久しぶりに、部屋の大掃除をすることにした。 キミが居なくなってから、初めての大掃除。 ママが掃除をしてくれるからそれほど汚いわけじゃない。 でもほら、試験が近くなってくると、部屋の掃除ってしたくなるよね? 現実逃避だって、言われれば、それまでだけど。 別に、現実逃避するために、掃除をするんじゃないんだからねっ。 ただ、ちょっと、ベッドの下の埃が気になるなぁって。 午前中だし、連休明けに試験だから、今掃除するほうが効率がいいし。 部屋が綺麗なほうが勉強もはかどるって、テレビで言ってたし。 だから、現実逃避じゃないって。 誰に言うでもなく心の中で言い訳。 腕を伸ばして、座っていたイスから立ち上がり、 「そう、気分転換!」 ボクは笑顔で部屋の掃除を始めた。 お風呂場から、雑巾と水の入ったバケツを運ぶ。 ちゃぷちゃぷと音を立てるバケツ。 廊下に水をこぼしてないか少し不安だけど。 もし、こぼれていたら掃除が終わったら拭いておこう。 布団を干して、ベッドの下をのぞく。 うっすらと、埃がたまっている。 手前のほうは、ママが掃除機をかけてくれるから少し綺麗で。 奥のほうに行くほど、埃のかさは高くなっているように見える。 「まずは、ベッドの下の雑誌を出そうかな」 しゃがんで、よいしょっと手を伸ばす。 一生懸命集めた、カードの詰まったカラーボックス。 たまたま、買った月刊誌。 城之内くんが押し付けて置いていった、ちょっとHな本。 少しずつ広がっていく、懐かしいもの。 みんな覚えてる。 楽しい思い出も、辛い思い出もみんな。 クスクス笑いながら、さらに奥に手を伸ばす。 「もう、ないかなっ」 壁際は暗くてよく見えない。 頬を床につけて、奥をのぞく。 ふと、何か落ちているのが目に入った。 精一杯腕を伸ばして届くか届かないか位の場所。 「う〜ん、もうちょっとかなぁ…うぅ…」 指先がソレに触れて、パタンと軽い音がする。 運良く手前に倒れてきて、引っ張り出すことができた。 「ふ〜…あ、コレ…」 薄い雑誌。 軽く積もった埃を払い、ページをめくる。 デュエルディスクを構えている人たちが何ページが続く。 更にめくっていくと… 「もう一人のボク…」 強い意思をたたえた瞳。 自分のデッキを信じて乗せられた手。 好敵手を前に不敵な笑み。 ボクの好きな人。 二心同体だったボクら。 でも、こんなにも違う。 ボクはこんなにカッコよくないし。 「こんな風に、笑えないしね」 海馬君が持ってきてくれた雑誌。 もう一人のボクが決闘をしている写真が載っているやつ。 ボクは心の部屋の中でその決闘を見ていた。 もう一人のボクが勝つことを疑いもしなかった。 実際、その決闘はもう一人のボクが勝った。 コレを貰ったとき、とても嬉しくて、自分で1冊買おうと思った。 でも、もう一人のボクがしつこく止めるから。 結局、雑誌を買おうと思っていたお金は、カード代になった。 もう一人のボクが冥界に帰った直後は、キミが思い出になってしまうことに戸惑って。 こういうものは全部箱にしまってしまった。 一人が辛くて、泣いた夜だってたくさんある。 今だって、キミがひょっこりボクの前に現れて 「相棒、決闘しようぜっ」 って、言ってくれないかなって思うこともある。 でもね、ボクもいつまでもくよくよしてられないから。 キミはいつまでもボクの心の中で、あの瞳で笑ってる。 「”懐かしいな”って言えるくらいにはボクだってなったんだよ」 キミはボクにたくさんのものをくれた。 だから、ボクもキミの様になれるようになるんだ。 大人になっても、失くしてはいけない大切なものをみんなに。 開け放っていた窓から、優しい風が頬を撫でた。 「っ!!」 まるで…――――― ―――――……君の手のようだった
成長した相棒を書きたかった。 精神的に大人に…。 挫折しました。
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