『花から花へ』

目が醒めたら、自分に宛がわれた部屋で寝ていた。 頭がボーっとしていまいち現状が把握できない。 どうして自分は寝ているのだろうか? 体中がぎしぎしと軋む。 包帯と薬品の匂いが部屋に充満している。 換気ぐらいして欲しかった。 昔から、馴染みのこの匂い。 決して好きではなかった。 無理矢理身体を起こす。 ベッドについた腕から激痛が走る。 背中の皮も胸の皮も引き攣った。 「っ・・・・・ぁ・・・ぐ・・」 口から呻き声が漏れる。 体を倒すことも、起こすことも出来ずに中途半端な状態で止まる。 扉を開けた誰かが手に持っていたカナダライを床に落として走ってきた。 「ナルナル!!!」 部屋の中にぞろぞろと人が入ってくる。 自分は、デイダラに手を貸してもらいながら静かにベッドに横たわった。 「・・・・ありがと」 「・・・・・・」 「・・・・」 「・・・・・・・・」 「・・・・・・」 視線が刺さるように痛いのは気のせいですか? 俺は何かいけないことでもしましたか? 確かに、今重症で寝ているようですけど。 「何?俺ってばなんかしたってば??」 何故だろう。 さっきよりも酷い殺気が部屋の中に充満しているのですが。 言ってもらえないと分からないんですけど。 別に、追い忍を倒して俺は生きてるんだから。 ちょっと、怪我は酷いけど何処もなくなってないし。 九尾がせっせと治癒してるから、回復に向かってるし。 追い忍たちが生きて帰らなかったから、俺が生き残ったことは 里のほうに報告されてるだろうケド。 結果オーライじゃないか。 俺は死んでない。 生きている。 追い忍の抜け忍討伐は失敗。 アジトもばれてない。 総合的に考えてみれば、大丈夫だし。 何も悪いことないじゃないですか!! ナルトのしかめっ面を見ていたイタチが最初に口を開く。 「ナルト君。胸に手を当てて考えて御覧?」 「いたたっ・・・あぁ、別に何も。」 「ナルト、お前何日寝てたか分かるか?」 「怪我治ってないところからして、2日くらい?」 「7日ですよ。高熱が続いてやっと今朝方引いたんです。」 「へぇ〜」 「へぇ〜じゃねぇだろ、うん?」 「九重の奴、サボってないで駄賃ぐらい払えよ。前言撤回だ。せっせと治癒 してないってば。全く・・・・って空気重いですってば。」 何故だろう、俺が一言口に出すたびに部屋の空気が下がっていくのは。 おかしい、絶対におかしい。 いつもなら、俺が怪我をしたらどうした!どうした!!といってくるのに。 動けないだけに、肌がぴりぴりと危険を察知している。 「ナルトさん。私達がどれくらい心配したか分かりますか?」 「・・・・・」 「ナルト君の目が醒めないんじゃないかって不安だったんだよ。」 「・・・・・・・」 「何故、傷付くことを選ぶ。」 「・・・・」 「心配してくれる人が居るって自覚あるか、うん?」 「・・・・・」 「・・・・・ごめんなさい」 「聞こえない。」 「ごめんなさいってば!!心配かけて済みませんでした!!!!」 サソリにダメ出しをされてナルトは大声で言い直す。 肩でぜーはーと息をしてしまうのは仕方ない。 多少傷に響いたがこの際、シカトする。 みんなが不機嫌な理由だって何となく分からなくもない。 けれど、結果こうなってしまったのだから今更だ。 次は善処したいとは思うが。 コクコたちは死に場所を探していた。 だから、自分が用意したまで。 きっと、彼らは俺を連れ戻せなかったら死のうと思っていたに違いない。 そうでなければ、あんなに大量の起爆札を身に着けているはずがない。 俺なんかに関わるからこうなるんだ。 好きなものは作らない。 俺はそうやって生きてきたから。 好きになったものはことごとくなくなっていく。 なくしてしまうくらいなら何もなくて良いと思っていた。 だから、何も要らないふりをしていた。 でも、ここは違う。 途端に、柔らかくなる空気。 「ナルナル食べたいものある、うん?」 「何か食べないと回復しませんから。」 「包帯取り替えないとな。」 「喉は渇いてないかな?」 優しくしてくれる人が居る。 頼ってもダイジョウブな人が居る。 好きになってもいなくならない人が居る。 だから、その好意に甘えてしまう。 我が儘だって言ってしまえる。 ベッドに寝転がったまま。 今、ここに生きていられることの幸せを再確認した。 心配してくれる人が居る。 怒ってくれる人が居る。 俺を、俺としてちゃんと見てくれる人が居る。 「お腹に優しいものが食べたいってば。すっごい薄いおかゆとか。」 「じゃ、オイラ作るぞ、うん!!」 「デイダラが台所に立つと爆発するから、入らないで下さい。」 「ほんとだってば。」 「ひでぇー!うん!!」 「サソリ、汗かいたから、包帯と一緒にタオルも持ってきてほしいってば。」 「分かった。消毒が沁みても泣くなよ。」 「泣かないってばよ。イタチ。ポカリ持ってきて。喉渇いた。」 「ポカリだけでいいのかな?」 「取り敢えず。」 動けない俺にみんな優しくしてくれる。 凄い新鮮。 嬉しくて涙でそう。 「包帯替えるぞ。」 「うん。」 全身に巻かれた包帯を一度外す。 所々膿んでいるが、だいぶ良くなっている。 包帯に染みも出来ていないし。 ただ、包帯の下のガーゼを剥がす時にやっと出来た薄皮がはがれるのが ナルトには無性に痛かった。 「サソリ、痛い!!痛いってば!!!薄皮はがれる!!!!」 「つべこべ言うな。黙ってろ。」 「痛いモンは痛いって!!!ぎゃぁ―――――!!!」 容赦なくかけられた消毒液。 戦闘時に負うでかい傷は痛みが酷すぎて神経がぶっ飛ぶが、これくらいの 小さな傷になってくると中途半端な痛みがダイレクトに届く。 痛い。消毒される時が一番痛い。 サソリにしてはだいぶ優しくしているのだが、ナルトには伝わらないらしい。 コレをちんたらちんたらしていたらもっと痛いのだが。 どっちにしろ痛いことにナルトとしては代わりはない。 「サソリ、俺のこと嫌いってば!?」 「こんな大怪我負ってくるお前のほうが、俺らのこと嫌いなんじゃないのか?」 「そんな事ないってばよ!!コレってば不可抗力だってば。」 「じゃ、お前が弱いだけだな。」 「ぶぅ〜〜〜」 「二度とこんな格好で戻ってくるな。」 「・・・・・善処は・・・するってば」 「そうしろ。」 花から花へ飛び回る。 好意を寄せてくれる優しい花には躊躇いもなく。 例え蜜がもうなくとも。 蟷螂が捕まえようと待ち構えていようとも。 どんな危険があろうともふわふわと近寄る。 君は美しく優しい至高の蝶。


喪中シリーズ第六夜です。 後編です。終わりました。 以上です。 上手くまとめられなくていつもすみません。

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