記憶なんて曖昧なもので。 簡単に忘れ去られてしまうものだ。 それがどんなに大事なものでさえ、人は薄情にも忘れてしまうのだ。 誰かが思い出させてやらなくては。 そうしなくては、単純は人は簡単に忘れてしまう。 うずまきナルトはこの里にとっての忌むべき存在。 うずまきナルトはこの里にとって排除すべき存在。 うずまきナルトはこの里にとって害をなす存在。 うずまきナルトはこの里にとって忘れ去ってしまいたい汚点。 この存在があり続ける限り、この里に平穏は訪れない。 この存在こそが諸悪の根源である。 この存在がなければ忘れることが出来る。 この存在の所為で忘れることが出来ない。 忘れることを許さないというようにこの里に生き続ける生きた罪。 犯してしまった罪を目に見える存在として遺されたモノ。 罪を裁くことをしない断罪者。 裁くことを行使しないことが罪をより鮮明にさせるように。 存在がまるで断罪を犯罪者のその目に見せ付けるかのように。 目にしてしまったらあまりの強烈さに忘れることは出来ない。 うずまきナルトはまるで太陽のように笑う。 どんな暗闇さえも照らしてしまうかのように。 照らされた闇の中から現われる全てのものを平等に照らす。 闇の中に住んでいたものを白日の下に照らし出し。 それをしてなお、更にその存在を照らし出す。 照らされていない場所など存在しないのだといわんばかりに。 そうして照らし出されたものの醜さは、一言では言えない。 どうして、これほどにまで醜いものが今まで分からなかったのか。 何故、明るみに出ることがなかったのか。 暗闇は、漆黒の闇は、これほどの醜いものさえ隠してしまうのか。 その身の内に、日に照らされては困るものを隠しこんで。 そうして、世界を混沌に導く。 醜いものが世界にはびこる。 それが、在ると分からせないための漆黒の闇が。 優しい顔をして、何もかもを包み込む聖母のような顔をして。 けれど、その優しい笑顔の反対側にある影の部分はどんな貌をしているの?? その漆黒の腹の中には何が住んでいるの?? 邪悪か。 諸悪か。 憎悪か。 嫌悪か。 恐怖か。 混沌か。 愚弄か。 愚笑か。 嘲笑か。 憐哀か。 だが、所詮はそんなもの。 そんなものは関係ない。 何が住んでいようと構わない。 何もかもを飲み込んで増幅し。 増幅したそれは混ざり合い。 何も作れはしないのに何かを作り上げ。 そうして作り上げられた何かは闇をかたどり。 更に大きなものを作り上げ。 制御の効かなくなったそれを放り出す。 手に余るものは余らせて置けばいい。 そのうち誰かが手に取り支配するだろう。 支配できるものが現われなければそれはそれ。 制御の効かない玩具は危険だ。 けれど、制御が効かない玩具だと誰が気付く? 誰も気付きはしないだろう。 制御の効かないものなど眼中にないだろう。 制御が効くと思ったものだけを手に取り。 それはただ、制御が効くと勘違いをしているだけかもしれないが。 どちらにしろ、制御が効くと思い、思い込み、手を伸ばす。 破滅を迎えたとしてもそれはそれ。 迎えた破滅を目の前に泣き叫び、助けを呼び。 そうして、作られる新たな闇。 漆黒の闇。 混沌とした闇。 そしてまた、凝りもせずに、制御できない玩具を作り出して混沌に捨てる。 使えないポンコツだったと。 手にするのも馬鹿馬鹿しい粗悪品だったと。 壊れたものを手に取るほど我々は愚かではない。 ポンコツは捨ててしまえ。 要らないものなど手元にあっても邪魔なだけ。 決して、捨てた玩具の行き先など考えない。 混沌に捨てた時点で手元から離れた。 手元にないものなど興味はない。 興味のないものなど忘れてしまう。 忘れてしまえば何も残らない。 残るのは混沌の中に捨てられた玩具。 混沌に捨てられた玩具は時を経て自我をもち。 自我を持つことで動き出す。 ポンコツ玩具として捨てられた記憶から。 捨てた側がホントはポンコツ玩具であったことを知らしめるために。 