04 懐かしむ

久しぶりに、部屋の大掃除をすることにした。 キミが居なくなってから、初めての大掃除。 ママが掃除をしてくれるからそれほど汚いわけじゃない。 でもほら、試験が近くなってくると、部屋の掃除ってしたくなるよね? 現実逃避だって、言われれば、それまでだけど。 別に、現実逃避するために、掃除をするんじゃないんだからねっ。 ただ、ちょっと、ベッドの下の埃が気になるなぁって。 午前中だし、連休明けに試験だから、今掃除するほうが効率がいいし。 部屋が綺麗なほうが勉強もはかどるって、テレビで言ってたし。 だから、現実逃避じゃないって。 誰に言うでもなく心の中で言い訳。 腕を伸ばして、座っていたイスから立ち上がり、 「そう、気分転換!」 ボクは笑顔で部屋の掃除を始めた。 お風呂場から、雑巾と水の入ったバケツを運ぶ。 ちゃぷちゃぷと音を立てるバケツ。 廊下に水をこぼしてないか少し不安だけど。 もし、こぼれていたら掃除が終わったら拭いておこう。 布団を干して、ベッドの下をのぞく。 うっすらと、埃がたまっている。 手前のほうは、ママが掃除機をかけてくれるから少し綺麗で。 奥のほうに行くほど、埃のかさは高くなっているように見える。 「まずは、ベッドの下の雑誌を出そうかな」 しゃがんで、よいしょっと手を伸ばす。 一生懸命集めた、カードの詰まったカラーボックス。 たまたま、買った月刊誌。 城之内くんが押し付けて置いていった、ちょっとHな本。 少しずつ広がっていく、懐かしいもの。 みんな覚えてる。 楽しい思い出も、辛い思い出もみんな。 クスクス笑いながら、さらに奥に手を伸ばす。 「もう、ないかなっ」 壁際は暗くてよく見えない。 頬を床につけて、奥をのぞく。 ふと、何か落ちているのが目に入った。 精一杯腕を伸ばして届くか届かないか位の場所。 「う〜ん、もうちょっとかなぁ…うぅ…」 指先がソレに触れて、パタンと軽い音がする。 運良く手前に倒れてきて、引っ張り出すことができた。 「ふ〜…あ、コレ…」 薄い雑誌。 軽く積もった埃を払い、ページをめくる。 デュエルディスクを構えている人たちが何ページが続く。 更にめくっていくと… 「もう一人のボク…」 強い意思をたたえた瞳。 自分のデッキを信じて乗せられた手。 好敵手を前に不敵な笑み。 ボクの好きな人。 二心同体だったボクら。 でも、こんなにも違う。 ボクはこんなにカッコよくないし。 「こんな風に、笑えないしね」 海馬君が持ってきてくれた雑誌。 もう一人のボクが決闘をしている写真が載っているやつ。 ボクは心の部屋の中でその決闘を見ていた。 もう一人のボクが勝つことを疑いもしなかった。 実際、その決闘はもう一人のボクが勝った。 コレを貰ったとき、とても嬉しくて、自分で1冊買おうと思った。 でも、もう一人のボクがしつこく止めるから。 結局、雑誌を買おうと思っていたお金は、カード代になった。 もう一人のボクが冥界に帰った直後は、キミが思い出になってしまうことに戸惑って。 こういうものは全部箱にしまってしまった。 一人が辛くて、泣いた夜だってたくさんある。 今だって、キミがひょっこりボクの前に現れて 「相棒、決闘しようぜっ」 って、言ってくれないかなって思うこともある。 でもね、ボクもいつまでもくよくよしてられないから。 キミはいつまでもボクの心の中で、あの瞳で笑ってる。 「”懐かしいな”って言えるくらいにはボクだってなったんだよ」 キミはボクにたくさんのものをくれた。 だから、ボクもキミの様になれるようになるんだ。 大人になっても、失くしてはいけない大切なものをみんなに。 開け放っていた窓から、優しい風が頬を撫でた。 「っ!!」 まるで…―――――    ―――――……君の手のようだった


成長した相棒を書きたかった。 精神的に大人に…。 挫折しました。

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