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アスランはアークエンジェルの船中に入るやいなや、勝手知ったる雰囲気で怒気を振り まきながらカガリの個室に走りこんだ。 ドアが開くのを待つのでさえもじれったかった。 半ば無理やり入り込むような形で押し入った。 「カガリ結婚ってどう言う事だ!!」 アスランの乗る機体-セイバー-がアークエンジェルに入船して初めて発した言葉は、 カガリにとってとても悲しい言葉だった。 今は再会を喜んでいる場合ではなかったし、そのことをカガリ自身、重々承知はしていた。 しかし実際、久しぶりに会った恋人にそのことを言われるのは心が痛んだ。 「………あれは、元々決まっていた縁組で……その…」 正面を向いてアスランの顔など見れるはずも無い。 こんな形での再会を迎えようなどとあの時、指輪を貰ったときどうして考え付こうと 言うのだろうか。 「俺の事、信じられなかったのか?」 両肩をがっちりとつかまれ、激しく揺さぶられる。 混乱している頭が、ぐらぐらと揺れて余計に物事が分からなくなる。 精一杯の返事でさえも伝えれらる言葉にはならない。 「違っ………!!」 「カガリ」 トン。 後ろから優しく肩に手を置かれる。 アスランが部屋に入ってくるのと同時に後ろから入ってきていたのだろう。 激怒したアスランが何をしでかすのか分からないから。 自分のことなんていっつも後回しで。他人のことばかりに気を配って。 そのことで自分が傷つくことなんて気にも留めないで………。 声を聞いただけで、誰だかすぐに分かる。 振り向けばホラ、悲しい色をしたお前が居る。 「……っキラぁ…………」 「キラ、悪いが席を外してくれないか?」 怖い顔をして、キラのことをアスランは睨んだ。 戦地の第一線に居るものの風格か、それとも単なる殺気のせいなのか。 気の弱いものが見れば、たじろいて後退するであろう目線と気配のアスランを目の前に してなお、キラは静かに返答をした。 「どうして?」 ―――どうしてだと?この場において、お前はそれを発するのか!! 「コレは俺とカガリの問題だ!!」 自然と語気が荒くなるのを抑えきることも出来ず、冷静に話し合おうと思って機体をこの 船に止めたことも忘れてしまっていた。 感情の起伏がないように見えて、誰よりも感情の起伏が激しい彼を目の前にして、その 変容振りに醜態ささえ感じてしまう。 彼は、こんなにもぎりぎりの位置に立っていたのだろうか? ほんの少しのミスや、誤解さえも許せないような人間に成り下がってしまっていた事が キラには腹立たしかった。 「一方的に怒鳴りつけて、追い詰めのことが話し合いなの?」 「怒鳴り付けてる訳じゃない!!」 ―――君は変わってしまったのかな?戻ることさえ許されないくらいに。 「…………カガリが怯えてるのに?それにも気付かないの?」 「…あ………いや……すまない。だが!!納得がいかない。何故、何も話してくれな かったんだ?」 「だから……コレは私が決めなくてはならないことだから。お前には頼らずに……自分 の、意思で…決めようって………」 「意思って…………じゃ、望んで結婚したって言うのか!?」 「私は、国のことを一番に考えなくてはいけない立場なんだ!!」 心の中の物を全てはき捨てるように。 一気に言ってしまわなければ、きっと言えなくなってしまう。 ここで、言わなければきっと次には言えなくなっている。 時代が、自分の立場が、全てのモノがそうさせているだろう。 今でなければならない。今でなければ。 「!!」 瞳にこぼれそうなくらいに涙をためて。 意思が揺らぐことが許されない立場だから、上に立つ者は常に人々を導かなければならない。 自分の我侭がどこまで通るかなんて目に見えている。 犠牲を払うことが義務であるかのように、それが普通だと。 目に見える者には分からせない。感じ取らせない。そうする事の辛さ。 