価値を理解せずに、ポンコツだったのはお前らだと。 見る目のない、価値のない存在はお前らだったと。 復讐する訳ではない。 報復する訳ではない。 そんな下らない事ではない。 もっと、もっと、素敵なものだ。 もっと、もっと、もっと、残酷なものだ。 「俺が何で何時も馬鹿みたいに笑ってるか分かるか?あいつらに忘れさせない ためだ。自分たちの罪を。その記憶から風化させないために。」 唐突にナルトは俺に言った。 それはいつもと変わらない日常の中。 誰が聞いているとも分からない帰り道で。 誰が見ているとも分からない影法師の伸びる道で。 別に、問いかけたものではない。 質問してきたわけじゃない。 解答が欲しいわけじゃない。 何の答えも欲しては居ない。 模範解答のような解答も、常軌を逸脱した奇怪解答も。 カラスが鳴いて、自分の巣に帰る。 果たして、彼らに巣などあるのか。 真っ暗闇の中に帰る彼らに。 安息の地などあるのか。 鳴いて巣に帰るカラスを見ながら、ナルトは風に流すように言った。 「忘れられちゃ困るんだ。罪の意識さえないのなら余計に。」 その瞳は夕焼けに紅く燃えていた。 空のような、海のような、その瞳が。 紅く燃える筈がないのに。 地獄の業火のように真っ赤に燃え上がっていた。 その瞳は本当に蒼いのか? 本当は紅いんじゃないのか? 蒼い瞳があんなに紅く燃える筈がない。 けれど、何も言わない。 瞳を覗き込んだりもしない。 横目で見ただけだ。 それ以上はしない。 瞳の色が何色だろうと今は関係ない。 この話に瞳の色など関係ないのだ。 地面に伸びた影法師は二つ。 長さは違う。 ナルトのもののほうが短い。 隣を歩くものの方が長い。 二つの影法師は石ころの転がる道を進む。 「忘れることなんて許さない。俺が許しても居ないのに許されるはずがない。」 ナルトは唯、言い続ける。 隣の影法師は何も言わない。 何も言わないことが返事のようだ。 何も言わないことが言葉の全てを肯定しているから。 けれど、その瞳は全てを許しては居ない。 返事をしないことは肯定。 けれど、沈黙が全ての肯定とは限らない。 言葉は肯定しよう。 唯、その行動の全てを肯定はしない。 行き過ぎた行動には否定さえする。 「乾いて、やっと出来たかさぶたを剥がしてやるのが良いんだよ。」 ガツンッ 爪先に弾かれた小石が転がる。 転がって、止まった。 それ以上動かない。 その小石に動く原動力がないから。 動かそうと外部からの力が加わらない限り。 その小石は動かない。 「何も言わないんだな。」 「何か言って欲しいのか?」 「欲しくない。」 「なら、要らないだろう。」 彼は何も言わない。 でも、それで良い。 何も言わないけれど、その瞳は否定しているから。 俺の全てを肯定はしてくれないから。 だから、隣に居て心地良い。 彼が自分を否定することで、俺のかさぶたはカサカサになって取れることはない。 彼が出来たかさぶたを剥がして、血が流れるから。 その血は見えないし。 剥がれたかさぶたは何処にもないけど。 心地良い痛みが広がる。 それが良い。 「じゃ、またね。」 「おう。」 別れの挨拶なんてそっけない。 でも、これが今生の別れでも変わらない。 そっけない挨拶で別れる。 たくさんの言葉は要らない。 これでも多いくらいなのに。 ふたりにたくさんの言葉は要らない。 二人の世界に言葉なんて邪魔なモノは要らない。 何がきっかけだったのかは定かじゃない。 唯、何処にでもきっかけは転がっていて。 今まで、それを無視し続けてきていた。 けれど、今回ばかりはそういうことにも行かなくなったから。 今、こういう現状が広がっているんだと思う。 それを、ナルトが望んでいるとか、居ないとか関係なしに。 俺たちは、多分、渦の真ん中にいるあいつを話から外して、蚊帳の外において、 それで平気で話を進めているんだ。 