ash snow 05

「み…見つけた…はぁはぁ…」 人の気配がして、顔を上げる。 いるはずのない人がそこにいた。 「…ぎ…ん」 「ナル君」 ほっとした顔をして、銀次が砂の上に座り込んだ。 ソレを見たナルトがさっと顔を青くして叫んだ。 「こんな中、そんなカッコで出てきて何してんだってばよ!!」 ジャングルジムの上から、ナルトは飛び降りて銀次に走りよる。 そして、自分のマフラーで銀次の鼻と口をふさいだ。 「っ!?」 ばたばたと暴れる銀次に馬乗りになって、ナルトは、泣きそうな顔になる。 きっと、吸い込んでしまったに違いない。 俺なんかのために、この変な天気の中、走ったりするから。 一刻も早く吸い込んでしまったものを出すしかない。 少量なら、自分のつたない医療忍術でも十分のはずだ。 「俺なんかはいいけど、銀は耐性ないんだからっ」 「??」 「大量に吸い込んだりしたら……どうすんだってばよ」 ともすれば、泣き出してしまいそうになる自分を叱咤して、ナルトは息をつく。 そして、銀次に押し当てている手にチャクラを集めて、右手だけ肺の上にかざす。 もごもごと銀次が何か言いたそうにバタつく。 「蛮のやつは…何してんだってばよ…大事なやつ……ほったらかして」 「なーにやってんだ、お前」 必死なナルトの後から、呆けたような蛮の声が響いた。 その声に、はっとなったようにナルトが振り向き、睨みつける。 蛮は煙草を吸いながらこちらに歩いてくる。 その姿に罵倒しそうになるが、ナルトは銀次のほうに向き直って下を向く。 少し落ち着いた銀次にほっとして、肩の力を抜こうとすると、後から首根っこを掴まれた。 ぷらーん 蛮の右腕に、軽々と吊るされる。 「何すんだってばよ!!」 「それはこっちのセリフだ、このバカ。なぁに俺の銀次に馬乗りになってんだよ」 「よくそんな能天気なこと言えるな!この天気の中、こんな格好で銀のこと走らせて!」 「別に、平気だろうがよ」 「どこがっ」 何が平気なのか。 今降っているのが何だと思っているんだ。 灰だぞ!? お前みたいな奴はいいとして。 銀が灰を吸って無事なわけない。 蛮に吊るされた状態で、ナルトは喚いている。 それを見た銀次は服に着いた砂を払って立ち上がる。 「あぁ、もう、遅いよ蛮ちゃん」 「おめーが勝手に走って行ったんだろうが」 「だって、ナル君消えそうに見えて」 しょうがないじゃん。といった顔で蛮を見る。 まだ灰色の粉が降り続ける中、普通に息をしている銀次を見て、ナルトは静かに驚いた。 銀次にそんな耐性があるとは思っていなかった。 確かに、公園の周りを歩く人もこの中を普通に歩いていた。 もしかしたら、この町の人間は、この灰の中を歩いても平気なのかもしれない。 ナルトはおずおずといった感じで銀次に尋ねた。 「…銀、平気なのかってば?」 「何が?」 「灰なんか吸って…」 「灰?灰ってあの紙とか燃やすと出るやつ?別に灰なんて」 話が通じないことにイライラしてくる。 まるで、自分だけがおかしいみたいだ。 そんなわけないと、ナルトは空を指して声を張り上げた。 「いっぱい降ってるじゃんかっ」 その言葉に、銀次は大きな目をぱちくりとした。 ナルトの首根っこをつかんでいる蛮からも、ぽかんとした気配が伝わってくる。 やっとのことで、現状を理解した蛮がポツリと言葉を発した。 「おい、バカナルト。こりゃ、雪だ」 「こんな、灰色の雪があるってばよ!!雪はもっと白くて、こんな臭いなんかしないっ」 ナルトが蛮に吊るされた状態で暴れだす。 それを見ながら、銀次が不思議そうに蛮に尋ねた。 「ねぇ、蛮ちゃんコレって雪じゃないの?」 「雪だ、間違いなく雪だ。こいつが何と言おうと、全国的に雪だ」 その言葉を聞いてもナルトはまだ納得できずにいた。 だんだん面倒になってきた蛮は、ナルトの首根っこをつかんでいた手を離した。 もちろん、そのままナルトは地面にすとんと落ちる。 ただ、静かに。 「バカナルト。お前の言ってる雪ってのは空気が綺麗なトコの場合の話だ。ここの空気は 排気ガスとかで汚れてるから、その汚れが雪に付着して灰色になるんだよ」 「それって、雪が空気をきれいにしてるってこと?」 