それを、全て理解して欲しいなんて思わない。 けれど、少しは理解して欲しくて…………。 我侭だと自覚しているはずだ。けれど、言わずには居れない。 ぎりぎり過ぎて動けもしない。少しでも動いてしまえば、ガラガラと崩れる。 「カガリ、いったん落ち着いてからにしなよ。声も出ないんじゃ、話し合いにならないから。」 アスランの手を外し、キラはカガリの背中を優しく撫でる。 どうやって呼吸すればいいのかさえ、忘れてしまいそうなカガリの背を優しく撫でて あげるくらいしか自分には出来ない。 二人の仲を取り持つことも、何も自分にはきっと出来ない。 非力な自分が嫌で嫌でたまらない。 「……すまな……い……」 「アスランも構わないよね?」 語尾は疑問形だったがコレは尋ねているのではなく、決定事項。 反論は許されない。 絶対服従をしなければいけない。 煮え切らない顔をしたアスランではあったが、ここで否と言えるだけの強さも言葉も 見当たらなかった。 返事を出来る言葉はただ一つ。 「…………ああ。」 肯定の意思表示のみ。 ■□■□■□■□ コンコン。 「はい?」 「アスラン、ちょっといいかな?」 「キラか。どうした?」 「ん。ちょっと話があって。」 「…………俺も、話があるんだ。」 重い空気が他者の介入を許さなくしていた。 キラは、アスランの元まで歩いてゆく。 「椅子が足りなくてベッドくらいしか座る物が無いんだが、構わないか?」 「かまわないよ。」 言い辛そうにする仕草は、昔から変わらないもの。 キラがベッドに腰掛けるとギシッとスプリングが軋んで音を立てる。 しかし、手入れが行き届いているため、不快な音ではなかった。 それきり、部屋には静寂が訪れ。 「カガリの事とこれからについてなんだけど。」 破られた。 「俺もその事について、はっきりと話そうと思って居たんだ。」 ―――きっと僕とは180度意見が違うんだろうケドね。 キラは両手の指を交互に組んで、膝の上に置いた。 「そうなんだ。僕はカガリを式場からさらって来たんだけど。そのせいで多分、少な からずオーブは他国との折り合いが悪くなったと思う。けど、カガリが犠牲になるのは 見てられなかったから、後悔はしてないよ。今時、政略結婚なんて古いにも程がある。 犠牲も出さずに全てが解決するなんて思わないケド。カガリが苦しい思いをしているのを みすみす見逃すわけにはいかなかった。」 「その結果が今の状況か?」 「そうだよ。」 「それで、またキラは戦場に出るって言うのか?あの機体に乗って。」 「大切な人を守るためなら。」 アメジストの瞳が自分をしっかりと見つめる。 静かな湖面のように。 その底は深すぎて見えない。 否、見せてはくれない。 どんなに透明度が高くても日の光が届かないから。 日の届かないその先には、真っ黒な闇が広がっているんだろう? ―――……キラの気持ちが分からないよ。 「守るために殺す。殺されたから、殺し返す。堂々巡りだな。」 「分かってる。」 「ホントウに?」 「分かりもしないで、無責任な事はしないよ。」 「…十分無責任な行動だと思うが。」 「………アスランなら……!………じゃぁ、どうしたら良かったの?」 「今は、時期が時期だから事を荒立てる事はしないほうが良いと思う。期を待ってから 行動するのが賢明だと俺は思う。」 これ以上、お互いの立場が悪くなることは望ましくない。 火に油を注ぐ必要は無い。 多くの被害が出るくらいなら、自分に火の粉が舞えばいい……・。 アスランはいつも奇麗事ばかり。 守る力があるくせに使わない。 自分だけが我慢すれば良い。 自分だけが苦しい思いをすれば、みんなが幸せになれるとでも思ってるの? ふざけないでよ。 それで、本当に君だけが不幸になったとでも思ってるの? 他の誰もが不幸にならないとでも? 笑わせないでよ…………。 「カガリの事はあきらめるんだ?」 「あきらめるんじゃない。」 「だって、期を待つんでしょ?