でも、あいつはそれを分かっていても止めたりしない。 止める必要が無いと思っているのか。 俺たちが蚊帳の外に追いやっているその場所でさえ、あいつにとっては蚊帳の中 の出来事なのかもしれない。 その真偽は、分からない。 それを判断できるあいつは今もそ知らぬ顔で川で遊んでいる。 下忍の連中と楽しそうに笑いながら。 任務はごく簡単なもの。 下忍にはうってつけの、川のゴミ拾い。 今は、昼休みだ。 元気な悪戯小僧の仮面を被って、あいつはみんなを巻き込んでいる。 それを悟らせない仮面の厚さといったら、剥がしても、剥がしても本当の貌には 辿り付けないくらいの厚さだ。 それがお前の本当の顔なのか。 それを知っているのはあいつだけ。 あいつだけがあいつの本当を知っている。 俺はナルトたちが川で遊んでいるのを木の根に座りながら見ている。 キバに水をかけていたナルトがこちらを向く。 右腕を大きく振りながら、大声で叫んだ。 「シカマルもこいってばよ!!!」 「めんどくせぇ。俺は昼寝すんだよ。」 「ワカドシヨリ!!!」 「言ってろ。」 漢字変換が正しくされていないであろう音を聞く。 耳に馴染んだ声。 いつからだったかは忘れた。 いつからかそばで聞くようになった声だ。 いつからだったかは覚えてない。 けれど、それは別に困らないこと。 俺の返事を聞いていると大きな水しぶきが立ってナルトはずぶ濡れになった。 ナルトに水をかけられて沈んだキバからの反撃だった。 頭の先から濡れたナルトは俺から視線を外すとキバに向き直った。 それから再開される水掛の攻防戦。 周りにいるやつらもあきれながらも参加している。 あいつの周りには何時も人が居て。 笑顔がある。 それが常になったのはいつの日からだったか。 殺伐とした空気は何処に行ったのだろうか。 何処に消えてしまったのだろうか。 忘れてしまった。 忘れさせられてしまった。 誰に? 仕掛け人のあいつに。 胡坐をかいた足の上に手を乗せる。 音もせずに隣に一人、人間が立った。 殺気だけで人が殺せるようなやつだ。 それだけの場数と実績のある人間。 木ノ葉一の業師、写輪眼のはたけカカシ。 正直、めんどくせぇ人間が隣に立ったもんだ。 出来れば昼休みぐらい静かに過ごしたいものだけど。 予定変更だ。 どんな減らず口を叩くのか聞いてやろうじゃねぇか。 なぁ、はたけ上忍? 「ね、シカマル君。そろそろナルトから手を引いてくれないかな?」 カカシの表情はあくまで笑顔だ。 シカマルの位置からでは確認できないけれど。 川で水を掛け合っているナルトから見てもただ、話をしている様にしか見えない ように。 そのカカシに合わせるようにシカマルも表情を変えない。 別に変える必要も無い。 「何の話しっすか?」 「とぼけないでよ。」 「マジで何の話か分かんねぇんすけど。」 「ホント、むかつく子だよね。君って。」 「どーも。」 殺気が増えたような気がするけど、カンケーない。 あいつを譲る気はない。 特にあんたにだけは譲りたくない。 だから、話は進まない。 進めない。 進めたところで何にも解決しない。 どうせ、意見は交わらない。 平行線のまま何処まで行っても変わらない。 寧ろ、途中から屈折して急速に離れていくだろう。 話をしていけばしていくほど、違いしか見えなくなっていく。 同じところなんてない。 あいつに関して、意見が合うなんて思わない。 思いたくもない。 思える事態が来るとも思えない。 「ナルトはあんたには相応しくない。」 顔を上げて顔の大半が覆面で隠れた銀髪の上忍を見上げる。 眉間に皺が寄った気がする。 多少、睨んでしまっている気がするがこの際、割愛だ。 そんな細かいこと気にするな。 見上げてみたが、それでもここからではその表情は伺えない。 伺いたくもないが。 ただ、こちらに向けられる殺気だけが異常なまでに増した。 しかし、それに気付く連中は居ない。 おそらく気付いたのはナルトくらいだ。 