異世界パラレル/子供ナルト&子供表遊戯/宿主と闇人格別体/ 表遊戯=遊戯 裏遊戯=<遊戯>
コトリと目の前に置かれたコップからは湯気がのぼっていた。 優しさが周りの空気に拡がっている。 冷めた心も温めてくれる。 殺伐とした荒野に、そっと花を咲かせてくれる。 そんな、気がした。 ニコニコと笑ってキッチンのテーブルに着いた俺。 目の前には同じくらいの背丈の恋人。 こんな幸せなバレンタインは初めてだと思う。 『ちっさいナルトとちっさい相棒』 そんなことを考えているナルトをよそに、遊戯は色々なお菓子を机の上に並べていく。 クッキー。キャンディー。マドレーヌ。 でも、今日の主役のチョコレートはなし。 別に、無くても構わないけど。 きっと、ラッピングして他の場所にあるんだって。 「飲まないの?」 遊戯の声が鼓膜を叩いた。 考え事をしていた頭を上げる。 渡されたホットチョコレートのカップを両手で持ったまま、飲まずに玩んでいた。 カップの縁を行ったり来たりしている親指は湯気で少し湿っていた。 遊戯はイスを引いて向かいの席に座るところだったらしい。 「遊戯を待ってたんだってば」 「気にしないで飲んでくれてよかったのに」 「そーは行かないってば、主人を放って飲むなんて出来ないってば」 「主人って、大げさすぎるよ」 照れたように遊戯は頬を指でかいた。 その仕草さえも愛おしい。 ころころと変わる表情がうらやましい。 俺のこの顔は作り物だから。 何の計算も無く、ただ、思うが侭の姿がうらやましい。 嘘で塗りたくられた俺の本当の顔を知ったらどう思うんだろう。 軽蔑されるだろうか? でも、きっと、遊戯はそんなことしない。 そう分かっているから安心して、その存在に胡坐をかいている。 でもまだ、それを悟られたくないから無害な少年を演じている。 いつかばれてしまう不安を胸のうちに抱えながら。 「俺は遊戯と一緒に飲みたかったの」 ぷぅと頬を膨らませて拗ねたモーションをとる。 これは子供の特権だと思う。 こうやって一生懸命気を引いて。 そうしなければどこかに行ってしまうと勘違いしてるんだ。 けれど、こんなことをやっていい年だとは思わない。 ってか、多分やってはいけない年だと思う。 「〜〜っかっわいいなぁ、もう!!」 向かいから遊戯の手が伸びて、ナルトの頭を撫でる。 優しい手。 決して大きくは無いけれど安心できる手。 危害を加えないその手は俺の好きな手。 優しさに包まれて至福の時を味わっていたがそれも長く持たなかった。 「相棒、俺にコーヒー入れてくれるか?」 「いいよ」 「すまない」 ナルトの頭を撫でていた手は離れていった。 <遊戯>のコーヒーを入れるために向かいにいた遊戯は立ち上がり、キッチン の奥に消えた。 …すまいと思うなら、自分で入れろよ。 幸せだった気分が一気に冷めた。 この腹いせはどうやってしてやろう。 俺のことを子供だと思ってると後悔するんだからな!! そして、そんなことは露知らず、見事に遊戯の隣の席をゲットした<遊戯>。 ナルトのゲージがマックスになるのも近い。 「相棒、後でデッキの調整手伝ってくれるか?」 「いいよ」 「ちょっと迷ってるカードがあってさ。意見が聞きたいんだ」 「君が迷っているのを僕なんかの意見が役に立つかな?」 「役に立たないなんてこと絶対ないぜ」 「ホント?」 「あぁ」 なんだかいい雰囲気の遊戯たち。 ナルトはそれを静かに見ていた。 遊戯がコーヒーカップを持って戻ってくる。 カップを受け取った<遊戯>はすぐにデッキの話を始める。 それをじっと見つめながらナルトは膝を持ち上げた。 勿論、遊戯に入れてもらったホットチョコレートを飲みながら。 デッキの調整の話に自分は混じらない。 ルールは分かってる。 カードの種類も覚えた。 いくつかデッキの候補だって考えてあるし。 対策だって色々構想がある。 でも、俺には入れない空気があるから。 だから、俺はやらない。 遊戯のことだから、俺を仲間はずれになんかしない。 <遊戯>だって、決闘のことなら喜んでやってくれると思う。 でも、俺はつまらない意地をはって、やらない。 ホットチョコレートの入ったカップを机においてクッキーを手に取る。 いつの間にか両足は畳まれてイスの上。 いわゆる体育座り。 膝の上に器用に顎をのせてクッキーをかじる。 なんか、しょっぱい。 このクッキーちょっと塩分多すぎるんじゃないの? あぁ、もう。 なんだか、どうでも良くなってきた。 チョコとかさ、いっそのこと何にも無かったみたいに解けてよ。 そしたら、渡すとか、渡さないとか。 貰うとか、貰えないとか。 はっきりさせることも無いしさ。 最初からないものなんて気にも留めないじゃん。 俺のことも最初から無いものにしてくれればいいのに。
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