桜の季節になると落ち着かなくなる。 いつからそうなったのか覚えていないけど。 夜桜を見に行ったときに変な感覚に襲われた。 それは懐かしさかもしれない。 しかし、そんなものとは違うもっと怖いものが。 桜の木の下には・・・・・・・ 中忍試験。 木ノ葉崩し。 里抜け。 帰還。 中忍試験。 中忍昇格。 上忍試験。 上忍昇格。 暗部入隊。 まるで人事のようにあっという間に季節は移ろった。 幼く、弱かった頃とは変わった。 いろいろなことが変わった。 それはあることがきっかけで。 ほんとは、ずっと昔からそのきっかけはいつもそばに居た。 でも、幼く弱かった俺は気づかないふりをして。 知っていたのに知らないふりをして。 目を背けていた。 けれど、最終的にそのきっかけに助けられた。 里を抜け、大蛇丸の元に走った俺を連れ戻してくれた光があった。 それは金色をしていて、闇に慣れすぎていた俺にはとても眩しかった。 いつも輝いていた光はどんな闇にもうずもれなかった。 どんな逆境にも負けずに光り輝いていた。 その光に誰もが魅かれ。 誰もがその光を手に入れたがった。 俺もその一人で。 結果、俺は手に入れたかった光に選ばれ。 今、ともに生きている。 これからも、一緒に生きていく。 季節は移ろった。 俺たちは成長して力をつけた。 互いに互いを高めあい。 互いを必要として。 そうしてここまできた。 そして、今年も桜の季節がやってきた。 待機室ではいろいろな人間が任務までの時間をつぶしたり、任務の報告書を 出して寛いでいる人間もいる。 サスケは前者の人間でもあり後者の人間でもあった。 昨晩に任務の報告書を出し、今日の任務の召集を待っていた。 そこに赤丸を連れたキバが報告書片手に入ってきた。 サスケを視界に捉えるとキバはニヤニヤして歩き寄ってきた。 「サスケ、ナルトはどうしたんだよ?」 サスケはキバを視界に一端収めるとすぐに外した。 その顔には明らかに不機嫌だと書かれていた。 「一週間前から任務に出たきりだ。」 「そろそろ寂しいんじゃないのか?」 「あいつがか?」 「お前のほうだろ。」 言わなくても解ってるだろうと言わんばかりにキバは笑みを深めた。 サスケは不快そうにちっと舌打ちをした。 キバの言ったことが図星だったからだ。 大蛇丸の元から連れ戻された後、サスケを支えたのはナルトだった。 最初、サスケははその手を取ろうとはしなかった。 サスケがどんなに差し伸べる手を払おうともナルトは何度も手を差し出した。 サスケが100回振り払えば、101回差し伸べる。 振り払った数よりも、差し出した手の数のほうが多ければ、いつかその手を 取る日が来るだろうと。 けれどナルトはサスケに差し出す手を取ることを強制することは無かった。 その手を取るも取らないもサスケの自由で、選ぶ権利はいつだってサスケに あった。 ただひたすらナルトはサスケが選ぶことが出来るように選択肢を提示していた。 そんなナルトの姿を見て周りはいい加減放っておけば良い。無駄だ。そこまで する義理も責任も必要も無い。と言った。 けれど、ナルトはふわりと笑って自分がやりたくてやっていることだから気に しないで欲しいと応えるのだった。 同期の下忍たちはナルトを傷つけたサスケの為にそこまでがんばるナルトが 分からなかった。 「傷つけたのはたぶん俺のほうで、被害者はサスケだよ。」 いつの日だったかそうナルトは言った。 誰もがその意味が分からずに首をかしげた。 しかしナルトは例の寂しそうな笑顔を浮かべてただひたすら待っていた。 サスケがその手を取るのを。 「サスケの光になれれば良いと思ってるんだ。」 ぼそりと零された言葉を果たして何人の人間が聞き取ることができたのか。 そして、最終的にサスケは不器用だがその手をとった。 それ以来サスケは何かとナルトのそばに居るようになった。 親鳥を必要とする、巣立つ前の雛のように。 宿木がなければ休むこともできない鳥たちのように。 