俺にだけ向けられた殺気。 分かりやすくて結構。 そのほうが楽で良い。 ほかに悟らせるくらいならこの方がこちらも楽で良い。 カカシは両腕を組んで木に凭れ掛かったまま、下を見る気配もない。 「言うね中忍風情が。」 カカシはおかしそうに静かに笑った。 一介の中忍が上忍で、元暗部に一丁前の口を聞くなんて。 そのアンバランスさ加減に笑わずには居られない。 しかし、それを上回る苛立ち。 小僧ごときにナルトの何が分かる。 「死にたいなら直ぐにでも送ってやるよ。墓場に。ま、死体なんて残らないけどね。」 カカシはシカマルの存在自体も許せない。 シカマルの存在がある限り、ナルトは自分のほうは向かない。 本当の意味で、俺の元に来ることはない。 今のナルトを占領しているのは、自分の足元に座っている小憎たらしい中忍だ。 こんな力もない、使えるのは頭だけの中忍の何がいいんだ? 分からない。 こんな中忍に何が出来るって言うんだ?? お前を敵から守ることも出来ないヤツが。 何も知らないやつが、ナルトを守れるはずがない。 もし、ナルトの秘密を知ったときその全てを許せるのか? こんな、青臭い餓鬼に。 シカマルは、溜息をひとつ吐いて口を開いた。 「あいつは、ナルトは全てを許して欲しいんじゃない。寧ろ、逆に全てを断罪して 欲しいんだ。そうして自分の存在を今に刻み付けたいんだ。」 きっと、俺の意見とカカシ上忍の意見は正反対だ。 あの人はきっとナルトの何でも許してしまいたいんだ。 当事者だったのだから。 その現場を見ているのだから。 誰よりも、ナルトを守りたかったのだから。 だから、その自分の罪を償いたいがためにナルトの罪を内包しようとしている。 内包して、罪を消してしまおうとしている。 カカシ上忍とナルトの罪で二つを当てあって罪を帳消しにしてしまいたいだけだ。 それは、優しさでもなんでもない。 単なる、エゴだ。 あの時、守れなかった自分を消したいだけだ。 そんなために、この人をナルトのそばに置きたくはない。 「あいつに必要なのは何でも許してくるやつじゃない。あんたみたいなやつじゃ ないんだよ。」 あいつが背負い込んだ罪は見ない振り、聞こえない振りで済ましていいものじゃ ない。 全てを許してしまうことはあいつにとって、何も生まない。 それはあいつの全てを否定すること。 罪を一緒に内包することは優しさじゃない。 そんな、上辺だけの優しさなんてあいつは欲しがってない。 犯した罪を裁いて欲しい。 裁いて、その罪の重さを突きつけてもらうことを望んでいる。 突きつけて、断罪されることを望んでいる。 「何言って・・・・・!!!」 カカシが言葉を紡ぎ切る前に川から声がかかる。 「カカシせんせー!!!任務再開だってばよっ!!」 両手を口のほうに持ってきてメガホンのような形をとっている。 それまでの殺気を霧散させるとカカシはナルトに向かって軽く手を上げる。 ナルトもそれに応えるように右手を大きく振る。 「俺、お前のこと認めないから。」 カカシは川原のほうに歩き出しながら捨て台詞をいった。 捨て台詞など負け犬がするものだ。 と、シカマルは思う。 それを言った時点で、カカシはシカマルには勝てない。 不敵に上がった口角。 シカマル自身も気付かない表情。 知っているのは誰か。 シカマルは自然と強張っていた身体をほぐすために伸びる。 上に伸ばした両腕を膝に下ろす。 視線は川原に向けたまま、 「まだ続けるのか?」 木の上に声をかける。 そこにいるのは金色の獣。 誰が見ても美しい獣。 いつからそこに居たのかなんて野暮なことは言わない。 俺とカカシの話をそこでずっと聞いていた。 ホントは、任務が始まったときからそこに居た。 川の中で任務を遂行していたのも。 川の中でキバたちと遊んでいたのも。 カカシに抱きつれてあたふたしていたのも。 みんな、ナルトの影分身。 良く出来た、ナルトの偽者。 オリジナルのレプリカ。 