ!!』と言われるだけで、はっきりとは教えてくれなかった。 ■□■□■□■□ あっという間に、月日は流れて。 あれから、一年以上たってしまった。 宍戸さんの綺麗な黒い髪に指を絡めながら。 まさか、こんな日が来るなんて思いもしなかった。 世界の誰よりも自分が幸せだと、今なら、言える。 その隣には、宍戸さんが居て欲しい。 「髪、昔みたいに長くなりましたね。」 「お前が、トロトロしてるから……」 「……えっと……俺は自惚れても良いんですか?」 「……バカヤロー」 真っ赤な宍戸さん。可愛い………。 「宍戸さん。」 「何だよ。」 「ちゃんと聞いててくださいよ。俺、こう言うの苦手なんですから。」 「ん?」 部屋の中で二人っきり、向き合って。 宍戸さんの瞳には俺が居て。 俺の瞳にも宍戸さんが居る。 俺は、深呼吸をして。  「俺の世界の中心は宍戸さんです。初めて会った、あの日から。だから、お店であった ときも宍戸さんだって分かったんだと思います。俺、声をかけたあの日の前に宍戸さん が来た時もちゃんと分かったんです。だから、俺は宍戸さんにだけ愛を叫びたいと思い ます。宍戸さんのためだけに愛を叫びます。」 「俺も、一緒だ。」 「宍戸さんだけを、愛しています。」 「俺も、長太郎だけを愛してる。」 世界の中心で愛を叫ぶ気なんてありません。 愛を叫ぶのはアナタの隣だけで十分です。


何コレ。 砂糖とか砂とか吐けるね。 何が目的で書いたとか忘れました。 それすらも、今はどうでもいいです。 テニスの書置きはコレで最後。 次回があるかどうかは…無いと思うけど。 氷帝が好きだったことは良く覚えてます。 青学も好きだったょ。 本当に、当時の自分に会ってみたいわ。

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