30 重ねる

触れることすら怖かった。 この毒が、キミを傷付けるのが。 落ち着いてさえいえれば、完璧に毒をコントロールすることは可能だ。 けれど、キミに触れるのが怖い。 「ココさん」 「ん?なんだい、小松くん」 「手を、繋ぎませんか?」 何の冗談だろう? 服を着て、一枚隔てている部分ならまだしも。 身体の中でも一番、毒を出しやすい手は、触れるのが怖い。 万が一、キミを傷付けることになったら。 「ダメ、ですか?」 「あ、いや…ごめんね」 キミに触れる勇気がない。 今は、まだ怖くて。 トリコのように、頭をなでることも。 サニーのように、頬に手を添えることも。 ボクには、簡単に出来ない。 リーガル諸島で、小松くんと再会したときには、抱きしめることが出来たのに。 今のボクには、手を触れ合うことも出来ない。 「ごめんね、小松くん」 「ココさん、ボク、ココさんの手、好きですよ」 しなやかに、長い指。 ボクが傷つかないようにと、触れることを躊躇う指。 そっと、手を伸ばして、手を重ねる。 「っ、小松くん!」 びっくりしたように、手を引こうとするココに対して、小松は手のひらに頬を寄せる。 緊張から、ココの手の温度が下がっていく。 (そんなに怖がらなくてもいいのに) 「ボクは、ココさんの手が怖いとは思いません」 この優しい手を受け入れることはあっても、拒絶することはない。 いつでも、その手は優しくて、泣きそうなくらい優しくて。 人一倍、人肌が恋しいのに、人一倍、人を遠ざける。 痛いほどの優しさに、大丈夫だと伝えたい。 そんなに、怖がらないで欲しい。 「…指を……絡めても…いい?」 「えぇ!よろこんで!」 ぎこちなく絡む指先に、熱が伝わるといい。 (キミの優しさが、指先から伝わってくる) (幸せすぎて、どうにかなってしまいそうだ)


臆病ココさんと大胆小松くん。 ちょっとずつ、なれて行けばいいんだよ。 触るのが平気になってからのココさんの次の手は早い。

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