助けに行かないんじゃ、一緒だよ。」 「今、カガリを奴から奪い取ったとこで俺たちに何ができる?」 苦虫を潰したような顔をして。 何かを起こさなければ、あの時こうすればと。 後悔するのは自分なのに。 そうやって何もしないで、保身ばかりで。 期が来るまでっていつになったらその期は来るのかな? いつ来るとも分からない期を待ち続けるの? 大切な人を犠牲にして。 「カガリの笑顔が守れる。そのせいで、国交が悪くなるくらいでしょ?元々、上のお偉い 様たちはカガリの事をどうにかして黙らせたかったらしいし。あのまま、カガリが結婚 してたら今よりもっと悲惨なことになってたよ。」 「それは、全てキラの憶測に過ぎないじゃないか。」 何も知らない者を軽蔑するような発言。 僕の事あんまり見くびらないでよ? アスランなんかよりよっぽど裏の動きはよく分かってるんだから。 組織の外に居るほうが動きやすいことが多いんだよ。 組織の規約に拘束されず。 組織の探りにも当てられず。 組織の縦社会に屈する事もなく。 組織なんて単なるお荷物にしかならない。 「真実だよ。僕が何もしてないとでも思った?ハッキングくらいわけないよ。」 「盗聴したのか!?」 「盗聴じゃないよ。あんな、油ギトギトしてそうなおじさん達の密会なんて………… 耳が腐るよ。」 「キラ?」 「だってそうでしょ?今時どこで、誰が、どうやって、盗聴してるかも分からない状況下で こんな危ない話できるのって相当のバカだよ。まぁ、メールとかチャットとかも第三者の 介入を察知できなきゃ、肉声の時と大して危険度が変わらないかもしれないけど。」 「なら、情報が残らない肉声のほうが安全なんじゃ…………」 「ねぇ、アスランって本当にバカなの?」 「…………ッな……普通そう思うだろ!?」 激怒するアスランとは対照的にキラはどんどん冷めた思考になってゆく。 今ならどんな棘のある言葉でも吐けそうだった。 どうして、こんなにも君はたくさんのことを知らずに生きているんだろうね。 力がある人間ほど、汚い生き物なのに。 欲がなくちゃ人間は生きてはいけないんだよ。 だから欲が深い人間ほどしぶとくて。 浅ましくて。 そして有らん限りの醜態を振りまいて生き続けてるんだ。 自分の醜さにも気付かずに。 滑稽すぎるね。 「普通って、何を基準として普通って言うの?あれ?分かんないってカオしてるね。 仕方ないから説明するよ。まずね、肉声ほど怖いものは無いって事を理解してもらおう かな?肉声って何の役に立つかって言うと、国家的に脅しが出来るってことだね。あ! 今、バカだなって思ったでしょ。バカなのは、ボクじゃ無くてアスランだよ。声って 言うのは声紋って言うのがあって、機械でごまかそうとしても九割方ばれちゃうんだよ。 双子ならごまかそうとすれば出来るけど、政治家になる人みんなが双子で生まれてくる なんてあるわけ無いじゃない?そう考えるとね、指紋なんかよりもよっぽど怖いんだよ。 だから、声を盗られちゃうのはとっても危険なんだよ!ワカッタ??」 身振り手振りをつけて説明をしていくキラ。 その態度は目の前のアスランをバカにしているようにも見える。 「………………」 何も言えないアスランを前にして、キラはアスランの狼狽振りを見ていた。 そして、アスランの意思とは無関係に話は進んでいく。 「無言てことは肯定だよね!じゃ、肉声が盗られると怖いって話はお終いにして次。 ハッキングして情報を手に入れることについて。コレってそんなに難しくなくて。 パスとIDさえ分かっちゃうと奥まで入れるんだよね。高度な性能がいくら搭載され てても、所詮は人が創り出したモノなんだから人がソレを攻略できないわけ無いんだよ。 僕はそういう解析が中心だったからコツさえ掴めば入り込めちゃうんだよね!!パズルを 解くのと同じ感覚なんだけど。まぁアスランには分からないと思うけどね。アスラン昔 からそういうの苦手だったでしょ?」 