この日は君が生まれてきてくれたともても大切な日。 だからみんなでお祝いしようって、何日も前から準備してたんだ。 だから、今年は逃げないで? 君にとっても、俺らにとっても大切な日なんだから。 ――――――――君が生まれた日。 年に一度訪れる、最高にして最悪の日。 いや、最悪にして最悪の日と呼ぶべきなのかもしれない。 10月10日。 俺の誕生日で。木の葉の里が、九尾に襲われた日。 里は壊滅状態にまで追い込まれ、四代目火影がその全てのチャクラと禁術を 使い九尾を俺の腹に封印した。 封印には生まれたての、まだ穢れていない、無垢な状態の赤子が必要だった。 本来、まだ生まれる筈ではなかった。 しかし、里の為に。外法を使い、無理やり、体内から取り出された赤子。 金色の髪に、青い瞳。四代目火影と酷似した顔立ち。 そう、この赤子は四代目火影の第一子だったのだ。 四代目火影も、この子が生まれるのを今か今かと待っていたのだ。 きっと、自分に似たとても可愛い子に違いないと。 大切に育てていくんだと。 絶対に手放したりなどしない。 自分の職務も忘れて、楽しそうに話すその顔は里一の実力者だとは思えなくて。 ただの、独りの父親にしか見えなくて。 そんな火影を微笑ましく思い。 平和な日が続いていた。 しかし、平穏な日々は脆くも崩れ去った。 九尾の狐による里の攻撃。 前触れがなかったのか!!と言われればない訳ではなかった。 だから、覚悟はしていた。 九尾が現れたとき四代目火影は最愛の妻を振り返った。 妻は、優しい笑顔でそこに立っていた。 その顔には全てを悟り、覚悟した一人の女性が居た。 今から自分がしようとしていることが、余りにも残忍で。 ごめんなんて、こんな言葉ごときじゃ償いきれやしない。 それでも、口をついて出てくる言葉はそれしかなくて。 「ごめん。」 真っ直ぐと、顔が見れているのか分らない。 視線が真っ直ぐと向けられない。 こんな事をしようとしている自分に、どんな顔で見ればいいのか。 しかし、妻は『いいえ。』と言って優しく笑った。 「貴方が謝る必要はありません。この子はこの里を守る英雄になるんです。誇ら しいことですよ。」 「……でも………」 「私の命は、常にこの里と共にあります。貴方の妻になった時から、覚悟はして いました。何を躊躇うのです。」 綺麗な笑顔には、全てを知っていて。 自分の命が今日、此処で散ってしまうことを知っていた。 服の上から何度も、愛しむ様にお腹を撫ですっと顔を上げ、視線を真っ直ぐに向ける。 「早くしなければ、この里がなくなってしまいます。四代目火影の名に恥じぬように。 さあ胸を張ってください。貴方の行動は何一つ間違っては居ませんから。この子が この里を救うのです。誇らしいことではありませんか。私は、この子を育てることは 出来ないでしょう。それでも、この子を見守ってゆきます。」 「……。ごめん。ありがとう…………。ね、この子の名前は何にしよう?」 「名前ですか?」 「うん。素直に、元気に育つように。そして、皆に好かれるように。」 「そうですね。何がいいかしら?」 「………そうだ!ナルト。ナルトにしよう!!」 「ナルトですか?面白い名前ですね。でも、良い名前だと思いますよ。ね?ナルト……。」 お腹の中の子に聞こえるように話しかける。この子にこの声が届いていることを祈って。 四代目は妻に近づくと優しく頬を撫でた。優しく、何度も何度も。 妻は優しく撫でる四代目の手を優しく両手で包んだ。 この人に触れるのもきっとこれが最後になってしまうだろう。 優しくて、笑顔がお日様のように温かくて、この人の妻になって良かった。 「ナルトをよろしくお願いします。この子の顔を見れないのは残念だけど。」 「きっと、可愛い顔をしてるよ。君似かな?」 「貴方似ですよきっと。」 「そうかな?でもさ、きっと僕達二人に似てるよ。」 「ええ。では、先に行ってますね。」 「うん。ありがとう。」 妻は優しく笑うと四代目に体を任せた………。 その数時間後、九尾は四代目火影の第一子 ナルトの腹に封印された。 13年前のあの忌々しい事件が起こってから、里ではこの日になると慰霊祭が 開かれるようになった。 たくさんのものが犠牲になり、悲しみも計り知れないものになった。 同じ境遇に陥った者達が、互いに慰めあい、どの家でも日が焚かれた。 死んだ者の魂を慰めるように、みなで酒を飲み、夜が明けるまで語らい。 一般の民間人は、民間人の間で鎮魂の宴を。 忍は忍の間で、鎮魂の宴を。 中忍以上のものはみなこの日の宴には強制的に参加させられていた。 暗部として里に貢献しているナルトもその例外ではなく。 慰霊祭の何日か前から仲間に絡まれては、しつこく宴の席来るよう言われていた。 しかし、10日の夜、いつまで経っても来る気配はなく。 ナルトの夜の顔を知らないものたちは、二つ名も、その本当の姿も知らず。 ただ、その雰囲気が、緊張感の漂っている感じが心地よくて。 里の忍なら、顔ぐらいは出すだろうと踏んでいたのだが。 その姿を見たのもはいなかった。 しかし、本当にナルトが居なくなったのは慰霊祭の前日から。 □ ■ □ ■ □ ■ 下忍の任務も終わり、カカシの口から解散の掛け声がかけられて。 