雨が降る。 ぱらぱらと。 ざあざあと。 ばらばらと。 空から地に向かう。 はらはらと。 さらさらと。 空から。 雲から。 風から。 眼から。 アナタを想って雨が降るのです。 目の前に居るのは木の葉の忍。 対峙しているのは、木の葉を抜けた忍と芸術家コンビの片割れ。 今更になって追い忍などかかるとは思ってもみなかった。 何故、抜けたそのときに追い忍がかからなかったのか。 不思議に思っていたが、敢えて考えないようにしていた。 だって、本当に今更だ。 俺が里を抜けてから3年の月日が流れていたのだから。 「今、戻ると言うのなら、長期任務についていたと言うことで火影様が『里に戻ることを 許可する。』と言っています。五代目はそれを強く願っています。」 「私達も、あなたをここで殺したくは無い。」 「四代目が命を懸けて残した、あなたを失いたくは無い。」 「それを承諾できないのでしたら・・・・・・抜け忍として、うずまきナルト。あなたをここで 殺します。」 口々に四人の暗部が言う。 まだ若い。熟練した忍ではない。 追い忍ならば、こんなことを言わずに標的を殺さなければ。 里を抜けた忍がのうのうと抜けた里で生きていけるわけが無い。 それを分からないわけではないだろうに。 それに、どうしてこんな任務にこんな甘ちゃんが向けられた? ・・・・・・なるほど。綱手のばあちゃんも考えたな。 よく知ったチャクラ。 彼らは自分と任務を共にしたこともある。 初めは確か、後世の忍を育てるためだと、そういって組まされたはずだ。 俺が気に入って力を入れてしごいていたはずだから、力は保証しても良い。 舐めてかかると此方が危ないな。 綱手の奴も面白い奴らを送ってきたものだ。 付け加えてきっと、俺が四代目の息子だと言うことも聞かされているのだろう。 だから、失いたくないだの言っているのだ。 上層部もそのことを聞いて今更、掌を返したように行動し始めたに違いない。 実に滑稽だ。 何もかも今更だ。 連れ戻したいのなら、どうしてこんなにも時間が経ってから行動した。 どうして、自分が暁と言う組織に居場所を見出してから連れ戻しになど来た。 何もかもが、今更過ぎて。 ――――返す言葉など決まっているのに。 「悪いが、里に帰る気などない。」 真っ直ぐに彼らを見て言う。 だって、もう里に帰っても昔のようには出来ない。 あの、何も無い里で人形になって、縛られて生きていくなど。 自由を知ってしまった今では、大切な人が出来てしまった今では。 あの里は、俺にとって生き地獄のようなものでしかない。 しかし、追い忍たちはそれを分かる事など出来ない。 それを、分かってしまえばナルトを里に連れ帰すことなど出来ないから。 だから、声を張り上げて言うことしか出来ない。 「何故!?」 「あなたのような優秀な忍が里を裏切るなど!!」 「我々にはあなたが必要です。」 「あなたが火影になるのなら・・・」 「火影なんてクソくらえだ。」 火影なんて所詮、俺にはなれない。 狐の分際で火影など初めから無理だったのだ。 でも、それを目標として頑張っていたのは少しでも、こんな自分でも誰かに 必要とされているのだと知りたかったからで。 けれど、もうそれもどうでも良い。 俺を俺として見てくれて、必要としてくれている人が隣に立っているから。 アジトに帰れば、俺を俺として見てくれて、必要としてくれる人たちが居るから。 俺が、命をかけても良いと思える人たちが居るから。 彼らのためならば、死ぬことも厭わない自分が居るから。 「俺は、木の葉には戻らない。3年も経った。木の葉には俺の居場所は無い。 例え、あったとしてもそれは俺の望んだものではない。俺が、四代目の息子だと そう聞かされてきたのなら諦めてくれ。俺にはもう里を愛する心は無い。 あの里は生きていくには辛すぎた。俺はもう居場所を見つけてしまったから。 暁、ここ以上に俺が生きたい場所は無いから。」 きっと、俺は今満足そうな顔で言っているに違いない。 気が狂ったといわれても仕方ない。 それでも、俺はここ以外で生きていく気はないから。 ごめんなさい、俺は、ここで生きて、逝きます。 追い忍たちは皆、言葉を失くしたように立ち尽くす。 すると、一人の追い忍が暗部面をはずした。 見覚えがあった。 彼が、一番熱心に自分を探しては修行の相手をせがんだから。 スキルの伸びも彼が一番良かった。 努力は決して自分を裏切らない。 それに、彼には生まれ持っての才能もあった。 静かに、此方に歩いてくる。 ナルトまであと3mのところで彼は止まった。 真っ直ぐナルトの目を見つめたまま、静かに、淀みなく言った。 「暁を壊滅させればあなたは戻ってきてくれますか?」 予想の出来た言葉。 けれど、実際言われてみると。 何を勘違いしているのだろうか。 お前ごときが暁を壊滅させるだと? 笑わせるな。 確かに、お前は里の中では強かった。 けれど、俺はお前相手に一度でも本気の力で戦ったことはない。 そんなことをしてしまえば里がクレーターでも遺して消えてしまうから。 それより。 何より。 重力なんかよりもっと重い殺気が場を埋め尽くす。 「コクコ、お前らが手を出す前に俺がお前らを殺すよ?」 誰であろうと、俺の場所を奪うものは容赦しない。 ここは木の葉じゃない。 俺は、木の葉の忍じゃない。 だから、あの時のように誰かの為に犠牲になりたいとは思わない。 犠牲になるのが当たり前のあの里とは違う。 クレーターを作るほどの力でお前らを潰してしまっても構わない。 「かかって来いよ。」 止め具を外された暁のコートが力なく地面に落ちた。
喪中シリーズ第四夜です。 ここから、三作連作になります。 ごめんなさい。 一話にしようとすると長くて仕方ないので。 切らせていただきました。 残り、中篇、後編をお楽しみ下さい。
≪戻る。