『暑い暑いと連呼していたら余計暑くなった』

盆を目の前にして里は夏の盛りを迎えていた。 何をしていても暑い。いや、何もしていなくても暑い。 極力動かないように努力していても汗が出る。 家の中は蒸し風呂。 そよ風さえも吹く気配を見せない天気。 しかし、仮に風が吹いていたとしても窓を開けようにも、開けられない。 開けるためにはあることが必要だった。 それは、開けようとする度に何処からとも無く襲ってくる殺気に付き合うこと。 もれなくクナイやら何やらの飛び道具つき。 そんな面倒なことをしてまで窓を開けるのもどうかと思う。 しかし、よくもまぁこの暑い中そんな馬鹿な事に目を光らせている暇人が居るものだ。 窓が開いた瞬間にでも殺してしまおうなんて。 もし、窓が開かなかったら開かなかったで特設サウナの中で苦しめば良いとか。 何処まで知能指数が低いのか。 馬鹿もここまで来ると何と言うか、天晴れだ。 この際はっきり言わせて貰うが俺はこれくらいの暑さじゃ死にませんって。 周りからは殺しても死ななそうだと言われているぐらいだから。 実際、俺自身も死なないんじゃないかと思うくらい生命力が強い。 それは、忍として強みになるのかならないのか。 取り敢えず弱点にはならないとは思うけど…。 しかし、この暑さはなかなか生気を殺ぐのに良いようだ。 ただでさえ、なけなしの体力で毎日を頑張っているのだ。 これ以上浪費しても仕方ないのに勝手にHPが減ってく。 夜になれば暗部の仕事が待っているのだから、できるだけ体力は温存しておきたい。 ならば素直に、部屋を冷やすべきか。 そのために窓を開けて……論外だ、論外。 じゃぁ、どうする? 部屋のなかを目配すと、部屋の壁の一角にクーラーが。 しかし、すぐにその存在から目線を外す。 悪いが、暑いからと言ってクーラーを付ける気はない。 まず、第一に電気代が必要以上にかかる。 それに省エネ用に改良される以前の品物だ。 燃費も悪いに違いない。 温暖化の道を順調に歩んでいるこの世界。 これ以上拍車をかけるような事はしたくない。 なんだかんだ言って、俺ってば『超』がつくほど自然には優しい人間だ。 その反動か人間にはすこぶる優しくない。 まぁ、周りも俺には優しくないからお相子ってことで。 と、色々と言ってはいるがクーラーを使わない本当の理由は、 部屋に備わってはいるが作動するのか? ということだ。過去一度たりとも使ったためしがない。 使う機会など無かったし、使わずとも生活して来れた。 今年のこの暑さが異常なだけで例年は大丈夫だった。 去年まで大丈夫だったのだ、今年だっていけないはずがない。 このまま、もう少し頑張ってみよう。 しかし、このまま暑さに一方的にやられているのも癪だ。 ここで無意味ながらも抗議を試みることにしよう。 「暑い。」 ささやかな抵抗終了。 言ったとこで涼しくなる訳でもない。 逆に、暑さが増したような気さえする。 馬鹿な事をしてしまったと思った。 後悔先に立たずとは良く言ったものだ。 が、何となく抵抗してみたくなったから意味もなく抵抗してみただけだ。 煩い。ほっといてくれ。 それにしても、暑い……。 頭の上で蝉が『これでもか!!』と短い命を振り絞って鳴いている。 網戸にへばりついて鳴くな。 もっとどっか遠くの木の幹にでもしがみついて鳴け。 俺の部屋のすぐそこで鳴くな。 全く、迷惑この上ない。 飛び立つ鳥後を濁さず。 死ぬときは驚くほど呆気ない癖に今は、その存在を誇張している。 ……まるで仮面の俺みたい。 誰かに認めて欲しくて、意味もなく、一生懸命で。 喚いて。 煩くて。 ウザイ……。 誰も見てくれないのに何頑張っちゃってんだか。 手ぇ抜いたって誰も気にも留めないし、誰も見てないんだから。 何も上を目指して修行する必要性だって無い。 今の状態でも、十分強いと思うし。 上には上が居るけど。 それだって、極わずかだ。 それにしても何が、 "火影になる!!" だ。一生かかったってなれる筈が無いのに。 所詮、狐は相手にさえされないんだから。 そんなことを望まずに、諦めてしまえば良いのに。 どうしてこんな面倒な性格に設定してしまったのかと悔やむ。 別にもっと楽な人生設定にすれば良かったのに。 シカマルみたいに平々凡々な生活送りたいとか。 そんなんで良かったのに。 何か、バカみてぇ〜。 今更そんなことを言っても仕方ないのだけれど。 あの時の自分に聞いてみたい。 聞くことが出来ないのならせめて助言だけでもしたい。 お前のその選択間違ってないか?後悔しないか? もっと、違う人生考えたほうがいいんじゃないか?