異世界パラレル/大人ナルト&大人表遊戯/宿主と闇人格別体/ 表遊戯=遊戯 裏遊戯=<遊戯>
何がどうしてこうなったのかとかを問いただす気はいっさい無い。 けれど、理不尽に抓られた頬の痛さと。 このもやもやとした気持ちと。 どう頑張っても止まらないでいる頬を伝う何か。 それが涙だと気づかされてしまったらどうしようもなくなった。 いっそのこと抓られた痛みで止まってしまえばよかったのに…。 『ちっさくなったナルトとおっきい相棒』 元の席に着いたナルト、<遊戯>は互いに不機嫌だった。 ナルトは未だに泣き止まないし。 下ろされたと思っていた両足はまた椅子の上に畳まれている。 一方の<遊戯>は、ナルトの頬を抓った事を悪いと思っていないだけに理不尽 に怒られたと思っている。 その二人を見ていた遊戯は、どうしたらこういう状況になるのかと頭を抱えた かった。 すると、小さくなって泣いていたナルトの姿がボンという音と共に煙に包まれた。 その煙が晴れるとそこから現れたのは、小さくなったナルトだった。 5・6歳の時のサイズに戻っていた。 不釣合いな大きなコートに包まって本当の意味で小さくなっていた。 その姿に驚いたのは勿論、遊戯。 <遊戯>はその姿を視界の端に映すと興味なさげにまたそっぽを向いた。 「ど、どうしたの!?」 「どうもしない」 くぐもった声が響いた。 泣いているのかどうかは正直分からない声だった。 泣き声は聞こえなかったし。 嗚咽も、荒い呼吸も無い。 肩を震わせるでもなく、ただ、静かに蹲っていた。 外からの全てを受け付けないというような感じだった。 けれど、それを放っておいても何も解決しない。 「じゃぁ、顔を上げて?もう一人のボクがつねった頬を冷やさないと」 「腫れてないからへーき」 「そういう問題じゃないでしょ?」 「…顔、上げたくないっ・・・てばよ」 「わがまま言わないの。もういい大人でしょ、キミは」 「今は、小さいからいいんだってば」 「そういうのを屁理屈って言うの知ってるのかな」 言葉で何を言っても殻にこもっていく。 どうしようかと、遊戯はため息を吐いた。 できたら、ナルト自ら顔をあげて欲しい。 無理強いして顔を上げさせるなんて簡単だけれど、それで解決することなんて 本当に少ないのだと知っているから。 と、そんなことを考えている遊戯を知ってか知らずか<遊戯>が立ち上がって、 ナルトの椅子の後ろまで静かに移動していた。 その気配に気づいていないはずは無いのにナルトは微動だにしなかった。 「よっと」 という声と共に<遊戯>はナルトの脇の下に手を入れて持ち上げていた。 今の状態ではナルトよりも<遊戯>の身長のほうが高い。 ナルトを持ち上げた反動で椅子が床に静かに倒れた。 ブランと力なく持ち上げられているナルトは驚いた様子もなく、ただ項垂れていた。 抵抗するようにジタバタする事もなく、静かに吊るし上げられていた。 ぽたぽたと床に涙の粒が落ちる。 それさえなければ本当にナルトが泣いているのか分からなかった。 <遊戯>がナルトを持ち上げた時点で説得戦ではなくなってしまった。 それに遊戯はため息が出た。 けれど、いつ顔を上げるかも分からないナルトを辛抱強く待っているにも限界がある。 それを考えれば、正しい行動にも思えた。 (ボクには到底まねできないけど) 「もう一人のボクはどうしてそんなに、行動派なのかなぁ」 「いつまでこうしていても結果は変わらないだろ?」 「それはそうだけど…」 「こんなの構って貰えなくて癇癪起こしてる子供なだけだぜ」 「っ!!!!」 強い殺気を持った目でナルトは<遊戯>を睨みつけた。 瞳は涙に濡れて充血していた。 「お前なんかにっ!!」 ギリリと奥歯をかみ締めるような音がした。 目尻は泣きはらしたせいで赤いし。 ちっこいし、軽いし。 感情豊かでからかいがいがあるし。 「そうやってると相棒の次ぐらいには可愛いぜ」 この言葉には流石に涙が止まった。 <遊戯>の性格を知っているだけに似合わない台詞にぞっとした。 そのルックスだけを見て言われたら良いかもしれないが、そんなことは無かった。 お願いだからその言葉だけは言われたくなかった。 けれど、今はそんなことはどうでも良い。 「はぐらかすなよっ」 「言わなきゃ伝わらないことだってたくさんあるんだぜ?」 「分かってる!!」 「いや、分かってない。『構ってくれ』の一言も言えない奴がそんなこと言っても 説得力無いぜ」 睨みつけていた顔を伏せた。 そこにはいつの間にかこちら側に歩み寄っていた遊戯がいた。 目を合わせづらくて体勢が許される限りに首をひねった。 しかし、両手で頬を包まれ、無理やり視線を合わせさせられた。 その表情はとても柔らかくて、俺の大好きな表情だった。 止まっていた涙が、また頬を伝い始めた。 「仲間外れにしようとしたわけじゃないんだよ?」 親指の腹で優しく涙をぬぐっていく。 膝の上の蒸しタオル。 「……わかってる」 「うん」 「これは俺の…我侭だって」 「うん」 「…知って…る」 「うん。それでも、ごめんね」 「…ごめん…なさ…い」 ■□■□■□ 小さくなったことで、ナルトは<遊戯>の膝の上に座っている。 その向かいでは、屈んだ遊戯がナルトの顔を蒸しタオルで涙をぬぐっている。 見ようによってはホカホカ家族である。 父が<遊戯>、母が遊戯、子供はナルトといった感じである。 <遊戯>の膝の上にちょこんと座っているナルトは恥ずかしそうにしている。 忘れてはいけないのは、ナルトはもう立派な成人男性だということ。 変化して小さくなっているだけで、もう、こんなことをしてもらっていい歳ではない。 「はい、もういいよ」 「あ、ありがとう」 「ナルトもこんだけ小さいと可愛いよな」 「か、可愛いゆうな!!」 さっきまでの空気はどこに行ったのやら。 どこのほんわか家族のコメディーを見ているのかといった感じである。 遊戯が蒸しタオルを洗面所のほうへ片付けに歩いていってしまうと、ナルトは <遊戯>の膝の上から飛び降りようとした。 しかし、その行動を丁度お腹の部分で組まれた<遊戯>の腕によって阻まれた。 「<遊戯>もう手、離せってばよ」 「相棒とのこの擬似、家族ごっこをもう少し楽しみたいんだ」 「……」 さっきのあれが在っただけにナルトも強く出れない。 どうしたものかと考える。 とにかく、この腕から開放される方法を考えなくては…。 そして、ナルトは意外な行動に打って出た。
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