いつもなら一緒に帰ろうと騒ぎ出すナルトが、 「俺ってば、今日用事があるから先に帰るってば!!」 バイバイ!!と元気に手を振って走り出した背中を唖然と見ながら、サクラは 固まっていた。 「ちょっと!!カカシ先生、ナルトに何かしたんじゃないでしょうね!?」 びしっ!と効果音つきでカカシを睨みつけるサクラ。 そして、無言ながらも、カカシを睨みつけるサスケ。 「ナルトに何かあると俺の事疑うのやめて欲しいなぁ〜。センセーショックゥ〜。」 めそめそといらん効果音と共にしょぼくれる自分達の上司を見ながら、当てが 外れてしまった。とサスケを見やるサクラ。 溜息をつきながら、コイツじゃないならなんなんだ? と考えを廻らせているサスケ。 何しろ、お目当ての金色の子供は、本人は無自覚だがかなりモテる。 金色の子の隣を狙うものは多く、同じ下忍のほとんどがその座を狙っているし、 担当上忍の熊も部下のことを牽制しながら、自分が乗り気なので手に負え無い。 何かと、世話焼きの万年中忍に至っては保護本能ゆえにか手元に置いて置きたがるし。 中忍試験以来、その人気は更に上がり。 砂の里の我愛羅にまで好かれてしまい。 その兄であるカンクロウも弟のことを抑えながら、自分も満更ではなく。 試験中に、『お前、面白いじゃん。気に入ったぜぇ〜』とからかい半分に言った。 しかし、その一言をバッカじゃないの?と言わんばかりのチャクラと共に、 『お前、面白くないじゃん?気に入んねぇ〜ってばよ!!』一喝された。 瞬間殺意も芽生えたが、そのまま一緒に試合を観戦していると自分の一言一言 を聞いていないようでちゃんと聞いて居て。 短いながらも、相槌を打っている。 何となく、『俺って、嫌われてないじゃん。』とか思って居て。 このまま、適当に過ごすのも悪くない。 そう思っていたが、いつの間にかその思いが違うものに摩り替わっていて。 弟、我愛羅と同じ道を進んでいた。 この兄弟以上に手に負えないのはその時試験の担当をしていた上官や、特別上忍。 ハヤテやイビキ、アンコはナルトの夜の姿を知っているから、どうやって試験中に 知り合いだとばれない様に笑いを納めようか。と思案していたのだ。 夜にしか会わない為、あの冷たい表情しか知らない者にとって、昼間のナルトの姿は 何とも言えず可愛い。 アンコに至っては、試験休みの間に廊下で抱きつき『こっちのほうも可愛いじゃ ないvv』と頬擦りしていた。 そして、その横でその光景を眺めていた特別上忍の面々。 (この人たちもこんな顔すんだ………) 素直に驚きを隠せずに居た。 こんな具合にナルト好きの輪が再現限りなく広がってゆき。 今では、止めようがなくなっていた。 □ ■ □ ■ □ ■ 「カカシ先生、明日はナルトの誕生日なんだから、うまい事ナルトのこと家の中から誘い出して、 私達が準備している間ナルトが家に帰ってこないように見張っててくださいね!!」 「分ってるよ。ちゃんとやっておくから。心配しないで。」 「後、時間に遅れないでちゃんと来て下さいね。カカシ先生の遅刻癖はいつものことなんですから。」 「俺って、そんなに信用ないワケ?」 「勿論です。」 まるでお母さんのように口うるさく、何度も念を押してくるサクラに閉口しながらも、飄々としているカカシ。 そのやり取りを見ながらなんとなく落ち着きのないサスケ。 「それじゃ、私は準備があるので。サスケ君一緒に帰りましょうvv」 「あ!俺は……。」 用事があるんだ。 と言い終わることなくサクラに腕を掴まれ引きずられてゆくサスケ。 「二人とも頑張れよ〜」と他人事のように手を振るカカシ。 しかし、二人がある程度先まで行ってしまうと、困ったように顔を顰めた。 サクラが言っていたように、明日はナルトの誕生日だ。 お祝いしてやりたい。 しかし、毎年この日を挟んだ前後の日、ナルトはどこかに雲隠れしてしまうのだ。 この追いかけっこもついに9年目に突入してしまった。 ナルトが暗部に入隊する前の年までは、難なく見つけることが出来た。 しかし、ナルトが暗部に入隊した4歳の誕生日以来、何故か見つけることが出来なくなってしまって。 里中を探したが、見つからず。 12日の朝になるとひょっこりと顔を出してくる。 今まで何処に行ってたの?と聞いても何処に居ようとも俺の勝手だろう。と冷たくあしらわれ。 年を重ねるごとに、理解者が増えてきて、皆で探すのだが毎年見つからず。 結局、誕生日当日に『おめでとう』がいえない。 「お祝いぐらいさせてよ。」 呟いた自分の言葉が何とも情けなくて。 今年こそは、この追いかけっこに終止符を打ってやりたい。 「気が早い気もするが、探し始めますか。」 捕まえてしまえばこっちのものだ。 取り敢えず、抱きしめて腕の中に確保してしまえば、後は力の差で押さえ込み。 所詮、並みの暗部より強いとはいえまだ子供、カカシの腕力には程遠い。 ほんの一瞬前までそこに居たはずの、銀髪の忍の姿はなく。 明日に向けてにわかに騒ぎ出した町だけがただ煩かった。
思いのほか長くなってしまったので。 何と、上中下に分かれてしまいました。 甲斐性なしでごめんなさい。次でちゃんとケリ付けますから。
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