満月の夜の桜山には白拍子が。 自分の手引く誰か。 満開の桜の山。 真っ白な舞台の上で踊る白拍子。 白拍子を囲むように座る暗部。 これはいつの記憶? 思い出そうとすると何か怖いものが襲ってくる。 こっちを向いて白拍子が笑った気がした。 満開の桜に征服された山は青白く光っていた。 青白く発光している山は不気味なほどに綺麗だった。 桜の花が淡いピンク色なのは、元は白かった花が土中に埋められた屍体の血を 根が吸い上げて染まったからだと聞いたことがある。 単なる噂話だと気にも留めずにいた。 「しかし、これだけ見事に桜が咲いてると何か出てきそうだな。」 「お化けでも出るって言うんですか?」 「死を招く白拍子だよ。」 「死を招く白拍子?」 「何だ、知らないのか?結構有名だぞこの話。」 聞けば、この季節になると満開の桜に征服された桜山の下で白拍子が十数名の 暗部に囲まれて舞を舞っているのだという。 その暗部はみな暗殺任務に向かう前らしい。 白拍子が妖艶に舞を舞うとその任務で死ぬ人間の数は二倍にも三倍にも増える のだという。 「馬鹿馬鹿しい。そんな話単なる噂話ですよ。死ぬ人間が倍になるなんて。」 「ま、その白拍子に会えるか会えないかは別として・・・・」 会話が途切れた。 山の中を移動していた二人の目の前に月明かりが差し込み、まるで舞台のように なっている場所に一人の白拍子が舞を舞っていた。 周りには、暗部が・・・・? しかし、そこに居たのは暗部特有のベストと面をした人間ではなく。 朱色の東雲が描かれた黒いコートを着ている人間だった。 気配は一切無かった。 円の真ん中で待っている白拍子の気配が一番希薄で。 本当にそこに存在しているのかも怪しいくらいであった。 黒いコートを着ている人間の中にサスケの良く知った人間が居た。 「うちは・・・イタチ!!!」 舞台を囲っていたのは暁のメンバー。 では、舞台の真ん中で待っているのは誰? 静寂を破るように発せられた声に白拍子の舞がとまる。 しかし、止まることでその優美さが損なわれることなくその空間だけは絶対で あった。 「せっかくの舞が台無しだ。愚弟、少しは空気を読め。」 立ち上がり、振り返ったイタチは冷たくサスケを見やった。 ほかの面々も立ち上がる。 白拍子の姿は隠れて見えなくなった。 「何言ってやがる、今この場であんたを倒す!!!」 今にも飛び出そうとしているサスケの肩を、ヒビキが掴む。 「サスケ、落ち着け。」 「放せ!!」 「相手はあの暁だ。向かっていっても返り討ちにあうのが関の山だ。」 「みすみす逃せって言うのか!?」 「逃してもらうのはサスケのほうだよ。」 イタチとサソリの間から白拍子が現れる。 黒い烏帽子に流れるように長い黒い髪。 真っ赤な紅の引かれた唇。 紅よりも赤い燃えるような赤い瞳。 橙の袴。白い直垂。 「何言って!!」 「ヒビキ、どうしてサスケを連れて来た?」 「そろそろいい時期かと思って。」 「知って欲しくなかったのに。」 「はぐらしてきていたからね。」 「ばれると思ってたけどな、うん。」 「詰めがあめぇんだよ。」 「仕方ありませんよ。」 白拍子は少し困ったような寂しい顔をしてヒビキに声を掛け、白拍子を中心にして 暁のメンバーが半円状に広がる。 「思い出さない?」 弧を引いた唇。 満開の桜の下で妖艶に笑うその顔は。 幼い頃に自分の手を引いて夜桜を見せてくれたのは。 そこで何を見た? そして、そこで何を忘れさせられた? 最後に見たモノはなんだった? 白拍子は困った表情のままサスケを見た。 その表情に見覚えがあったが、サスケはその事実を認めたくなかった。 それは一番身近な人間のたまにする表情で。 良く感じてみればその気配も良く知ったもので。 変化して姿かたちは変わっているけれど分からないはずがなかった。 「・・・・ナ・ルト?」 「どうして、あの時の忘れたままで居られなかったの?」 「・・・な・んで・・あのときの白拍子がお前だって言うんならおかしいじゃないか!!」 「何も可笑しくないってばよ。」 ドベを演じているときの口調で答える。 何も可笑しいことなんてなかったんだ。 可笑しくないことなんて何一つ無かったんだから。 激昂したサスケは噛み付くような声を上げる。 「ドベのお前が!!」 「ごめんねサスケ。俺ってばあの時にはすでに暗部に所属しててイタチとも何回も ペア組んだりしてたんだ。」 サスケの瞳が黒い色に染まる。 人を拒絶するときに染まる色。 結局俺はサスケを傷つけることしかできなかった。 「だましてたのか?」 「違う・・・けど。」 「だったら何で!?」 「まだ、その時じゃないんだ。」 「時ってなんだよ!?」 まだ言うには早いんだ。 俺は臆病者だから今だった怖くて仕方ない。 サスケに拒絶されることを恐れてる。 波の国で命がけで守ってくれたこと。 あのとき、俺は救われたんだ。 何の見返りも求めずに。 自分の復讐という果たさなくてはいけないことよりも俺を守ってくれた。 俺なんて守る価値さえないと思っていたのに。 だから、嫌われたくない。 拒絶されたくない。 異形のもののように見ないで欲しい。 今はまだ、早すぎるんだ。 臆病な俺と、幼いサスケでは。 「ちゃんと、言える時が来たらいうから。それまで・・・・・忘れて?」 「ふざけるな!!!」 ざぁぁぁぁっっ それまで吹いていなかった風が急に吹き出し、視界を桜の花びらが覆う。 「ナルトォォォ!!」 「ごめん」 困ったような、寂しいような、苦しいようなそんな顔をしたナルトを桜吹雪の中に 見たような気がして、世界が真っ白になった。
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