「……苦手だったわけじゃ…………」 「そんなのどうでもいいし。」 「…………」 アスランのくちごたえでさえも雑音のようだ………………―――――。 「ハッキングする時ってまず、進むことが重要だと思われがちだけど、実は足跡を消す 作業のほうが大変なんだよ。進んでいくことなんかよりずっと、自分の影のほうが怖い んだよ。足跡が残ってるとソコから居場所がばれて捕まっちゃったりするんだから。 レベルの高いハッカーは自分の足跡がいかにばれないように跡形も無く消すかって事を ちゃんと心得てるんだよ。同業者でも辿れないくらいに綺麗に足跡を消すハッカーだって 世の中に入るし。で、こんなに苦労して手に入れた文書とか会話文のログとかなんだけど。 コレってあんまり脅しとして有効じゃないんだよね。文書なんて簡単に作成できるし。 決定打にはならないんだよね。紙面にあるものなんて灰になれば出元なんて一切分から ないし。文書ファイルなんてそんなモンなんだよ。呆気ないよね……一生懸命やっても。 グスグス。」 ドンッ!! 「結局何が言いたいんだ!!!」 一方的に話をされていたアスランが堪らずに、机を叩いた。 気付けばいつの間にかカガリの話は遠く彼方に行っていた。 こんな無駄話に付き合うために、俺はこの船に戻ってきたわけじゃない。 カガリとちゃんと話をつけて、ザフトに戻らなくてはいけないのに。 今までの話はキラに整理の付かない話を余計にごちゃ混ぜにして、混乱させられている ようにしか思えない。 今はそんなことをしている場合ではない。 ほんの少しの時間でさえも、勿体無い。 こんな事をしている間にも世界は刻一刻と悪い方向へ変わっている。 無駄話をしたいわけじゃないんだ。 「そんなに怒鳴らなくても聞こえてるって。」 キラは両手で耳を塞ぐ様なアクションを起こす。 この狭い密室でそんなに大きい声を出されては、鼓膜が痛くなる。 それで無くてもこっちは今、色々とセンセーを伸ばしていて神経が磨り減っていると いうのだ。 カガリを連れ去ってからと言うものろくに寝ていないのだ。 一日の間に1時間以上、寝れれば上出来だ。 仮眠しかとらない生活の所為でいつ自分が寝たのかなんて分からない。 3徹なんていつの話だったか………――――。 それに忙しくてろくに食事もしてないし。 体を動かすような労働はしていないが、その代わりに頭を使うから何も食べないわけ にはいかない。 栄養失調なんて笑い話になっても困るから。 一日の間に最低限摂取しなくちゃいけない栄養はサプリとか、カロリーメイトとかで 済ませてる。 お蔭様で死なずにすんでる。 何よりも最近お腹が空かないからとても都合が良い。 空腹と戦わずに済むから作業の邪魔にもならない。 そのせいなのか、いつもと違う行動を長く続けようとすると体が全力で不調を訴えてくる。 どうやら今の可笑しな生活にどうにかして適用しようと、体が必死になって体のメカニズム を変えているようだ。 今だって、こうやって話が出来ているのが奇跡だ。 頭は割れそうだし。 胃は捩れそうだし。 手はギシギシだし。 目はズキズキだし。 神経はピリピリだし。 一杯、一杯だよ。 ねぇ、アスランは僕と代わってくれるって言うの? この立場に立てるの? 非情に成れるの? 非情に慣れるの? なのにさ。 般若の顔をして、何をそんなに怒ってるの? 本当の事をそのままにして出しただけでそんなに動揺しちゃってさ。 オブラート何かで包んであげないよ? そんな事しても意味無いんだモン。 もっと現実を……汚いトコロも見て………………。 温室でぬくぬく育った花なんて、外に出たら枯れるしかないんだよ。 弱いモノはいつだって負けて、ナクナッチャウンダカラ。 真実を見ないと生きてはいけないよ。 「キラ!はぐらかしてないで答えろ!!」 アスランが必死な声を出してるのが微かに耳に入ってくる。 そろそろ限界かもね。とか思う。 これ以上やってると下手したら倒れそうだ。 