『標本の様に』

内臓を抜き出して。 血を抜き出して。 おが屑を中に詰めて。 綺麗に乾燥させて。 崩れないように細心の注意を払って。 お腹にピンを刺して。 さぁ、お気に入りのコレクションが一個増えたよ。 「ナルナル、凄いカッコだな、うん。」 「俺の作品になる前に誰かの作品になるな。」 「ナルト君、何故そのままの格好で居るのかな?」 「ナルトさん、大丈夫ですか?」 場違いな4人を目の前にして、ナルトは不適に笑った。 「遅いってばよ。」 事の始まりは木の葉の国境付近での任務の帰りだった。 いつもならば、イタチ・デイダラ・サソリ・鬼鮫の誰かと一緒に、 ツーマンセル、もしくはスリーマンセルを組んで任務に向かうのだが、 今日は人手が足りないということで一人で任務に出た。 レベル的にはさほど高くない。 一人で出来ない任務じゃない。 元気に、いって来ますなんて言ってアジトを出て。 軽く任務をこなし、さぁ帰るかなんて言ってた時だ。 うっかりしていた。 ここが何処だかすっかり忘れていた。 国境を越えて里の中に入ってしまわないように気を付けていたのだが。 木の葉の里の中にうっかり入り込んでしまっていたようだ。 目の前には木の葉の暗部数名。 「見逃してくれたりしないよな?」 とたんに臨戦態勢に入る暗部。 「困ったってばよ。」 途方の暮れながら、コートの中ではクナイを構え。 いつでも戦闘に持ち込める状態にしていた。 「どうした。」 一人遅れて登場した暗部。 一人の暗部が振り返り、送れて着た暗部に報告する。 「隊長。暁の一味と思われる忍が・・・」 「何?」 面で顔は見えないが、それは聞き知った声。 里の中に居たとき、仲間として任務にも出た彼の声。 「・・・あぁ、もしかしなくてもネジかってばよ?」 「・・・・ナル・・ト?」 半信半疑の声が返ってくる。 どうやら間違っては居なかったようだ。 ならば、戦闘は避けたい。 里を抜けた身とはいえ昔の仲間とは出来るなら戦いたくない。 見逃してくれるほど優しくはないと思うが。 言って見る価値くらいはあるだろうか。 「大正解だってばよ。でさ、見逃してくんねぇ〜かな?お互い、無益な 戦闘はしたくないってばよ?」 「それは・・・・」 「無理に決まってんだろうが。ネジ、アンタも私情挟んでんじゃねぇよ。 今は、任務中だ。」 後ろの闇の中からひょっこりと現れた黒い影。 木の葉で闇が似合う一族といえば奈良だが。 その中でもやはり彼が一番似合う。 口角が上がるのを押さえきれない。 まるで同窓会のように、ひょこひょこと人が現れる。 もしかしたら、カカシ先生とか出てくるんじゃないだろうか。 それにしても・・・ 「シカマル容赦ねぇってばよ。」 「のこのこ入ってくるお前が悪い。」 「そりゃそうだけど。仕方ねぇーじゃん、任務帰りなんだから。」 「ほ〜木の葉の近くで、何をしていらっしゃったんでしょうね?」 「暗殺。」 ナルトの身体からもコートからも血の臭いはしない。 ほんの10分前まではばたばたと人を殺していたはずなのに。 3年という月日はコレほどにまで人を変える事が出来るのか。 ドベで、俺と一緒のイケてねぇ派だと思っていたのに。 数週間前に送った3人の追い忍をあっさりと殺して。 その後も何回か送った追い忍を全て殺し。 さすがに五代目も諦め始めていた。 俺たちが知っていたナルトはもうそこには居ない。 シカマルは、面をはずしながら言った。 「それって、錦鈴一族のことか。」 「よく知ってるってばね。」 「俺らも、その一族に用があったんだが、着いた時には誰も生きてなくてな。 まだ、誰か残ってかと思って捜索してたんだが。」 「へぇ〜ご愁傷様。」 