力の制御された良く出来た理想像。 里の望むドベのナルトの理想像。 そこにいるのは、偽者。 本物そっくりの偽者。 木の上の本物は、笑った。 それが本物であると断言する要素は何もないけれど。 けれど、これは、本物だと思う何かがある。 笑ったナルトは短く応えた。 「うん。」 「そうか。」 それを聞くとシカマルは腰を上げる。 ズボンについた草を払って川原に歩いていく。 ここに居ては、川の中のナルトが騒ぐだろう。 任務帰り。 道に伸びる影法師。 二本の長い影法師。 伸びて伸びて、いつかは切れる。 「いつまで続ける。」 「いつまでも。」 「何処までもか?」 「シカマルが俺のそばにいる限り。」 それは強い言葉。 人一人分の一生さえも簡単に縛ってしまえるほどに。 「俺が居なくなったら?」 顔を上げて隣を見やる。 そこには不敵な笑みがあった。 こっちの視線に気付いて顔を向ける。 「それはありえない。」 夕日に照らされてまた・・・・・。 そこには真っ赤な瞳。 燃える様な紅い瞳。 その赤に取り込まれる前に言葉を。 「分かんねぇダロ。もしかしたら俺はお前のそばから離れるかもしれない。」 「本当に?シカマルは俺から離れていく??」 「もしかしたらな。」 ナルトの声は明るい。 俺が離れていくことなどないと。 確信しているかのようだ。 そこまで確信させる何かが俺にあるとは思えない。 めんどくせぇことが嫌いな俺がどうして自分からめんどくせぇことに顔を突っ込む? それくらい、あいつだって充分分かってるはずなのに。 「多分、シカマルは俺から離れないよ。」 シカマルの心を読んだようなタイミングでナルトは笑った。 真っ赤な瞳がそういった。 燃える瞳がそういった。 「そもそも離す気ないし。」 「ひでぇやつ。」 何が可笑しかったのか分からない。 ただ、くすくすと笑う声が夕焼けに響く。 楽しいのか。 苦しいのか。 分からないような声。 「酷くても何でも。もう、そんなのどうでも良いし。」 「ナルト」 「シカマルだけ。」 どこか遠くから。 遠くから響くような声。 確認するように。 確かな何かを再確認する。 「シカマルだけで良い。ほかは要らない。欲しいモノは無い。」 シカマルは眉間に皺を寄せる。 俺以外、要らないと、隣を歩くやつは言う。 欲しいモノはないという。 けど。 本当に? 何も要らない?? そんなのウソだ。 だって、お前は・・・・もっと違うものを欲しがっている。 それは、欲しいものとは違うかもしれないけれど。 「欲しいモノはねぇけど、罪は咲かせたいか。」 「そうすればシカマルは一生、俺を罰し続ける。俺は自分の存在を維持できる。」 至極嬉しそうに笑う顔。 これ以上の幸せはないのだと。 シカマルに断罪されることが生きる証明だと。 それが、何よりも幸せなのだと。 自分を維持できる唯一のことなのだと。 こんなことで、維持されては困るのだけれど。 維持できないよりはましなのかもしれない。 維持が出来なくなったら困る。 壊れてしまったら困る。 存在がなくなったら困る。 俺が、困る。 お前のことなんてお構いなしに。 唯、俺が困る。 「歪んでんな。」 「シカマルもね。」 嗤う顔。 お互いにオカシクなってる。 それでも、これ以上もこれ以下もないから。 仕方ない。 仕方ない。 歪みと歪みが合わさったらどうなるんだろう? お互いに打ち消しあって元に戻るのか。 それとも、更に歪んでどうやっても元に戻らなくなるのか。 歪みすぎている。 これ以上なく歪みすぎている。 可笑しいくらいに。 不敵に上がった口角。 自覚した歪み。 互いに自覚している歪み。 「だな。」 これ以上なく、歪んでいる。 俺たちが。 そして、どうしようもなく、世界が。


長っ!! もしかしたら分けるかもね。 親切じゃなくてごめんなさい。

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