長丁場には持っていけない。 自主的に気付いてくれれば良かったんだけど、それは望めそうにない。 優しい君は色々な言葉の中で、水面に漂う木片のように不安定。 波にの見込まれたら、沈んでしまうくらいに頼りない。 辛くても分かってもらわなくていけない。 そうしなければならないから。 体が必死に訴えてくるシグナルを気力で押さえ込む。 ――――もしかしたら、これが最期かもしれないから。 ―――――――アスラン ごめんね…………。 「じゃ、はっきり言わしてもらうけどさ。どうして "ザフト" に戻ったの?」 「…………知ってたのか。」 「モチロン。ボクの情報網を舐めないでよ。軍内部のトップシークレットでも大体は 手中に入るんだから。」 「『守りたいものを守るためには力が必要だろう?その為なら力を貸そう。』と言われ たんだ。」 アスランはキラの顔を真っ直ぐに見て言えもしない。 それが正しいと思うのなら、はっきりと顔を見て言えばいいのに? それさえも出来ない答えしかアスランは持って居ないのだろうか。 矛盾なんて見厭きた。 矛盾なんて聞き厭きた。 矛盾なんて有り過ぎて厭きた。 「『もう、殺したくない』とか言ってたクセに。力は必要としてるんだ。それで、戦場 に出て戦って。また、人を殺すんだ。」 「キラだって、フリーダムにまた乗ってるじゃないか!!」 ――――ウルサイ、ウルサイ、ウルサイ、ウルサイ!!!! 「自分のことは全部棚に上げてそれで僕には偉そうに説教するんだ。でもさじゃあ言わ せて貰うけど、何でラクスはザフトに狙われなきゃならないの?彼女は何もしてないの に?確かに、彼女の存在が人々に与える影響は大きいよ。デモさ、邪魔なら消してしま えば良い。自分の言うことを聞けない、扱えない傀儡は処理してしまえ。そうやって向 かってきたから。僕は牙を剥かれたからその牙を折っただけだよ。手を出して来なけれ ば何もしなかった。殺すこともしなかった。ずっと隠れていても良かった。けど……… ラクスを、大切な人たちを殺そうと手を出してきたから。先に手を出してきたのはそっ ちだ。僕は大切な人たちを失うのが怖いから。だから、守るためにフリーダムに乗って、 人を殺した。」 これ以上大切な人もモノも失くすのはたくさんだよ。 痛い想いなんてしたくない。 奇麗事なんて通らないなら、汚い事だって構わない。 それを押し通して、押し切って、僕は僕のやり方で守るよ。 軍なんて信用してない。 「次に会った時は、お互い戦場だろうね。ボクは手加減しないから、アスランも手加減 なんて一切しないでね。」 「キラ?」 「戸惑ってるうちに死にたくなんてないでしょ?自分の命だもの亡くしたらお仕舞でしょ?」 一度散ってしまった命は決して元には戻らない。 ソコにその人がいたという事実や記憶は残ったとしてもその人はその場には決してもう 存在できない。 だから、消えてしまうかもしれないのなら精一杯生き残るために努力しなければならない。 消してしまって良い命なんて、何一つ無いはずなのにどうして愚かな僕達は命をどんどんと 散らしていくんだろうね? 「何もやり遂げられずに、何も遺せずに、何も出来ないで死んだりしたら元もこもない じゃない。」 散ってなくなってしまう命なら、精一杯できることをして散って逝くしかないでしょ? 人を殺してその人の華をもぎ取って。 もぎ取った華を肥やしにしてもっと大輪の紅い花を咲かせて。 そうやって、生きていくんでしょ? 僕の歩いてきた道には真っ赤な標が付いてるよ? 血で真っ赤に染まった道が永遠と続いていくんだ。 僕が死んでもその道は真っ赤のままだろうね。 この手も、この体も、僕っていう存在自体がもうすでに真っ赤に染まって、洗っても 洗っても取れないくらいに真っ赤に染まってるんだ。 誰かを殺した血で真っ赤に染まってるんだ。 「真っ赤に染まったらもう後には戻れない。だからさ、戸惑わないで。戸惑ってる人間 殺したらさ、後味悪いじゃない。