まるでナルトに依存するような生活を送っているサスケ。 ナルトが居なくなったらきっと、サスケは生きていけない。 それくらいにサスケはナルトに依存していた。 そんな自分を見透かされている事に対してサスケは苛立ちとは恥ずかしさから 「煩い。」 といってキバを睨む。 苦し紛れに言った一言はどこか滑稽さを持っていた。 キバが楽しげにサスケをからかっているところに一人の暗部がやってきた。 手には任務内容が書かれた巻物が握られていた。 指名されるのはサスケかキバか・・・・・ 「うちは」 「何か?」 「今晩の任務は俺と組むことになった。」 「解りました。任務内容は?」 すっと巻物が手渡される。 帯の色は紫。sランク任務。 「これに書いてある、暗記したら燃やしとけ。」 「はい。」 巻物を手にしたままサスケは相手を見やった。 今までに何度も組んだことがある。 名前はヒビキ。 変わり者と称するのが一番だと思う。 一緒に任務をしていて俺の足を引っ張らない実力。 それでも力では、間違いなく勝っていると思う。 しかし、何故か頭が上がらないのは相手の特質なのだろうか? 年の功なのか何なのかは知らないが苦手ではないが食えない男だ。 サスケをからかっていたキバは赤丸の頭をなでるとサスケに背を向けて手を 振った。 「じゃ、俺は報告書出しに行くから。またなサスケ。」 「あぁ。」 詰め所を出てサスケは巻物を開く。 暗殺任務のようだ。 量はさほど多くないようで、たいした時間もかからずにすみそうだ。 サスケは任務の内容を確認し終えると灰も残さず燃やした。 「今晩は満月か・・・・」 東の空から巨大な満月が上がろうとその一角を茜色の空に現していた。 明るすぎる光の下で行われた暗殺任務。 満月は人の中にある力を増大させるという。 血が騒いで仕方ないのはそのせいだろう。 サスケは忍刀に着いた血を払い落とすと目の前の桜山を見た。 ここ一週間、温かかったせいか桜は満開を迎えていた。 山全体が満開に咲いた桜に征服されていた。 桜の花びらが月明かりを浴びて青白く光る。 まるで山全体が青い光を放っているかのようだった。 しゃらん しゃらん しゃららん しゃん しゃん しゃらん どこからともなく鈴の音がした。 脳裏をよぎる断片的な映像。 自分の手を引く誰かの手。 満開の桜の下で踊る白拍子。 それを囲う何人もの暗部。 紅い、弧を描いた唇・・・・・・―――― 音もなくヒビキはサスケの横に立った。 断片的な映像は途切れた。 ヒビキは暗部一人一人に配給されている動物を模した面を取った。 暗部同士、素顔を見せることはご法度であった。 しかし、ヒビキは何の躊躇いもなかった。 サスケとヒビキは顔見知りの仲なので素顔を見ても別に困らなかったからだ。 初めて組んだときに互いに素顔を見せていた。 サスケはもともと面を被っていてもいなくても変わらなかった。 ヒビキはヒビキで一服と言って任務終了と同時に面をはずすとタバコを吸いだした。 しかも、サスケに勧めてくるぐらいだった。 それ以来、任務が終わると面をはずすのが当たり前のようになっていた。 暗部特有のベストには血のついた跡はなかった。 サスケのベストにももちろん血のついた跡はなかった。 「任務終了。夜桜見物でもして帰るか?」 おもむろにかけられる言葉。 しかし、サスケはその話に乗り気ではなかった。 早く家に帰って疲れを取りたい。 何より長期任務からナルトが帰っているかも知れない。 断ろうとサスケが口を開いた。 「俺は別に・・・・」 しかし、その願いも虚しく。 「お前も夜桜の良さをそろそろ学んだほうが良いと思うけどな。」 「・・・分かりました。」 「物分りが良くてよろしい。」 ヒビキの笑った顔が見えた。 満開の桜はこの世のものとは思えない景色を目の前に惜しげもなく見せていた。
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