「はぁ」 今日、何度目とも知れないため息。 「いい子で待ってろよ」と、大好きな手で撫でてもらって。 「いってらっしゃい」と手を振ってからまだ、そんなに経っていない。 せいぜい、3時間といったところだ。 一人で留守番している子供だって、こんなに早く恋しくならないだろう。 けれど、お互いに離れての行動が久しぶりだったから。 いつもとなりにあるはずの気配がないことに、うまく対応できないでいる。 冷たい空気が流れる右側が、寂しい。 いないと分かっていても、そちらに視線を向けてしまう。 切れ長の目。 きれいな、黒い髪。 すっらと伸びた、手足。 俺の持っていないもの。 俺の大好きな人の持っているもの。 「はぁ」 カウンターに腰掛けてため息をつき続ける銀次を新聞越しに波児はちらりと見た。 蛮が銀次を連れて、Honky Tonkを訪れたのは、そろそろ店でも開けるかと思ったころ。 店の前で何か話をしていたが、しばらくすると、からんからんとドアベルが鳴った。 ドアを見やると店に入ってきたのは銀次だけ。 波児が首をかしげている間に銀次はいつもの場所に腰掛けた。 「蛮は一緒じゃないのか?」 「今日は蛮ちゃんとは別行動なのです!」 その言葉の後に、今日はお留守番。と続く。 暇つぶしがてら話を聞いてみると、野暮用があるとかで、店の前で置いていかれたらしい。 蛮は寝る前に話したといって、銀次は聞いていないとダダをこね。 時間が迫っていたのか、優しく諭されて、結局送り出したらしい。 「『日が暮れるまでには帰ってくるから、いい子で待ってろよ?』って俺、子供じゃない んだから、帰ってくるのくらい待てるのに。蛮ちゃんたら失礼だよねっ」 「まぁ、そういうなって。これでも飲んで、待ってりゃ帰ってくるさ」 そういって、波児は銀次の前にコーヒーを出す。 「ありがとう!」 「おう。ツケにしといてやるよ」 「おごりじゃないの!?」 「それと、これとは別だ」 「えぇ〜」 と笑っている間に、時間が過ぎる。 閑古鳥が鳴いたように客はやってこない。 いつものことだといえば、波児は怒るだろうけど。 こんな日は、誰かいたほうが気がまぎれるのに。 カウンターに頬を寄せる。 いつの間にか、一緒に居ることが当たり前になって。 24時間、隣にお互いの気配を感じて、目の端に映して。 笑いあっているのが、あまりにも当たり前で。 こうして、久しぶりに離れてみると、その寂しさをひどく感じる。 今、何をしているのだろう? 自分を連れて行けないほどのこととは何だろう? 離れていると、こんなにも恋しくなる。 いつも、一緒に居るのに、それでも恋しくなる。 あの、少し低い声で名前を呼ばれるだけで良い。 細く繊細で、けれど、とても力強いあの手で撫でてほしい。 あのきれいな、紫紺の瞳に映りたい。 次第に、まぶたが重くなりカウンターに突っ伏したまま寝息を立て始める。 ”――――蛮ちゃん” たった数時間でこんなに、恋、焦がれている。
トップバッターはGB。 NARUTOサイトなのか怪しいモンですね。 とりあえず初めの一歩です。
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