『儚い』

果敢無くても、精一杯生きたいと思うことはいけないことですか? いつかは散ってしまう命だと分かっているからこそ。 精一杯に生きるのではないのですか? なら、俺たちが精一杯自分の道を歩む事だって。 許されるのではないのですか? 例え、その歩む道が修羅の道だとしても。 「果敢無いってば。」 「儚いな、うん。」 「さびしいってばよ。」 「でも、綺麗だよな、うん。」 「この一瞬が輝いてるんだよなぁ。」 「一瞬の強さが良いんだよ、うん。」 何を指しているのかも分からない会話。 それでもその会話が成立しているのは、互いにタイミングよく返事をしているからで。 そのタイミングさえなければ、会話として成り立っているとは如何とも言えないだろう。 ナルトとデイダラは互いに儚い、儚いと連呼していた。 二人の目の前には、盛りが終わって散ってゆく桜と。 粉々に砕け、クレータの出来た地面。 「果敢無いってばよ。」 「儚いよな、うん。」 再び繰り広げられるハカナイ会話。 その二人を数mはなれたところから、イタチ・サソリ・鬼鮫は見ていた。 あの二人の世界にはどうやっても入り込めそうに無い。 入り込もうにも、どう入り込めばいいのかも分からない。 いつからああやって話しているのか分からないが、自分達が来てから小一時間は 経っているだろう。 そろそろ終わるかと見ているが、一向に終わる気配は無い。 このままにしておいたら、日が暮れてもこの状態のまま『儚い』と言い合っているかもしれない。 デイダラは、そのまま儚いと言って居ても構わない。 しかし、ナルトはダメだ。 あんな可愛い子が、このままで良いはずが無い。 教育上良くない。 言っている面子が面子なので全く説得力は無いが。 「ナルト、帰るぞ。」 一番短気なサソリが、痺れを切らしてナルトの腕を引いた。 名前をいくら呼んでも返事が得られそうに無かったからである。 「サソリ?」 きょとんとした顔で、ナルトはサソリを見上げた。 ついでに、デイダラもサソリを見上げる。 「旦那。オイラは無視か、うん?」 「お前の心配なんぞしない。」 「そうかよ、うん。」 デイダラの存在はサソリにとって無視以前に、眼中にないようである。 彼は、ナルトしか興味が無い。 強いてあげれば、彼の作品である傀儡人形くらいであろうか。 「それで何を儚いと言って居たんだ?」 「散る桜。」 「壊れる芸術、うん。」 「散る桜は分かるが、デイダラ貴様の壊れる芸術は違うだろ。」 「デイダラさんはいつも芸術は爆発だって言ってるじゃないですか。」 「ナルト君の感性とデイダラのイカレを一緒にするな。」 「ひでぇーよ!うん!!」 「・・・・・帰るってばよ。」 感傷会が台無しだ。 コレでは、せっかく今年精一杯、咲いて散る桜に失礼だ。 ナルトは立ち上がるとアジトの方へと歩き出した。 満開に咲いていた桜も、来年は咲かない。 今年がきっと最後だろう。 毎年この時期にナルトここに来ていたが、ここの桜が最後に咲いたのは 5年も前の話だ。 その桜が今年は咲いた。 きっと、来年はもう咲けない。 その力をこの桜はもう持っては居ない。 「最期は天晴れだったってばよ。」 誰にも聞こえない声で。 精一杯の桜に敬意を表して。 アジトと称された洞窟を通り自室へと向かう。 あの桜のように自分も最期は華々しく逝けるだろうか? 誰に、見取られなくても良い。 それでも、自分はこの世に存在していたと、その証を残せるだろうか? 化け物としてではなく、うずまきナルトとして。 廊下と呼んでいいのか分からないが廊下を歩いていると、目の前に 一人の男が現れた。音も無く、気配も無く。 静かな声が、廊下に木霊す。 「ナルト、どうした?」 静かに顔を上げる。 今、自分はどんな顔をしているだろうか? ひどい顔で無ければ良いが。 うまく機能しない声帯を震わせて、 「リーダー・・・・」 名を知らないので、みんなが呼ぶとおりに呼ぶ。 「浮かない顔をしている。」 「あぁ・・・・うん。死ぬ桜の最期を見てきた。」 「そうか。天晴れだったか?」 「最高に。」 笑えているだろうか。 あの桜の最期は伝わっているだろうか? 静かに彼は笑って、 「それで。」 その先を聞く。 桜の話ではない。 もっと、違う何かを待っている。 素直に言ってしまえば良いのか・・・・。 あぁ、言ってしまえ。 「・・・・・ハカナイなって。俺が見に行かなかったらあの桜は最期の姿を誰にも 見てもらえずに終わった。俺が見たことに意味があったかどうかは別としても。」 「それで、儚いか?」 「それもあるんだけど・・・・」 続けようと思った矢先に口喧嘩をしていたデイダラたちが戻る。 「ナルナルとリーダー何話してるんだ、うん??」 デイダラはナルトに飛びついた。 その後ろには真っ黒なオーラを発しているイタチとサソリ。 「桜の話。」 「ナルナルは桜がそんなに好きなのか、うん?」 「ハカナイとことか。」 「ナルト君は感性豊かだね。」 「そんなにハカナイなら、作ってやろうか?」 リーダーが声をかける。 その発言にナルトはばっと、顔を上げた。 今、彼はなんと言った? 「ハカナイなら、作ってやろう。」 ナルトの心を読んだかのように彼はもう一度言った。 でも、何故だろう。 さっきまではアレほどにまでソレに固執していたはずなのに。 今は、どうでも良い。 分かってもらえた。 言葉にしていたけど、違う意味で。 ソレが、届くなんて。 それならば・・・・・・・・もう、 「要らない。」 ナルトは綺麗に笑った。 欲しかったけど、もう要らない。 そんなものは要らない。 誰も来てくれない。 そんな寂しさには耐え切れないから。 一人、そんなところには居たくない。 縛られるの嫌だ。 あの桜のように、天晴れで良い。 だから、要らない。 「ナルナルとリーダーは何を言ってるんだ、うん?」 「さぁ。」 「知るか。」 「何でしょうね?」 「分からなくて良いってばよ。もう、要らないから。」 いつものひまわりが咲いたような笑顔で。 ナルトは、満足そうに笑う。 証なんて要らない。 今は、ハカナクても構わない。 俺のために作られた墓は要らない。 だから、     墓 な く て       も構わない。


喪中シリーズ第二夜です。 ハカナイの変換を色々していましたら、墓ないに行き着いて。 コレ、いいなぁって。思ったら使ってました。 ちょうどお題にもあったので。 こんな調子で頑張ります。

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