「そういうこった」 「ふ〜ん。俺、コレがずっと普通の雪だと思ってたから、そんなに汚れてるなんて思わな かった」 「最近じゃ、どこも空気が汚れてるから、そんなに綺麗な雪なんてお目にかかれねぇよ」 ポケットに手を突っ込み、タバコの箱を取り出して、蛮は一服し始める。 手がかじかんでいるのか、ジッポの火をつけるのに2、3回火打石がなる。 シュボッと音がして、すぐにカチンと蓋が閉じられる。 蛮の口から吐き出された紫煙は、空に上っていく。 ナルトはそれをほうけた顔で見ていた。 言われてみれば、この街で雪が降ればどうなるかなんて簡単な話だ。 なにを、感傷的になっているんだ。 軽いホームシックにでもかかったのか。 ナルトが銀次に笑いかけると、楽しそうに今年の初雪と戯れに行ってしまう。 残されたナルトは空に手をかざす。 手のひらに雪が乗って、ゆっくりと溶けていく。 ナルトは雪と遊んでいる銀次を見上げ、再び地面に視線を戻した。 「本当に、灰が降ってるのかと思った」 「ん?」 「灰の癖に冷たいし、手に乗ったら溶けるし。よっぽど嫌われてるのかと思った」 「んなわきゃねーだろうが」 タバコのフィルター部分をはじいて吸殻をおとす。 雪よりも灰色なそれは、地面に落ちても、溶けなかった。 「昔は、灰が降るのを見て息ができなくなった。俺が殺したんだって。けど段々、分からなく なって。息ができるようになる頃には、皆いなくなってたってば」 「そうかよ」 「でも、コレは雪だし。だから、もういいってば」 小さく、こっちで俺は誰も殺してないし、多分ね。と呟いて。 最初に出会ったときに不可抗力で誰かを殺しているかもしれない。 過剰に自己防衛本能が働いていない限りは、大丈夫だとは思うが。 本当に大丈夫かどうかは分からない。 見つかった場所が、ここに堕とされた場所とは限らないし。 また、体育座りの体勢になって顎を乗せる。 目の前ではしゃぐ銀次のようになりたい。 傷を持っていても笑える強さを。 ガツッン 音と一緒に、衝撃が後頭部に走った。 「っ!!」 たまらずに、頭を両手で抱えて蹲った。 顎を膝に乗せていたために、自分の膝から反動が顎にきた。 舌を噛まなかったのは、不幸中の幸いだ。 頭に手をやりながら、勢いよく振り返った。 自分をこんな躊躇なく殴る人間など、この場所には一人しかいない。 と言うか、思いつかないし、銀次なわけが無い。 「何すんだってばよ!!」 「ガキは元気に雪遊びしてればいいんだよ、あいつみたいに」 目の前には楽しそうに笑う銀次。 視線に気づいたのか、手を振ってくる。 「明日には、雪も積もってるだろうよ。雪合戦でもして子供らしくしてろ」 勢いを増してきている雪の中で、自分を見つけた。 こんな誰とも知れない自分を。 そんなもんなんだ。 世界なんて。 悲観するほうがアホみたいだ。 にやりと笑って、勢いよく立ち上がる。 「ぶつけてやるから、覚悟しとけってばよ!」 振り向きざまに、こぶしを突き出す。 明日が楽しみだ。 本当に積もったら、寒いとぼやいても連れ出してやる。 出てこない気なら、銀だけ連れ出せばいい。 「できるもんならな」 不敵に笑って、宣戦布告を受け入れた。 おまけ。 その後、3人はHonky Tonkに戻り、ナルトのおごりでコーヒーを飲んだ。 寒い中、付き合ってくれたお礼ということで。 波児からは、おごりだとホットサンドを頂いて。 「そういや、お前今日のバイトは?」 「影分身に行かせた」 「ナル君のそれって便利だよねぇ」 「当の本人は労働しねぇのかよ」 「いつもは影分身を残して行ってるってば。今日は特別」 「そうだ、バイト代少しは家に入れろよ」 「いれてるってばよ」 「「え?」」 「家賃、光熱費、食費、あと雑費。ちょっとずつ分からないように」 「な…なんだと…」 「うわぁ、気づかなかった。ごめんね」 「おまえら、ナルトに家計助けられてたのかよ」


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