暗殺任務と護衛任務か。 俺が殺すのが早かったわけで。 あっちは任務失敗で、こっちは任務成功。 何の恨みもなかったけど、任務だから。任務に私情は挟まない。 木の葉を抜けて、暁に属して嫌と言うほど教え込まれた。 今は、人を殺しても心は波風一つ立たない。 「変わったな、お前。」 「変わらないほうがおかしいってばよ。」 「そうか。でよ、大人しくつかまってくれっと助かるんだが。」 「冗談きついってばよ。」 「だよな!!!!」 戦闘開始。 「あぁ、ひでぇ〜よな。対尾獣用のチャクラ封じの札なんて。」 一瞬の隙を突かれてというか、思わず隙を作ってしまったために現在、武器を全部 取られ、幾重にも重ねられた結界の施された牢屋にぶち込まれている。 3年も立てば対尾獣用のチャクラ封じの札が開発されていてもおかしくはない。 油断しすぎたかなぁ。ってか、甘く見すぎていた。 ナルトは自分の失態を反省しながら牢屋を観察していた。 蟻も抜け出せないくらいに緻密に貼られた結界。 その上、身体に貼りまくられた札の数々。 チャクラを全くと言って良いほど感じられない。 九重のやつも腹の中でおとなしく死ねてやがるし。 当然ついているはずの監視は居ない。 その代わりに、ずらずらと並んでいる同期のメンバー。 そろいも揃って暇なんだろうか。 綱手のばあちゃんまで居るし。 「何故、里を抜けた。」 「追い出されたから。」 「何で、あんたが追い出されるのよ!?」 「九尾の器だから。」 「それと、コレとは話が別だろうが。」 「一緒だって。」 「でも・・・じゃ・・なんで・・・暁なの?」 「イタ兄が居たから。」 「アイツの何処が良いんだよ!?」 「サスケ、お前なんか歯牙にも入れないくらい。」 「ナルト。お前、木の葉に戻る気はないのかい?」 「一昨日来やがれ。」 吐き捨てるように言ってやった。 だって、もうこの里に用はない。 ここは、もう俺の居るべき場所じゃなくなったから。 「で、昨日の今日で処刑なんだ?ってか、コレって火炙り?豪勢!!」 「馬鹿なこと言ってんじゃないよ。ほんとに、戻る来はないのかい?!」 「くどいってばよ。」 翌朝。早々にも俺の処刑が決定し。 里の真ん中の広場にて、張り付けの上に火炙り。 野次馬根性で里人全員集合ってか。 俺を中心にして綺麗な円が出来ている。 人間が燃える臭いなんてクソ気持ち悪いだけなのに。 そんなに、俺が燃える姿が見たいのかってばよ。 まるで、そう魔女狩りみたいだ。 つっても、こっちは妖狐もちだけどな。 助けは・・・・来なくてもいいけど。 兄ちゃんたちってば薄情だってばよ。 俺が死んだら、取り敢えず焼けて残った骨、拾って欲しいのに。 俺の骨ってばこのままじゃ誰にも拾われずに踏みつけられそう。 火遁の印を組むために進み出た忍何名かを見やる。 さすがに、同期のメンバーは居ない。 年貢の納め時だってばよ。 「あぁもう・・・・・????」 人垣が割れる。 「ナルナル、凄いカッコだな、うん。」 「俺の作品になる前に誰かの作品になるな。」 「ナルト君、何故そのままの格好で居るのかな?」 「ナルトさん、大丈夫ですか?」 場違いな4人を目の前にして、ナルトは不適に笑った。 「遅いってばよ。」 助けに来てくれるのを少し期待していたといったら怒られるだろうか。


昔、学校に置いてある蝶の標本が欲しくて欲しくて堪らない時期がありました。 そこで埃を被るくらいなら、私の手にあったほうが良いなんて思ってたり・・・。 正直、今も欲しいんですけれど。

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