35 求める

今日は、小松の仕事が休みで、久しぶりにトリコと共にハントに出かけた。 なんとか無事に、小松と正式にコンビを組むことになり、これからは小松を守っていかなくては いけないと気持ちを新たにした。 けれど、コンビを組むから小松を守らないといけないのかといわれればそれは、違う。 小松は守られなくても大丈夫だ。 どんなピンチのときも、結局自分でどうにかしてしまう。 遺書を書いて、ちゃんと覚悟を持てといったのは、自分だけれど。 小松は、俺たちが思っている以上にしっかりしている。 だから、不安になる。 呼吸するように、料理をする。 小松にとって料理をすることは生きることと同義だ。 手にしたことのない食材。 試したことのないレシピ。 出逢った事のない慣性の持ち主。 その全てのことに小松は惹かれる。 コンビを組んで、俺は小松の相棒になった。 けれど、小松を狙う美食屋は後を絶たない。 正式にコンビ結成を発表してからも、小松への誘いはなくならない。 俺じゃなくても、アイツは料理が出来れば誰の元にでも行くだろう。 それは、上を目指すなら仕方のないことだ。 腕を磨く機会があれば、小松は躊躇いなく行くだろう。 けれど、小松は俺の料理人だ。 他の誰にもやらない。 「なぁ、小松」 「はい?」 「お前、俺の相棒だよな」 「はい!」 「じゃ、お前は俺のだよな」 突然のことに、小松が困ったような顔をする。 脈絡がない。 ちょっと前までは、楽しく、真剣にハントをしていたのに。 「え?まぁ、相棒と云う意味ではそうかもしれませんけど」 「小松、俺の隣に居ろよ。俺が要るって」 俺と居るって 俺が要るって 言えよ。 「突然、どうしたんですか?」 「別に」 「まさか!変なもの食べたんじゃないでしょうね?」 「食うかよ」 手放したくない。 やっと、手にした最高の相棒。 俺と一緒に何処までも行けると思った。 俺がハントして、アイツが調理して。 ただの食材が上手い料理に変わる。 束縛された動物として、この世に生まれ。 誰かと共に生きていくなんて思いもしなかった。 ずっと、ひとりでやっていくと考えていたのに。 手に入れたら、もう手放せない。 「小松、俺がどこにでも連れてってやるし、珍しい食材に出逢わせてやる。だから…俺以外のヤツになびくなよ」 「なんか、ボク尻軽みたいに聞こえるんですけど…」 (誰にもやらない) (誰にもやれない) (俺だけの最高の相棒)


本誌が、健気嫁だったので。 トリコさんの心配は杞憂なのですが。

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