3.触れた温もりを、

その、触れる手を暖かいと思った。 優しく髪を梳く指の繊細さに、目を細めた。 誰かに、こんなにも安らぎをもらうなんて思いもしなかった。 だから、怖くなった。 優しさが、いつかなくなってしまうことを知っていたから。 どこかで線を引いて、深く、足を踏み入れてしまわないように。 今日の夜から、何日間か、カカシは急な任務が入り、ここには来ない。 久しぶりの、一人の夜。 いつの間にか、一人が寂しいものだと知った。 カカシが居ない四日目の夜。 一人の夕飯の味気なさ。 一口、二口と胃に流し込む。 日に日に、食事をするのが苦痛になっている。 それは、隣で笑ってくれる人が居ないから。 それは、だんだん、食べれないものになっているから。 なんだか、いつもより、苦い味がした。 『あぁ、毒だ』 胃からせりあがる物を感じて、全部吐き出した。 毒には慣れていたはずなのに。 カカシが来てからのご飯はとてもおいしくて。 そうか…だから。 「かぁしのご…はんがたべたいってばよ…」 温かくて、優しいあの味が思い出せない。 意識が遠のいて、途絶えた。 急な任務を終え、無性にナルトの顔が見たくなり塔を訪れると、ナルトが倒れていた。 何が起きたのか、分からず、駆け寄った。 手に持っていたはずの荷物は、どこかに投げ捨てていた。 浅く、早く呼吸する胸を見て、生きていることを確認した。 口元に、鼻を近づけ、臭いをかぐ。 かすかだが、毒のにおいがした。 手持ちの解毒剤を水とともに喉の奥に流し込んだ。 ベッドにナルトを寝かせ、汗などを拭いてやる。 いつから、倒れていたのか。 誰が、毒を持ったのか。 生きていてよかった。 間に合ってよかった。 宝物をまた守れないかと思った。 背中を流れたいやな汗が、不快感をより感じさせた。 ナルトの呼吸が落ち着いたのは、数時間たってからだった。 九尾が必死に解毒していた所為もあったのだろう。 何とか、山は越したようだ。 じゃ、俺は、俺の仕事をしましょうか。 印を組み、口寄せをする。 白い煙の中に大小様々の忍犬が現れる。 「パックン。三代目にこの報告を。あと、犯人捜して知らせてくれる?」 「分かった」 「早急にね」 日が、塔の中を照らすころ、ナルトは静かに目を開けた。 「かぁし?」 「ごめんね、遅くなって」 「おかえりなさい。ぶじでよかったってば」 「うん。ただいま」 「…かぁし、なゆ、おなかすいたってばよ」 「じゃ、ご飯にしようね」 カカシは、優しく、ナルトの髪を梳いた。 その手に、ナルトは目を細め。 生きていることを感じた。 この、優しい、ぬくもりのために生き返ったのだと。


エセ喪中シリーズ第三夜です。 半分まできました。 全体的に分が短いので、最後まで一気に。

≪戻る。