夢枕にでも立たれたら最悪だし。」 「………キ…ラは………俺のことを……………殺すのか?」 「必要に迫られたらね。」 「俺の仲間も?」 「必要と在らば。」 「…………」 殺さなきゃ僕が生きていけないなら大切な人を守れないなら殺すしかないでしょ。 情けをかけて生かしてしまったがために自分の身が危なくなったりでもしたら馬鹿じゃない。 たしかにさ、殺したくて殺すわけじゃない。 僕だって元は人間だし。 何の意図も無く人を殺せたら狂ってるだろうね。 もしかしらたもう狂ってるかもしれないけど。 犠牲は最小限に抑えたいけど、どこまでが最小なのかなんて終わってみなければ分からない。 終わったら、終わったで酷い戦争だった。 もっと犠牲を最小限に減らすことは出来なかったのか。 何て政府のお偉い様方は言うんだろうケド。 その犠牲の上に平和が成り立っていることを忘れてはいけない。 誰かが幸福を掴んでいるその時に、反対側では不幸を手にしている誰かもいる。 相対幸福論という奴だ。 幸福と不幸は足すと平均的になり、誰しもが同じく幸福と不幸を持っている。 そのバランスの上に世界は成り立っている。 「アスラン、誰かの為に戦うために伴う犠牲を躊躇わないで。でも、その犠牲を軽ん じたりはしないで。散らしてしまった命の重さを背負って戦場に出て、その意思を 継ぐんだ。約束してよ?」 「…………約束しよう。次ぎキラと戦場であった時は躊躇はずに戦う。例え、キラを 殺すことになっても。」 「そう。それでいいよ。じゃ、今日は遅くまでゴメンネ。」 「…いや…………。」 「オヤスミ、アスラン。」 ―――――――――― さようなら、愛しいアナタ。 ■□■□■□■□ シュッ 自室のドアが開いて、重い体を無理やり部屋の中に押し込む。 ドアが閉まって、支え切れなくなった身体がドアを支えにして崩れ堕ちて行く。 ずるずると、床に達するまで崩れ堕ちて行く。奈落の底までずるずると…………。 「………あはは…………っく………あはっは…あっ……っう…っ…ふぇ………」 声を殺して泣く。あんな酷いことを言って置いて今更泣くなんて許されないはずのに。 それなのに弱い僕はこうやって泣くんだ。 泣いて、泣いて、自分だけが悲しいと、苦しいと思って泣くんだ。 弱くて、醜くて。綺麗なアスランが羨ましくて。 この路を自ら選んだくせに、弱い僕は独りで声を殺して泣くんだ。 もう、後戻りなんて出来ないから、あんな話をして。 アスランに話したことは、自分に対しての決意なのかもしれない。 弱い僕が、逃げ道を作ってしまわないように。 退路を塞いで、進む路以外の全てを除外して。 この身が醜く果てて、この命が呆気なく散っていく路を選んで。 次ぎ、アスランと会うときが死ぬときかもしれないし、そうじゃないかもしれない。 アスランじゃないほかの誰かに殺されて。 アスランの知らないところで朽ち果てて。 そうしてこの世界から消えてなくなっていく。 ちっぽけな僕の存在は、そして誰も知らない無に還って行く。 大切だから、傷つけて。 大好きだから忘れて欲しく無くて。 だから、君を精一杯傷つけることでちっぽけな僕なんかが君の中に根付いて、離れな ければいいと思った。 一緒にいる事が許されないのならせめて、君の中に僕と言う存在が残ればいいと思った。 だって、やっぱり独りは寂しい。 だって、やっぱり独りは悲しい。 だって、やっぱり独りは虚しい。 だって、やっぱり独りは誰も居ない。 だって、やっぱり君が愛しい。 だから、せめて………………――――――― ―――――――― この醜い僕をどうか忘れないで。
痛い上に長いときた。 どうしようもないけど、蔵出ししておきます。 今読み直すと可笑しい点とかあるけど面倒だからシカト。 そこらへんは華麗にスルーしてくれると有難いです。
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