俺にはお前の笑顔は眩し過ぎたんだ。 春の日差しのように暖かくて。 真夏の太陽のようにまぶしくて。 もう一生縁がないと思っていたその笑顔は、俺には眩し過ぎた。 優しくて。 温かくて。 愛しくて。 その笑顔にほだされてしまったら、あの凍えるような世界には戻れない気がして。 復讐を遂げようと、一人で殻に籠もって。 他から与えられる優しさや、愛なんて必要ないと切り捨てて。 向けられるのは、殺気の籠もった殺伐とした空気だけで構わないと思っていたくせに。 お前の笑顔を見るたびに、その優しさに触れるたびに。 この凍えそうな世界から抜け出したくなって。 それではいけないと何度も自分を叱咤するけれど。 それでも、誰からも愛されているお前が愛しかった。 □■□■□■ 何でも切り捨てようとするお前の態度が気に食わなかったんだ。 俺には一生与えられる筈のないものを与えられて。 どんなに努力しても得られないものを初めから持っている癖に。 何でもむげに出来るお前が憎かった。 嫌い。 嫌い。 大嫌い。 誰からも愛されている癖に、それを当然のように思っていて。 だから、何の感慨もなしに他人から与えられる愛をむげに払い落とす。 その大切さを知らないから、簡単に振り払える。 俺には与えられる筈のないものを、いとも簡単に捨ててしまえるお前が憎くて仕方なかった。 与えられる無償の愛が君をどれほど豊かにしたのか。 周りからの保護にどれだけ助けられて生きてこれたと思っているのか。 助が無ければ生きてこれなどしなかったくせに。 何でも切り捨てられるお前が殺したいほど憎かったはずなのに。 □■□■□■ 眩しいと思っていたはずの笑顔の裏には計り知れないほどの闇が広がっていて。 一度覗き込んでしまったら出て来れないかもしれない深さ。 そして、暗闇の中で恐怖と絶望が渦巻いていた。 『泣き飽きたんだ』 というあの上忍の言葉を聞いて、カラカラになってしまったその涙の原因が知りたかった。 泣き飽きてしまうほどの出来事とは何なのだろうかと。 復讐を遂げると、言い続けて。 それでも、悔しさや悲しさから不覚にもまだ涙が流れてしまう自分と。 あの太陽のようなお前とは何が違うのだろうかと。 そんなことは微塵にも感じさせなかったから、お前には無縁なのかと思っていた。 両親を、一族を。信じていた、憬れていた、肉親に全てを奪われた痛みを。 へらへらと笑って足を引っ張っているようなお前に分かるはずが無いと思っていた。 □■□■□■ すかした顔して、俺のことを見下していたお前が愚か者に見えていた。 復讐を遂げるのだとささやかな殺気の籠もった目で言って。 そんな子供だましの殺気ぐらいで成功するわけが無いと。 無駄死にをするようなものだと思って何故、諦めないのかと思った。 諦めて、記憶に蓋をして無理やりにでも忘れてしまえば楽になれるのに。 キッパリと諦めることも、確実に殺せるだけの決意を持っているわけでもないのに。 だから、何もかもを捨てたいくせに何も捨てられないお前を見て哀れだと思った。 遂げられるはずの無い未来を見続けている盲目なお前が憎いと思っていた。 彼を殺せるだけの力を手に入れることが仮に出来たとしても。 復讐を遂げてそして何が残る? 達成感でも残るのか? いや、そんなもの残りはしない。 残るのは脱力感と虚無感だけだ……。 そして、抜け殻になった自分が無様にも残るんだ。 □■□■□■ でも、その存在は本当は全くと言って良いほど違っていて。 その存在は憎いだけとは全くと言って良いほど違っていて。 闇を覆えるだけの光が無ければ生きていけずに消えてしまうから。 何でも良いから縋らなければ生きていけずに消えてしまうから。 消えまいとして精一杯に強がって輝いていただけで。 弱いくせに消えないために強くあろうとするその精一杯の姿に。 形は違えど、消えたくない気持ちは同じだった。 煮詰めていけば笑ってしまうくらいに大差は無かったのだ。 そうやってどうにかして足掻いていなければ存在できない気がして。 消えてしまうかもしれないという恐怖に抗った。 だから、ホントは誰よりも分かり合って居たんだ。 今はそれをお前に伝える術は無いけれど………。
サスナル!! いや、サス→←ナルかな。 お互いを嫌いだけど、嫌いきれない二人。 本誌はなんか、アレ、だけど気にしない。
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