33 放す

崖から足を放して、一直線に降下する。 その先には、底の見えない透明な湖。 背中から着水すれば、痛みが全身を駆け巡った。 キラキラと水面が光っている。 そのまま、力を抜いて水底へと沈んでいく。 ゆっくりと目を閉じ、静かに、ゆっくりと目を開ける。 視界に映るのは、無数の卒塔婆。 俺が殺した、人たち。 俺が生まれるときに死んだ人たち。 俺に関わる人たちが死んだ証拠。 いくつもの卒塔婆が俺の視界を埋め尽くすように拡がる。 血の色をした湖を沈んでいく。 もう、浮上できそうにもない。 もう、意識を手放してしまおう。 一生、開けることがない瞳を静かに閉じた。 沈む。 沈む。 沈む。 ゆっくりと、深い水底へ。 『この、ウスラトンカチが』 不意に聞こえた声に、痛みが走った。 苦しくて、苦しくて、もがいて息を吐き出した。 全身を引き裂かれるような痛みが走った。 このまま沈んで死んでもいいと思ったのに、もがいて瞳を開いた。 もう、浮かび上がる術すら分からないのに。 遥か彼方の水面に手を伸ばした。 遠くて、遠くて、でも、必死に手を伸ばした。 そこに行かなくちゃいけないと、心の中で誰かが叫んだ。 「!?」 強く背中を押す感覚がナルトを襲う。 いくつもの手が背中を押して、水面へと急上昇する。 そのまま、水面を突破して空中へと放り出される。 蒼く澄んだ空。 頬を叩く冷たい風。 何をしていたんだろう。 どうしてあきらめられると思ったんだろう。 あきらめられないからここまで、やってきたのに。 ずっと、あの背中を追ってきたのに。 今更、どうして、あきらめようなんて、沈んでしまおうだなんて思ったんだろう。 手放せない。 放すことなんて出来ない。 緩んだ、額宛をもう一度、しっかりと結びなおす。 静かに、湖の上に立つ。 波紋が幾重にも広がっていく。 拳を前に突き出して、誓う。 「ぜってーあきらめねぇ」 (強い瞳で見つめて) (放すなんて、きっと、一生できないのだから)


にこたっちざをーるのだいばー。 これ好きだったので、関連して。

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