って…。 バカだな…俺…。 『今更悔やんでも仕方ないだろう』 「煩いよ。居候」 急に頭の中に声が響いた。 空気の振動はなく直に能に響く。 自分勝手な居候は特に気を悪くした様子もなく、尊大に言ってのけた。 『宿代は払ってやっているだろう?』 「たまにね」 『いつでも出て行ってやって構わないのだぞ?』 「出て行けるなら出てけよ。そのほうが煩くなくて良い」 実際、この小さな人間と言う器の中に無理やり九狐を閉じ込めているだけ。 一生留めて置く事なんて出来っこない。 こんなでかい奴を死ぬまで俺の中に居させられたら、かなり凄いんじゃないだろうか。 もし、それが実現したら俺、器としての才能かなり凄いんじゃない? 嬉しくないけど。 確かに封印はしてあるが、完璧とはお世辞にも言えないだろう。 この封印式は凄い。凄いと思う。 なんせ、四代目火影様がその命をかけたものだから。 俺のチャクラと九尾のチャクラが混ざり合って使いこなせるように考えられている。 でも、それだけにいつか九尾にこの体を取られるか分からない。 多分、そんな時は来ないだろうケド。 『乗っ取ってやっても良いんだぞ』 「やる気ねぇーくせに言ってんじゃねぇーよ」 『確かに。居心地が良すぎるから手放すのは勿体無い。乗っ取ったら楽も出来ないしな』 「なら、大人しくしてろよ」 『してるだろうに』 「じゃ、黙ってろ」 …今のとこ俺と九重は仲良くやってる? 俺の体を貸す代わりに、九重は宿代としてチャクラを貸し出す。 ギブ・アンド・テイク。 持ちつ持たれつの関係で…。 ん?なんか矛盾してきたな。 まぁ、いいか上手く頭が働かないし。 いくら万能でも、高すぎる湿度と室温には耐え切れません。 俺がじゃなくて、植物達が…あぁ……枯れる…。 あぁぁああぁ。 何か、落ち着かない。 考え付くこと付くことマイナスな事ばっかだ。 意味無くイライラして体力と気力を浪費する。 暑さの所為でおかしくでもなっただろうか? 何か…ああ…もう…… ムカつく。 何に対してなのかは分んない。 自分で始めた癖に何か釈然としない。 今、ここには何かが明らかに足りない。 それが本当に必要なのかは良く分からないけど。 でも、今はそれが足りない。 ――――ついに、暑さにやられたか。 苦笑して重い体を無理やり起こした。 暑さで軋んだ関節が熱を発していた。 首筋を汗が流れ落ちる。 ベタベタして気持ち悪い。 しかし、その汗さえももうそろそろ出ないようだ。 いやぁ、凄い。 動くことを拒否し続ける体に鞭を打ってサンダルを履き、ドアを開け放つ。 一瞬、熱風が体を撫でた。 しかし、次の瞬間にはねっとりと体に纏わり付く粘膜に変わっていた。 途端にグラリと視界が揺らぐ。 赤とも白とも黒ともいえる視界。 さきほど開けたドアに背を寄り掛かけながら床までズルズルと崩れ落ちた。 熱中症に脱水症状。 しかも、極度の。 シカマルの口癖じゃないが 「めんどくせー」 とか言って給水を怠っていたのが仇になったらしい。 だって、動くのも億劫だったし…。 冷蔵庫って案外、熱発生してるから近寄ると暑いし。 水道水なんてぬるくて飲む気失せるし。 近所の住民には 「水道水飲まないで下さい」 とか警告出しといて、高濃度の消毒液ぶち込まれてたりしてさ。 俺だけ知らないで飲んで、長いこと苦しんで。 そんで、誰にも発見されずに死ぬ。 とかね。今のこのへたり具合ならそうなりかねない。 あはは。と乾いた笑い声。 だが、それも直ぐに止まる。 「…死ぬ…」 お世辞じゃないくらいに視界が霞む。 このまま此処で倒れてたら死ねるだろうか? 誰にも気付かれないで。 あ、でも簡単には死ねないか。 もし、仮にもこのまま死んだとしてもだ。 この暑い夏場に死んだとなれば死臭が辺りに立ち込めて…。 想像したくないが気持ち悪いことこの上ないことだろう。 近所迷惑も甚だしい。 …それだけは避けたい。 それにただの熱中症で死ぬのは悔しい。 カカシのヤローよりも先にくたばりたくない。 葬式の時に――挙げて貰えるかどうかは甚だ疑問だが――何を言われるのか考えただけでも、 背筋に鳥肌が立つ。 「…もう少し粘るかなぁ」 たまにはこういった抵抗をするのも良いかもしれない。 常に新しいことにはチャレンジするべきだ。 自虐的な笑みを浮かべて、動かない体に鞭を打って。 禁忌の森へと走り出した。


初エロが、まさかの長編。 ここに隔離した意味はそんなになかったりね。 ついに、18禁サイトの仲間入りを…。

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